ニュースリリース|トピックス| 2025年01月09日(木)
ドナルド・トランプの米国大統領復帰は、2019年以降、悪化一途をたどってきた朝鮮半島情勢にも大きな影響を与えるだろう。とくに最優先的な関心事は、米朝首脳会談の再開かどうかだ。
これに対する見通しはまちまちだ。第1期トランプ政権の時とは異なり、第2期トランプ大統領の対外政策の優先順位において北朝鮮の核問題を含む朝鮮半島問題の比重は大きく低下している状況だ。
米朝首脳会談を積極的に支持・仲介した文在寅政権とは異なり、尹錫悦政権は対北朝鮮強硬策で一貫してきた。 また、第1期トランプ政権の時、米国は「朝鮮半島の非核化」、北朝鮮は「経済制裁の解決」という明確な目標があったが、今日では米朝交渉の目標が曖昧になっている状況だ。
何よりも金正恩政権が大きく変わった。多くの専門家は、このような点を挙げ、米朝首脳会談の再開の可能性を低く見ている。筆者も「米朝首脳会談が再開されるのか」という質問をよく受ける。筆者の予測は2025年には「中」程度、2026年には「高」だ。
もちろん、「ハノイノーディール」の事例からわかるように、会談が合意を保証するものではない。合意しても履行されるかどうかは未知数である。
板門店での会談でトランプ大統領は米韓連合訓練の中断を、金正恩委員長は米朝実務会談の再開を約束したが、米韓両国が連合訓練を強行し、約束が破棄されたこともあった。したがって、「シーズン2」のカギは、米朝接触と実務会談で「相互に満足でき、履行可能な合意」に達することができるかどうかにある。
米朝予備会談の成否が、首脳会談の再開の可否を決定づける可能性が高いということだ。
予測に劣らず重要なこともある。韓国が米朝首脳会談の再開・合意・履行のために努力するのか」という問題だ。この質問を具体化すると、かなりの論争を引き起こす可能性がある。
非核化が後回しにされ、核保有国としての朝鮮の地位が強化されたら? 米朝関係の改善と南北関係の悪化が重なる状況については? 韓国を排除して米朝平和協定の議論が浮上したら? 米朝間の合意が在韓米軍の撤退や大幅削減につながる可能性が高まったら?
おそらく尹政権をはじめとする極右・保守陣営はこれを意識して、米朝首脳会談に否定的な態度を示すだろう。中道・進歩陣営のジレンマも大きくなるだろう。それにもかかわらず、筆者は米朝首脳会談の実現に向けて努力すべきだと考える。
トランプは米朝首脳会談を推進するのか?
あまり知られていない事実がある。2018年の米朝首脳会談が成立した背景がそれだ。一般的に知られている内容はこうだった。金正恩は2018年3月に訪朝した文在寅政権の特使団に「米朝首脳会談開催を希望する」とし、韓国が米国にこのような立場を伝えてほしいと要請した。
これに対し、チョン・ジョンヨン安保室長がホワイトハウスを訪れ、トランプ大統領に金正恩のメッセージを伝えた。トランプ大統領はまるで待っていたかのように、その場ですぐに承諾した。しかし、遅れて知られた事実があった。米朝首脳会談を最初に提案したのはトランプ氏だったということだ。
内幕はこうだ。米朝間の危機が最高潮に達した2017年末、朝鮮は国連事務次長のジェフ・フェルトマンの訪朝を要請した。これに対し米国務省は「よい考えではない」と否定的な意見を述べた。
しかしトランプ大統領の考えは異なり、ホワイトハウスを訪問したアントニオ・グテーレス国連事務総長との面会で「ジェフ・フェルトマンは平壌に行かなければならない。そして、私が金正恩と会う意思があることを伝えてほしい」と要請した。
こう伝えられたフェルトマンは平壌で李英浩外相と会い、トランプ大統領の秘密のメッセージを伝えた。これに驚いた李は「信じられない」という反応を見せたが、フェルトマンは「私を信じてほしいということではない。私はトランプ大統領のメッセージを伝えることが国連職員としての役割であることを言っているだけだ」と語った。
このような内容は、フェルトマンが2021年2月21日付の英BBCとのインタビューで明らかにしたものだ。
トランプ大統領の秘密の提案が金正恩の判断にどのような影響を与えたかはわからない。しかし、米朝首脳会談の最初の提案者はトランプ氏であることは明らかになった。実際、トランプ氏は政界入りを打診し始めた2010年代初頭から、米朝首脳会談に一貫した信念を持っていた。2016年の大統領選候補当時にも、金正恩と会談する意志を強く表明していた。これをめぐって競争相手だったヒラリー・クリントン候補側から「親北主義者」と非難されても、トランプ氏はその信念を曲げなかった。
