ニュースリリース|トピックス| 2025年01月01日(水)
北朝鮮は2024年12月23日から27日まで、朝鮮労働党中央委員会第8期代11回総会拡大会議を開催した。党総会には、金正恩をはじめ党中央委員会委員・候補委員が出席し、党中央委員会部署幹部、省・中央機関・道級指導的機関の責任幹部らと、市・郡党責任秘書と人民委員長、主要工場・企業所の党・行政責任幹部、人民軍隊の該当指揮官らが膨張した。
労働新聞は「偉大なわが国家の富強発展とわが人民の福利のために、より力強く戦い続けよう」という題目で、党総会の結果を報道した。北朝鮮は2024年を「極めて難しい試練の中でも拡大成長した成果で満ちた変化の年、跳躍の年へ転換させた」と肯定的に評価し、2025年の党と国家政策目標を「国家の富強発展と人民の福利増進」として提示した。その推進方法としては「われわれ式社会主義が必勝不敗」という信念を持って金正恩の嚮導に従って自主、自立、自衛の道へ前進することで、結局、国連安保理による対北制裁が続く中で依然として自力更生を強調している。
今回の党総会は、7つの案件が出され、政治、経済、文化、国防、外交など2024年の事業を総括し、2025年の党及び国家事業発展の方向性と方略を提示した。主要案件は2024年の党及び国家政策総括と2025年の事業の方向性、新たな地方発展政策と今後の課業、国家の教育強化などだ。この三つの案件は決定書として採択された。そのほかの案件は党中央検査委員会事業評価、2024年国家予算執行決算及び2025年国家予算案の検討、党内機関事業の総括、党と国家機関の人事などだ。
6番目の案件である「党内機関事業について」では、具体的な内容を報道しなかった。しかし、この案件は首領唯一支配体制の構築、朝鮮労働党の支配強化、国家保衛・保安機関の活動総括、人民党勢の強化策などを議論したものと推定される。これについては、政治部門で2024年党総会及び政治局会議の報道、金正恩による演説、労働新聞の報道などを利用して分析する。
【対外部門】国益と安保のための最強行対米戦略推進
北朝鮮が党総会で提示した対外部門の主要事項は、国威宣揚と国益守護の原則の下、最強硬の対米対応戦略と親善的・友好的な国との関係発展を図るものとに区分できる。まず2025年の対外戦略は、最強硬対米対応戦略を提示した。2025年の対外戦略の主要目標は、米国の覇権的地位が弱まっている現在の国際情勢に合わせて、「最強硬対米対応戦略を協力に実施すべき」と提示し、対米外交に集中することを鮮明にした。米国は「反共をつねに国事としている最も反動的な国家的実態」とし、韓米日の協力は「核軍事ブロックとして膨張」している脅威として強調し、それに対する強力な対応を予告したものだ。
北朝鮮は最強硬対米対応戦略に対する具体的な方向性と内容について提示しなかった。北朝鮮はトランプ新政権の対北政策が具体化するときまで、具体的な強硬策を示さず、あいまいさを堅持する可能性がある。しかし、自らが満足するだけの対北政策が出てこない場合、最強硬対応戦略を実行するものと予想できる。北朝鮮はトランプ政権発足以降、米朝対話と核交渉の優位を占めるために、外交的手段よりは軍事的圧力をかけようとする可能性がある。
北朝鮮は米国の朝鮮半島での核戦略資産の展開や韓米合同軍事演習などに対する反発を継続する一方、米朝対話と核交渉において優位を占めるために軍事挑発手段として、7回目の核実験を行うこともありうる。2025年にもウクライナ戦争、中東紛争など国際情勢の不安が継続すると予想される状況において、北朝鮮は米国に対する核攻撃による脅威を極大化し、米国に対する核攻撃ができるという能力と意志を誇示するための目的として、核実験のような強力な対応戦略を推進する可能性がある。
また、北朝鮮は党総会で「国家の尊厳と国益を尊重する親善的で友好的な国との関係発展を積極的に図る」と述べ、ロシアや中国だけでなく北朝鮮と友好的な立場を持つ国家との関係改善を主張した。北朝鮮が2024年、ロシアと「包括的な戦略的パートナーシップ関係に関する条約」を締結して強調した「自主的で正義の多極化された世界秩序」を樹立するため、グローバルサウス国家の関係改善のための積極的な外交戦略を推進するものと思われる。これに金正恩は、2025年5月にロシアの戦勝記念日80周年に参加し、プーチン大統領だけでなく親善的で友好的なグローバルサウス国家の首脳たちと会い、自分に有利な陣営を構築し、最強硬の対米対応戦略のエンジンを確保するための外交的手段として活用する可能性がある。北朝鮮はグローバルサウス国家との協力を強化し、相対的な外交的孤立状況を打開し、米国に偏らない国家に対する連帯と協力を強化する反米連帯をつくるものと思われる。また、国際社会において米国の影響力が弱まった多極的国際秩序の構築を促進させ、自らの体制安全と利益を図ることに集中するという意志を持っていると思われる。
