ニュースリリース|トピックス| 2025年03月30日(日)
『月刊朝鮮』2024年2月号「特集;危機の朝鮮半島 科学者たちが話す韓国の核武装」
初期水準の核武装は2年、水準級核武装には10年以上が必要
・低級プルトニウム弾は18カ月、ウラン濃縮弾は43カ月かかる(核実験省略時)
・「遠心分離機」(P2級)開発と関連施設建設だけでも4~11年かかる(ソウル大 ファン・イルスン名誉教授)
・「核実験はシミュレーションで代替できない、投発手段によって実験すべき」(イ・チュングン博士)
・中国、韓国が核弾頭を持つには少なくとも2年はかかると分析
・原子炉級プルトニウムで核弾頭をつくることはできるが、不安定なものであり武器としては使用不可
・核開発人材は産業・学界の人材を集めてこそ可能…起爆装置を当面開発する人材はいない
イ・ギョンフン記者
「決心すれば1年以内に核武装が可能だ」(尹錫悦大統領、2023年4月28日、ハーバード大学での講演)
2023年、米国を国賓訪問した尹錫悦大統領はハーバード大学での講演で、「韓国は核武装をすると決心すれば、早い時に、さらには1年以内にも核武装ができる技術基盤を持っている」と述べた。これをめぐって、当時の韓国内では「可能だ」(6カ月以内)という首長と、「不可能だ」(速くても2年以上)という主張が行き交った。
科学技術分野の専門家の大多数は、「核武装は複雑きわまりない過程を経なければならず、1年以内に核兵器を確保することは不可能だ」と言う。取材のために接触した原子工学科の教授らは「核武装」という単語に触れると、「核兵器はまったく別の専門領域であり、簡単に、軽く話できる事案ではない」とまで言った。韓国の原子力専攻者の絶対多数は、原子力発電を勉強する。原子力分野の専門家でさえ口を慎もうとするこの敏感な分野をめぐって、韓国では文系出身の学者がメディアに登場して核武装の必要性をアピールしている。
韓国内の核専門家の意見を紹介する前に、海外が韓国の核武装能力を分析した報告書を取り上げてみよう。
ファーガソン報告書
2015年4月、チャールス・ファーガソン(Charles D. Ferguson)米科学者協会(FAS)会長は、不拡散専門グループに対し非公開で回覧した報告書「韓国がどのように核兵器を獲得し配置できるのか」において、韓国の核武装力量は十分にあり、基礎的な核武装に必要な時間を5年以内と推定した。
報告書では、韓国政府の核保有を「初期段階」(5年以内)と「初期段階以降」とに分けて明示した。初期段階は韓国が核開発を始めて、周辺国にシグナルを送り、非核化を圧力とする(外交的)過程を、初期段階以降は韓国が水準級核兵器を高度化する段階としている。
報告書には明記されていないが、核開発初期に必要な核物質を確保(年間プルトニウム50キログラム、核兵器約8個分)するためには、短くとも1年以上かかるものと推定している。
核武装は核爆弾(核弾頭)と投発手段を確保した状態をいう。大きく分けて、▲核分裂物質(原料、高濃縮ウラン、プルトニウム)、▲核弾頭デザイン(起爆装置)、▲核弾頭運搬システム(ミサイルなど投発手段)を保有しなければならない。
「ファーガソン報告書」は韓国がこの3つをすべて確保できる状況だと評価した。これに水素弾のような発展した形態の核兵器を作るために必要な重水素と三重水素も十分に保有しているとみた。また報告書は、韓国が核分裂物質を得るためには高濃縮ウラン(HEU)方式よりは、使用済み核燃料を再処理する方式でプルトニウムを活用した核物質を確保すればより速く、可能性も高い条件と分析した。
核弾頭の材料にはHEU(濃縮度20%以上)とプルトニウムがある。HEUは天然ウランのうち0.7%だけ存在するウラン235を遠心分離機などで濃縮したものだ。核兵器用HEUは濃縮度が90%以上を必要とする。原子力発電には濃縮度が3~5%である低濃縮ウラン(LEU、濃縮度が20%以下)を燃料として使う。
原子炉から使用済み燃料を再処理して得られるプルトニウム(PU239、純度93%以上)を核弾頭の原料としても使うことができる。
核・ミサイル専門家である韓国科学技術企画評価院招聘専門委員であるイ・チュングン博士によれば、核弾頭1個をつくるためには通常、プルトニウムは5~7キログラム、HEUは20~25キログラムが必要だ。理論上、1キログラムのPU239が完全に反応すれば、TNT19.5キログラムの威力が出る。これは長崎に落とされたファットマンの威力だ。