彼の思いは2024年の大統領選挙の遊説時にも続いた。彼は機会があるたびに、自分が大統領であった時に金正恩との首脳会談で戦争危機を解決したと強調した。7月中旬の共和党全党大会の大統領候補受諾演説でも「私は北朝鮮の金正恩とうまくやっていた。朝鮮のミサイル発射を中止させた」と主張した。
続けて「今、北朝鮮は再び挑発を続けている。多くの核兵器を持っている誰かと仲良くするのはよいことであり、私たちが再び会えば、私は彼らと仲良くなるだろう」と強調した。米朝首脳会談の扉を開く一つのカギを握ったトランプ大統領の意志は確固たるようだ。
トランプ大統領の当選後に出てきたメディア報道も、このような見通しを裏付けている。2024年11月27日付ロイター通信は、トランプ就任チームの事情を明らかにした複数の消息筋を引用して報道したところによると、「北朝鮮の指導者である金正恩と直接対話を追求する方策を議論している」ということだ。
この報道によると、直接対話の1次的な目標は「武力衝突のリスクを下げること」だという。ただし、「今後の政策目標や正確なタイムテーブルはまだ決まっていない」と付け加えた。
この報道で注目すべき点は3つある。1つ目は、トランプの引き継ぎチームが米朝対話を検討しているということだ。これは、米朝対話が後回しになるという一般的な予測とはまったく異なる動きだ。第2は、第2期トランプ対北朝鮮政策の初期目標が武力衝突防止のための緊張緩和になる可能性が高いということだ。これは朝鮮の受容性を高め、米朝対話再開の促進要因となる可能性がある。
第3には、第2期トランプ大統領の4年間に追求する対北朝鮮政策の目標がまだ決まっていないということだ。第1期の時のように非核化を目標にするのか、それとも北朝鮮の核凍結を含む軍備統制に絞るのかをめぐって迷走していると解釈できる。
このような内容を総合すると、トランプは任期初年度から米朝会談に向けた段階を踏みながら、首脳会談も打診するものとみられる。このような見通しを裏付けるように、トランプは2024年11月22日、第1期トランプ政権で国務省の北朝鮮政策特別副代表を務めたアレックス・ウォンをホワイトハウスの国家安全保障担当首席補佐官に指名した。
トランプは彼の抜擢の背景として「北朝鮮政策特別副代表として金正恩総書記との首脳会談交渉を手伝った」と説明した。
もちろん、相反する予測も可能だ。最も大きな根拠は、対北朝鮮政策自体がトランプ政権1期とは異なり、2期では対外政策の最優先事項とは言い難いという点にある。トランプが「24時間以内に終わらせる」と約束してきたロシア・ウクライナ戦争問題が断然優先順位だ。
これを反映するように、トランプは当選直後、ウクライナのゼレンスキー大統領とロシアのプーチン大統領と相次いで通話し、ウクライナ問題を議論した。
重大な岐路に立っている中東紛争の行方とトランプの介入意志も大きな変数である。トランプが力を集中すると公言しており、米国内で超党派的な合意の流れが強い中国との戦略競争は最も大きな戦略的変数に該当する。
これらの内容を総合してみると、2017年1月、トランプ大統領の就任当時、北朝鮮の核問題が最大のイシューとして浮上した時と現在の状況とは大きな違いがある。
このように、米朝首脳会談を通じて問題を解決するというトランプ大統領の信念と、優先順位の高いウクライナ戦争や米中戦略競争など、他の対外政策との間に矛盾は確かに存在する。しかし、これらの事案と北朝鮮政策は「連結された問題」である。これはトランプが国家安全保障補佐官に抜擢したマイケル・ウォルツの発言からも確認できる。
彼は6月20日、CNNとのインタビューで「トランプはロシアに武器を支援する北朝鮮にどう対応するのか」という質問に「出荷を遮断できる」と答えた。また、2024年11月24日のフォックスニュースとのインタビューでは、朝鮮の派兵が拡大の原因の一つだと指摘した。
さらに、彼が下院外交委員会所属議員として2023年4月に韓国を訪問した際には、「私は金正恩が台湾海峡紛争を機会と見て自分に有利に活用しようとする状況を懸念する。 それは世界にとって悪夢のようなシナリオになるだろう」と述べた。
トランプ大統領がウクライナ戦争を終わらせるためには、伏兵として浮上した朝鮮の対露武器支援と派兵問題も視野に入れるしかない。これと関連し、ウォルツ氏は議員時代には船舶の遮断と制裁強化など強硬な対応を注文していた。しかし、これは朝鮮との関係改善を追求するというトランプの立場とは大きく異なる。
これにより、トランプ大統領はウクライナ戦争が続けば金正恩氏との親密さをアピールし、北朝鮮特使の派遣などを通じて、朝鮮の対ロ軍事支援問題を解決しようとする可能性がある。この方法が、北朝鮮とのコミュニケーションチャンネルが完全に遮断され、苛立ちと懸念しか表明していないバイデン政権と明確な差別化を生み出すことができ、米朝戦争の終結及び米朝関係改善に一歩近づくことができるからだ。