【対南部門】対米戦略の下で差別化された対南戦略を推進する可能性
労働新聞は、対南部門都関連した内容をほとんど報道しなかった。これは2023年12月末に行われた党中央委員会第8期第9回総会に関連した報道とはまったく違う状況だ。北朝鮮が同第8期第11回総会で韓国と関連して議論したと公開した内容は、「米日韓同盟が侵略的な核軍事ブロックとして膨張しており、大韓民国が徹底した反共前哨基地として戦略化された現実」「米国と追従勢力の反共和国軍事的挑発策動に対処し」などが事実上の全部だ。これは一部が観測しているように、いわゆる「12.3戒厳」以降、対南関連言及をできるだけ出さなかった北朝鮮の態度が、党総会まで続いている可能性を排除できない。
とはいえ、これを根拠に北朝鮮が党総会で対南部門と関連してほとんど何の議論もしなかっただろうと断定するのは難しい。北朝鮮が金正恩の「結論」に立脚して「2025年度闘争課業の徹底して、正確な実行計画」を樹立するために、2日にわたって行われたと明らかにした分科別の研究や協議会の中で、対南部門と関連した形態も確認できるためだ。労働新聞が報道した写真を見ると、李善権・党中央委員会10局長(旧統一戦線部長)とキム・ヨンチョル元党中央委員会統一戦線部顧問が出席した中で、党総会で党中央委員会政治局委員として任命された崔善姫外相が主宰して、「対南及び対外分科研究及び協議会」を開いたと推定される。これは北朝鮮が党総会で対外政策の一環として対南政策を扱った可能性を示唆するものだと言える。すなわち、北朝鮮が党総会で2025年に推進する対南政策の実行計画を議論したが、労働新聞を通じてはごく制限的にだけ公開されたものと推定される。
北朝鮮が制限的に公開した党総会での対南政策関連議論の内容と、党総会関連報道を通詞「国益」「主権的権利」などを繰り返して強調したという点を考えると、北朝鮮が2025年「国益と安保のための最強硬対応戦略」を鮮明にした対米戦略を推進する中、これの下位戦略の一環として対南戦略を推進するものと展望できる。また、韓国内の情勢変化にどう対応するかに腐心するだろう。
【軍事部門:ロシア支援及び派兵局面管理モード、情勢の不確実性の管理】
具体的な国防力課業を省略、今後不確実な情勢に対応するレベルで調整
2023年12月に開催された党中央委員会第8期第9回総会では、国防部門を最大成果として強調し、国防力発展五カ年計画の4年目の目標を達成するための8つ部門の細部課業も提示する積極さを見せたことがある。しかし、今回の党中央委員会第8期第11回総会では、国防力発展計画及び国防関連の具体的な課業について言及がないことが特徴だ。
ウクライナ戦争への北朝鮮軍派遣、トランプ新政権の発足、韓国の政治状況など対内外的な情勢の不確実性と変動期という情勢を運用するための行動空間を確保するというレベルで、今後展開される米国の対北政策、情勢変化などを念頭に置いて、あまりにも好戦的で具体的な計画を明らかにすることを自省した可能性がある。おおよそ、対外・対南政策の具体的な発表を留保し、現状管理・維持を中心とする経済政策、派兵及び情勢の変動による軍の同様遮断(敵対意識、主敵観、決戦意志)などに焦点を合わせるものと思われる。
国防部門の成果及び核武力言及を省略、防衛的戦争抑止力に焦点
今回の党総会では国防部門の成果について「新たな戦略的抑止力の実態を誇示」し、「国防科学技術力の無限大の発展潜在力と現代性、無視できない国際的地位を世界の前にしっかりと見せ」たと言及するレベルにとどまった。ここに置いて、「新たな戦略的抑止力」は2024年10月31日に発射した「火星19」型を指すものであり、既存の党総会で数回国防力の強化における成果として「核武力」増強を羅列していたこととは違い、核関連で直接的な言及を避け、迂回的な表現にとどまった。
おそらく、北朝鮮の労働新聞は金正恩の「加重される米国と追従勢力の反共和国的挑発策動に対処し、国防科学技術の持続的な進歩と防衛産業の急進的な発展により、自衛的な戦争抑止力強化」と関連した課業を提示したことだけを報道した。全般的に、ウクライナ戦争への北朝鮮軍派兵で国際的に注目されている状況と、トランプ新政権の対北政策の不確実性、韓国の政治状況などを意識し、対外的に積極的な核兵器イシューを取り上げることを意図的に避けたものと思われる。