ウラニウム1個=天然ウラン2トン
ウランの核爆弾を1個作るためには天然ウランが約2トン必要だ。起爆装置の性能が優秀であれば、威力がより強くなる核弾頭を作ることができる。
「ファーガソン報告書」は、韓国が核武装をすれば、重水炉を私用する月城原発1~4号機(1号機は2019年に閉鎖)から核物質を確保するものと予測している。軽水炉とは違い、減速材と冷却水として重水を使用すれば、軽水ほど中性子を多く吸収せず、ウラン年竜王の中にあるウラン238をプルトニウム239に変えることができる中性子がより多く残る。これは中性子が衝突しプルトニウムに転換される量が多いことを意味し、プルトニウム239の含有量が高いということになる。
「ファーガソン報告書」は、韓国がプルトニウムの生産力を高めるために、重水炉から出てきた使用済み核燃料を「ピューレックス(PUREX)」方式で再処理する可能性が高いとみている。この方式は、抽出方法で化学工程を経て有効なウラン、プルトニウムを確保する方法の1つだ。この方式で1本当たり約1キログラム、年間約50キログラムをつくることができると考えられている。さらには、再処理専用工場を新設すれば、年間最高で800トンを再処理できるが、施設を用意するためには6カ月以上かかるものとされている。
「ファーガソン報告書」は韓国が核爆弾を爆発させる起爆装置に必要な技術は確保したと見ている。核爆発に必要な高爆弾などはハンファなどから用意できるとされている。そうしながらも、韓国政府が非核実験(シミュレーションなど)を何回行うのか、核開発を公言して実際に核実験を1回以上進めるのかを決定しなければならないとみている。実際に核実験を行えば、大規模探知網から核実験の兆候を隠すことは不可能に近い。最後に、核弾頭を搭載して運ぶ手段は十分にあると思われる。
「テロ用の低級プルトニウム弾の開発でも18カ月かかる」
「韓国が核武装するためには最短でどれくらい時間がかかるのか」。これを調べるために、原子力や核兵器の専門家を取材した。彼らはすべて工学専攻で該当分野の博士号を持っている。
ソウル大学のファン・イルスン名誉教授(原子核工学科)は、核弾頭を少なくとも1個保有する時点で、「テロ用の低級プルトニウム弾」は速くても18カ月(核実験を行う場合30カ月)、ウラニウム弾は43カ月(同55カ月)がかかると見る。ファン氏は韓国の重水炉の使用済み核燃料が約1万5000トン貯蔵されており、使用済み核燃料3トンを再処理すれば、プルトニウム9キログラム(6カ月)を抽出できるという。
しかし、原発で使用して残った使用済み核燃料はPU239の比率が80%以下、PU240が18以上だ。PU240の比率が高ければ、爆発を管理することが難しくなる。その威力も弱まる。ファン氏は核実験(1年以上かかる)を行えば、テロ用の低級プルトニウム核弾頭1個を持つために30カ月がかかるという。プルトニウム弾は必ず核実験を1回以上行わなければならない。一部のウラニウム弾(砲身用)は核実験を省略できるが、その威力は弱い。今まで核兵器を保有した国家は、すべて核実験を6回以上行っている。
以下の工程は、韓国がNPTを脱退し開発過程を遅らせる突発的な変数はなく、国家非常状況ということを仮定して最短の時間を推定したものだ。
▲再処理施設の設計・建設/核物質運送容器の設計・製作/ホットセル製作(3カ月)、▲再処理施設の安全性検証/核弾頭の設計(3カ月)、▲再処理施設の検証及び竣工/核燃料の移送/高爆装置の開発(3カ月)、▲使用済み核燃料の再処理(年間弾頭1個分)/高爆装置の検証(6カ月)、▲プルトニウムpit(核物質の中心部)製造/弾頭整形及び検査(2カ月)、▲核弾頭の組み立て(1カ月)、▲核実験(12カ月)。
前述した使用済み核燃料の再処理方法はPUREX(ピューレックス)だ。ウランとプルトニウムを分離するためによく使われる方法だ。しかし、韓国は韓米原子力協定により「再処理」はできず、ピューレックスを活用できない。関連技術を保有しているかどうかも確認されていない。使用済み核燃料再処理とウラン20%未満の低濃縮はすべてアメリカの事前同意を受けるように定められているためだ。韓国がこの技術を習得し適用するために必要な時間は含まれていない。
核弾頭1個にHEU20キログラムが必要
いまプルトニウム団ではない兵器級の核爆弾(プルトニウム純度93%以上)を持つためには、時間がどれだけ必要だろうか。1年以上追加で罹る。