また、米朝関係の改善が台湾問題など中国との戦略競争で優位に立ち、米国内で超党派的に出てきている戦略的懸念である「中国・ロシア・朝鮮・イラン連帯」を阻止することができると考えることもできる。
トランプの対北朝鮮アプローチの制約要件は他にもある。過去と現在、韓国と朝鮮の行き違いが代表的だ。第1期トランプ政権の時は、文在寅政権が米朝首脳会談の積極的な仲介者になったが、尹錫悦政権は北朝鮮への強硬姿勢から一歩も脱していない。尹政権が文在寅政権とは逆に、米朝会談を牽制する可能性が高いということだ。
また、過去には米国との関係正常化を最優先目標として首脳会談に臨んでいた金正恩政権は、対米交渉期限として提示した2019年が過ぎると、「安全保障は核で、経済は自力갱생と自給自足で、外交は中国・ロシア中心にする」という「新しい道」を歩んできた。朝鮮の戦略において、北米関係の比重が過去よりはるかに低下したのだ。
このように、トランプ大統領の対北朝鮮アプローチに関する尹錫悦の牽制と金正恩の無視が重なれば、米朝会談は外れるしかない。後述するが、より大きな変数は金正恩が応じるかどうかである。
1期目と比較すると、2期目の様相は大きく変わったことは明らかだ。韓国では行為者自体が変わり、朝鮮では行為者の考え方が大きく変わった。1期目では、南北米ともに朝鮮半島の非核化の追求という共通分母があったが、今日では同床異夢があまりにも大きくなった。
したがって、より強くなって戻ってきたトランプが対北朝鮮政策の目標をどこに置くかが非常に重要になった。
1期目と同様、非核化に目標を置けば、米朝会談は成立しないだろう。一方、朝鮮半島の緊張緩和とともに大陸間弾道ミサイル(ICBM)の制限など、北朝鮮の核凍結に焦点を当てる可能性もある。トランプ大統領が大統領選挙期間中、非核化に言及すらせず「核保有国の指導者とうまくやっていくのはよいことだ」と述べてきたことも、このような可能性を示唆している。軍備統制が米朝関係の核心議題として浮上する可能性があるということだ。
これと関連し、マイク・ポンペオの診断を想起する必要がある。彼はトランプ1期初期には中央情報局(CIA)局長を務めたが、米朝首脳会談の推進が本格化した2018年4月からは米国外交の司令塔である国務長官に移り、米朝会談の実務総括を担当した。
彼は2023年1月に出版した『The Never Give an Inch : Fighting for the America I Love』で、2018年6月に金正恩とトランプの初対面以降、北朝鮮の核実験や長距離ロケット発射がトランプの任期中はなかったとし、「これはかなりよい結果だった」と書いた。非核化という「完全な成果には達していないが、大多数のアメリカ人が歓迎できる成果だと思う」ということだ。
ポンペオが第2期トランプ政権で重用される可能性はなくなったが、彼のこうした評価はトランプ主義の核心である「アメリカ・ファースト」と軌を一にしている。
トランプの野心がノーベル平和賞受賞にある点も見逃せない。彼は大統領在任時に、米朝首脳会談を通じて朝鮮半島戦争、さらには世界第3次大戦を防いだとして、ノーベル賞受賞の資格があると強弁したことがある。
大統領選挙直前の2024年10月11日のデトロイトでの選挙遊説でも、「私がノーベル賞をほしいとかほしくないということは言わないが、バラク・オバマも2009年にノーベル賞を受賞した。なぜ私は受けられなかったのか」と野心を隠さなかった。このような嫉妬心がトランプ大統領の米朝首脳会談をはじめとする外交政策にどのような影響を与えるかも関心事だ。3期目に挑戦できない彼としては、ノーベル賞受賞で政治家としての業績として華やかに飾りたいと思われるからだ。
もちろん、米朝首脳会談自体でトランプ氏のノーベル賞受賞は実現しないだろう。最も大きなカギは、彼が公言してきたウクライナ戦争の終結の可否にある。これに加えて、トランプが朝鮮戦争の終結にも再び関心を持つかどうかも重要だ。
彼は最初の米朝首脳会談の直前に「人々は韓国戦争がまだ終わっていないことに気づいていない」とし、この戦争を終わらせることは「祝福」だと話したことがある。いわゆる「大人たち」を排除し、「忠誠派」で陣容を整えているトランプがこの問題に再び関心を持つようになるかもしれないということだ。
ウクライナ戦争の終結とともに、70年をはるかに超えた朝鮮戦争まで正式に終わらせることができれば、ノーベル賞に大きく近づくことができるだろう。しかし、その道は茨の道になるだろう。非核化の関係、在韓米軍の将来など、山積みの問題が待ち構えているからだ。
(2024年12月1日「プレシアン」、鄭旭湜)