兵器級プルトニウム(純度93%)は核燃料を短く燃焼した者を再処理しなければならない。通常の原発に使われる核燃料は、発電効率を高めるために長い間燃焼する。このようになればPU239の比率が落ち、PU240の比率が高まる。このため、それまで貯蔵された使用済み核燃料を使用できない。ウランを全量輸入する韓国が大量生産するために韓国構内のウラン鉱山を発掘し、精製施設を追加すれば、開発にはさらに数年の時間が必要だ。
高濃縮ウランは遠心分離機で天然ウランにあるU235とU238の微妙な質量差を利用して確保する。核弾頭1個にはHEUが20キログラム必要だ。
▲ウラン濃縮施設の設計/遠心分離機の設計/6フッ化ウラン(UF6)変換施設の設計(3カ月)、▲ウラン濃縮施設の建設/遠心分離機の試作品製作/UF6施設の建設(3カ月)、▲ウラン濃縮機器の設置/遠心分離機(P2級)全量生産/UF6供給/起爆装置の開発(6カ月)、▲ウラン濃縮及び遠心分離機の実験・稼働/起爆装置検証(12カ月)、▲HEU20キログラム生産(18カ月)、▲核弾頭組み立て(1カ月)、▲核実験(内爆型、12カ月)。
ファン氏は「核開発国家のケースを参考にすると、遠心分離機(P2級)の開発と関連施設の建設だけでも4~11年かかる」と指摘する。ウラン弾(HEU20キログラム)1個を確保するためには、P2級の遠心分離機が少なくとも800基(1年稼働させる基準)が必要だ。核武装は核弾頭だけではなく、投発手段も考慮しなければならない。
韓国の核武装。韓国的核武装をどのように定義できるのか。合同参謀本部で北朝鮮の核問題に対応していたチョン・ギョンウン(予備役陸軍中領、韓国戦略問題研究所専門研究委員)ソウル安保フォーラム(SDF)研究企画室長は、「韓国が核武装を行う瞬間、北朝鮮だけでなく周辺国を考慮せざるを得ない。戦術核だけでなく戦略核(威力はTNT数百キロトン)も持たざるをえない。投発手段(IRBMなど)も拡大しなければならない」と言う。
「韓国、投発手段がない」
投発手段については「全世界を相手にできる力量を兼ね備えるべきだ。敵が攻撃した後に反撃できる能力、『第2撃能力』(second strike)を持つSLBMなども確保しなければならない」と付け加える。
チョン室長は「国家的力量を集めれば初期水準の核武装は2年(5発以内)、周辺国のリスクに対応するため多様な投発手段を持つ状態である水準級核武装には10年以上かかるだろう」と予測し、「核物質を確保するためにも相当な時間がかかるだろう」と見る。
また、「開発期間は順次的なものと、並行できることを区分すれば、もう少しはっきりと推定できる。これもまた変数がもともと多い」という。
イ・チュングン博士は「投発手段を持たない状態は核能力を確保したり核武装を行ったと見られない。核武装に対する基準や評価が、その国が直面する環境と保有する投発手段によって変わってくるものだ。米国やロシアに適用される観点と、イスラエルのような国に適用される基準は変わるほかない」と言う。
――韓国は投発手段を持っていますか。
「いいえ、ミサイル用の核弾頭を開発したとしましょう。これは正常に稼働されるかどうかという試験評価を行って、これを土台にミサイルの改造も行わなければなりません。この期間はそうとう長くかかります。武器システムを統合する過程を経ずして投発手段を保有しているとは考えられません。この統合過程がどれだけかかるかわかりません」
「核実験は多ければ多いほどいい」
――核実験を何回行わなければなりませんか。
「多く、多ければ多いほどいいです。インドやパキスタンのように、一度の核実験で複数のものを密度を高めて行うやり方もあります」
――シミュレーションで代替できませんか。
「だめです。韓国のように戦術環境が複雑になると、多様化しなければなりません。多様なものを持とうとすれば、それに合う実験をしなければなりません。ここに投発手段が変われば、それに合うやり方で実験をしなければなりません。ミサイルに装着する核弾頭とSLBMに搭載する核弾頭ははっきりと違いますから」
――HEU方式はどれだけ時間がかかりそうですか。
「今のような状況において、HEUを選択すれば15~20年程度かかるでしょう。時間を節約したければ、URENCO(ウレンコ)で低濃縮ウランを持ってきたり、ウラン関連の多国的企業の持ち分を一部保有して活用する方法があります。運送物量も減り、環境汚染も低くなります」
――再処理方法方は?
「時間を節約しようとすれば、技術力が検証されたフランスの設備を導入するやり方があります。これまで朴正熙政権のときに推進された方法です。核物質の確保にかかる時間はさておき、原子力を規制する各種法律と住民の受け入れにおいて大きな影響を受けるものであり、事実上の施設稼働が厳しいと考えます。各種リスクと違法性を受け入れるとすれば、核物質の確保だけでも2年は罹るでしょう」
――国家の総力戦というレベルで決心すれば、6カ月あれば核武装をできるという主張があります。
「そんな主張が出るたびに、複雑な気持ちになります。とても危険な話ですよ。『決心すれば』という言葉が、いったいどんな意味があるのか。戦時には緊急性があり『マンハッタン計画』のように進めることができるでしょう。ところが、戦時にはわれわれの作戦統制権が米軍(韓米連合軍司令部)で移ります。平時に開発しますか? さらにとんでもない話ですよ。いま福島第1原発の処理水放流でも大騒ぎになるのに……」
――「ファーガソン報告書」の内容をどう見ますか。
「信頼しません。かえって中国が韓国の核武装の力を正確に分析していると思います」
「核武装論で原子力界が最大の被害」
――中国はどのように見ているのですか。
「核弾頭を持つためには、少なくとも2年という分析です。私もそれは合っていると思います」
――科学技術者の立場から核武装(論)をどう見ていますか。
「核武装論の最大の被害集団は科学技術者たちですよ。政界では核武装に賛成する世論が70%だと主張し、これを積極的に活用すべきだという話ですよね。国民感情も刺激して。その反対に、原子力界が最大の被害を受けてきました。不必要な疑いを買って、平和的な原子力研究にも制限を受けてきました。反面、日本は国際社会の信頼と協力を受けて、自由な研究と濃縮・再処理をすべて行っています。実利を得たわけですよ。私は核武装に反対でも賛成でもありません。このような状況で非科学的な早期核武装の可能性を主張して得られるものは何でしょうかね?」
「使用済み核燃料の再処理では兵器級の確保はできない」
核兵器分野で30年間働き、理論と実務を兼ね備えているA氏。彼は「原子力発電所で使用した使用済み核燃料を再処理して、兵器級のプルトニウム(純度90%以上)として使用した国はない。月城原発が貯蔵する使用済み核燃料を再処理して兵器級のプルトニウムを確保するという主張はうそ」と言う。A氏はこう説明する。
「プルトニウムにはクラスがあります。プルトニウム239、240、241、242。239や241は純度が93%以上であれば兵器に使えます。純度が60%であれば、原子炉に使用されるので『原子力級』と言います。原子炉級プルトニウムでも核弾頭を作ることはできます。ところが、爆発威力が小さく、かつ不安定なので兵器としては使えません」
「原子炉級プルトニウムには240、242が多く使われます。これらは中性子が自発的に発生して取り扱いが難しく、すさまじい崩壊熱が発生します。統制が難しい中性子が自発的に動き回るので、思いがけない時点に少しずつ爆発が生じます。これを防止しようとすれば、核物質を冷ますために核弾頭それ自体よりさらに大きい冷却装置をつけなければなりません。こんなもの、どうやって武器として使いますか? 月城原発にある使用済み核燃料を再処理して核兵器をつくるという主張は、基本的に原理も知らない状態で出る言葉ですよ。月城原発を活用するなら、新たな核燃料を残して用途に合わせて燃焼させなければなりません」
――それならば、兵器級のプルトニウムを確保するためにはどれくらいの時間がかかりますか。
「(国家の非常事態であり)人が死んでいってもかまわないというやり方をしても、核物質を得るためには3年はかかります。これも再処理施設の確保能力と再処理専門家がいるということを前提にして、です。3年の時間をかけても、得られるプルトニウム239はたった核弾頭1個分です」
北朝鮮が黒鉛減速炉を利用する理由
――北朝鮮はなぜ効率がそれほどよくない5メガワット級の黒鉛減速炉で核物質を確保したのですか。
「核燃料には『燃焼度』という単位があります。通常、核兵器に使用できる使用済み核燃料の燃焼度が1000MWDです。もし原子炉の出力を100メガワット(MW)で設定し、10日間稼働させれば、この使用済み核燃料の燃焼度は1000MWDになります。ところが、寧辺の黒鉛減速炉は5メガワットと出力が低く、燃焼度も低い。核燃料棒を一度挿入すれば2~3年ずつ稼働します。プルトニウム239は原子炉を長く稼働させればさせるほど多く生じます。核物質確保にはぴったりです。月城原発にある重水炉の使用済み核燃料は燃焼度が1トン当たり8000MWです。原子炉の出力が高ければ、それだけ燃料棒をしばしば交換しなければなりません。稼働時間が短いので、得られるプルトニウム239は少なくなるほかありません。英国もロシアも、黒鉛減速炉によって核物質を確保しました」
北朝鮮は黒鉛減速炉を活用して純度98%であるプルトニウムを確保する。黒鉛はウラン238と中性子の衝突を促進させ、プルトニウム239の生成量を増加させる。A氏は「黒鉛減速炉は少ない量のウランを投入してもはるかに多くプルトニウムができる。当初、北朝鮮が黒鉛減速炉を作ったことは、発電目的ではなく、核兵器用として活用しようとしたためです。大部分の核兵器開発国はプルトニウムを生産するための原子炉を作ります。韓国にはありません」と指摘する。
――軽水炉はどうですか。
「申源湜(シン・ウォンシク)国防相が前に、『北朝鮮が軽水炉から核燃料であるプルトニウムを生産する可能性は低い』と言いましたが、これは半分当たり、半分は誤りです。軽水炉からもプルトニウムを確保できます。ただ、投入する核燃料の量と比べて、プルトニウムはそれより少ない量しか得られないということです。韓国のようにウランが不足した国は、再処理よりはウラン濃縮方式が合っています」
ウラン、北は自主調達、南は全量輸入
――ウラン濃縮ではどれくらい時間がかかりますか。
「遠心分離機の性能によって、その期間は千差万別です。3年以内には可能ではないかと思いますが……。それでもたった1発分をつくるためにかかる時間です。われわれが抑止力を持つ水準の核武装をするなら、核弾頭の数量が十分でなければいけません。ところが、HEUを作るためにウランの輸入量を突然2倍、3倍に増やそうとすれば、外部から何をやるのかと疑われます。どうであれ、1発分はつくっても米国の黙認なしでは継続して製造できません。だからこそ、核武装が現実的に不可能だということです」
――韓国にもウラン鉱山があるではありませんか。
「すでに品質がよくなく、採算性がないことが明らかになっています。品質がもともとよければとっくに採掘されていますよ。北朝鮮は自国でウランの確保が可能ですが、韓国はないと考えればよいです」
――起爆装置は?
「核物質を確保する過程と並行すれば、時間を節約できます。ところが、起爆装置を作ろうとすれば、これが実際に作動するか実験が必要です。それも何回も。最初の核弾頭を完成させるためにプルトニウム弾基準で5年以上かかると思います」
――イスラエルは核実験をしませんでした。韓国も実験を省略できませんか。
「イスラエルはフランスが代理で実験を行ったというのが定説です。開発者の立場から核実験の回数は多ければ多いほどいい。どのような性能が生じるかを知ってこそ、修正も補完もでき、兵器として信頼性を持って実践に使えるからです」
公式的な核保有国の中で核実験が最も少なかったのはインドとパキスタンの6回だ。
――核開発の人材は十分ですか。
「韓国の産業・学会の人材を全部引き集めれば可能は可能です。乾式再処理方法である『パイロプロセッシング』を研究している人材が再処理に投入されれば可能です。ただ、起爆装置をすぐさま開発するだけの人材はいません。通常式弾頭を開発した人材と核を先行する彼らが集まって勉強して克服しなければならないでしょう」
「核武装、10発でも十分」
――核武装をするとなれば、数量はどれくらい確保しなければなりませんか。
「北朝鮮を相手にすれば10発あれば十分です。保有量が重要なのではなく、金正恩に抑止力を発揮できなければなりません。10発を保有するためには10年近い時間が必要でしょう」
――「ファーガソン報告書」が最初に明らかになった時から比べると、今はどうでしょうか。
「その報告書は価値がありますか? 変わったことがあるとすれば、北朝鮮の核ミサイルが高度化されたという程度? 韓国の核武装の潜在力は当時も今も、大きな変化はありません」
A氏は「核開発にかかる時間が計画よりもはるかに遅れることがあっても、短縮するのは難しい」という。投発手段については「玄武ミサイルなどを活用すればいい」と言う。そして「基本的な核兵器原理も知らない人たちが、国民感情を刺激している。核武装論の最大の被害者は科学者と国民、大韓民国」と指摘する。A氏の話だ。
「こんにち、世界的なレベルの原子力強国となったことは、不拡散体制からの恩恵を受けたためですよ。その恩恵を受けた韓国が今になって不拡散体制を揺るがすことは、信頼を毀損するほかありません。科学界ではない外交・安保分野にいる人たちが韓米原子力協定の改正と再処理、濃縮に言及することは、米国の立場からすれば『核武装をする』と理解します。これは韓国の科学技術の自律性ばかりを毀損するものです」
「6カ月あれば核武装は可能」の起源
福島第1原発の処理水放出に対し反対運動を行うソウル大学原子核工学科のソ・ギュンリョル元教授は、いわゆる核武装論者だ。多くのメディアに登場して「6カ月あれば核武装できる」と主張してきた。
ソ氏は2016年9月、「生存のための核武装国民連帯」発足式で、自分が核兵器の設計図面、3次元の図面を持っており、1兆ウォンの予算と研究人材1000人、技術人材1000人、1000万人の情熱があれば、核を開発できると主張した。6カ月の時間をくれれば原子爆弾、さらに6カ月の時間をくれれば水素爆弾、戦術・戦略核兵器を作ることができるとも主張した。またHEUを確保するために北朝鮮は20世紀の技術である遠心分離機2000基をつかったが、韓国は(約50坪規模の空間で)21世紀の技術であるレーザー照射すればよいとも述べた。そして韓国は化学工学技術がハイレベルにあり、使用済み核燃料からプルトニウム240をそのまま置いたまま再処理することなくプルトニウム239を取り出すことができるとも主張していた。これに、韓国にはサムスン電子があるのに、インドやパキスタンよりできないのか、北朝鮮に不動産がありその経済的価値があるためトランプ(当時の米大統領)が制裁できずにいる、恐れるものは何もないと述べた。
ソ氏はなぜ6カ月という時間に言及したのか。その疑問を、イ・チュングン博士が明らかにした。
『東亜日報』1977年5月26日付4面の科学欄には、米国が研究中だった原子法レーザー濃縮の動向に関する記事がある。個々に、「3.5日、HEU20キログラム生産可能」という文字がある。しかし、この技術はレーザーで金属ウランを増発させる方法だが、3000度を超える高熱に絶えられず、すぐさま放棄された。
2000年、韓国原子力研究所で電子銃でウランのごく少量を蒸気化してレーザーで濃縮する実験があった。3回、計10時間稼働して兵器級(濃縮度90%以上)には届かない右欄(約30%)0.2グラムを得た。これを休まずに1年間稼働しても、得られるウランは175グラムにすぎなかった。核弾頭1個を作るために必要なHEUは20キログラムだ。そのためには、このような設備が680台必要となる。このような設備を持つ国はこの世にはない。レーザー実験直後、米国など国際社会は韓国の核武装への世論を鎮めるために、時間稼ぎを行った。このため、関連設備もすべて廃棄され、例えそのまま設備が残っていたとしても不可能だ。
このように、1977年の記事と2000年の韓国研究陣のレーザー実験ハプニングが重なり、根拠のない「6カ月核武装説」が誕生した。
専門家らは、尹錫悦大統領のいわゆる「1年以内に核武装」という発言に対し、大統領室外交・安保ラインが科学的根拠も示せないまま核武装論者にかき回されている事件だと批判する。そして「国民感情だけを刺激する発言は、原子力の平和的利用にも否定的な影響を与える」と主張する。