北朝鮮軍の派兵、経済動員による軍の同様遮断のための政治思想事業の強化
今回の党総会の軍事部門の報道において注目すべき部分は、「政治思想強軍化を軍建設の第1の戦略的課業として提示」し、「透徹した対敵意識と絶対不変の主敵観、徹底した決戦意志」を注入するため、「しそう事業を攻勢的に展開」することを強調した部分だ。通常、これまでの脈絡を見れば、「対敵意識」は韓国や米国、「主敵観」は主に韓国、「決戦意志」は包括的に韓国や米国だけでなく、ウクライナ戦争に派兵されている軍にも当てはまると言える。軍に対する政治思想事業の強化は、攻撃的な意味よりは北朝鮮と関連したいくつかの情勢と状況へ発生しうる軍の同様の可能性を有料した措置だと言える。
派兵後、北朝鮮軍の死傷者が発生したという報道が相次いでおり、関連内容が北朝鮮内に流入する可能性があるという点で、北朝鮮当局としては民心と軍心の動揺を心配しうる状況だ。また「地方発展20×10政策」を推進することで、地域に駐屯している軍人が大挙動員されており、軍の疲労度が累積した状況と、韓国の政治状況に対する情報流入可能性などを念頭において、軍の同様などを遮断するための一環と思われる。
ウクライナ戦争への派兵、朝鮮半島局地戦に備えた戦争遂行能力の向上を強調
今回の党総会で金正恩は「現代戦の要求と様相、変化する敵の戦争企図と遂行方式に対処し、われわれ式の戦法研究を深め、作戦指揮と情報化、現代化の実現に今後も拍車をかけ、科学的な訓練形式と方法を普段に研究・適用」することを強調した。続いて、「民防衛部門の戦争準備を抜かりなく行う為の事業を継続して推進」することも強調した。
現代戦に対応するための戦法、作戦、情報、科学化を強調したのは2024年下半期になって唯一強調する内容であり、ウクライナ戦争への派兵を通じて現代戦の経験を蓄積し、朝鮮半島における偶発的な戦争状況に備えるものと思われる。またドローン戦、情報戦、電子戦など最近のウクライナ戦争と中東紛争で確認される変化した戦争遂行方式に対する北朝鮮の関心を見せるという側面がある。
【政治部門】人民大衆第1主義を掲げ民心掌握に総力
人民統制は金正恩政権の存続に決定的な影響を与える核心課題である。人民が背を向けた政権は、安定的に権力を維持することができないからだ。北朝鮮は2025年にも人民統制を核心課題として掲げた。北朝鮮の人民統制は二重的だ。北朝鮮は、民心の離反を防ぎ、金正恩と党に対する人民の支持を得るためにニンジンとムチを使うからだ。一方では、経済発展による人民の福利増進を掲げ、他方では人民統制を強化する。
今回の党総会では、民心離反を阻止し、人民の支持を得るため、人民大衆第1主義を掲げ、人民の福利増進を目標に掲げた。党総会で人民の福利増進を図るために提示された核心事業は、国家経済発展5カ年計画と「地方発展20×10政策」である。金正恩政権が人民の支持を得るためには、少なくとも人民の衣食住問題を解決するほど経済を発展させなければならないからだ。
とくに「地方発展20×10政策」は別途の案件として扱われるほど、金正恩が提示した核心的な主力事業である。金正恩は2025年に「地方発展20×10政策」をさらに進めると予想される。北朝鮮は2024年に地方工業工場建設、農村住宅建設、水害復旧及び水害被災者支援などを推進した。北朝鮮は地方人民の相対的な剥奪感を解消することで、政権に対する不満を和らげるために努力する指導者の姿を演出した。とくに金正恩は平安北道、両江道、慈江道の水害復旧及び水害被災者支援事業を何度も現地視察した。水害復旧期間中、平壌で被災者を保護した。農村生活住宅建設は、2022年から2024年まで全国的に4万4000世帯の農村住宅を建設し、2024年末までに11万3700世帯を建設完了させる予定だ。2025年には、全国の市・郡に保健施設と複合型文化センター、糧穀管理施設など3つの必須対象建設を追加で提示した。
第6の議題である「党内機関事業について」では、党の司法機関と国家保衛省・人民保安省などの事業を点検し、人民統制を強化する方法に対する対策を樹立したものと思われる。北朝鮮では、国内における最大の政治的挑戦は、韓流など外部情報が流入することで親南化が広く拡散することだ。北朝鮮は2020年から外部の情報の流入を防ぐために反動思想文化排撃法、平壌文化語保護法、青年教養保障法、国家機密保護法などを制定し、外部情報の流入と拡散行為に対して協力に処罰してきた。また金正恩は人民の対南敵愾心をそそのかし、親南化を根絶する目的で南北を2つの民族、2つの国家として規定して南北関係を断絶した.今回の党総会では、外部情報の流入・拡散の実態による親南化の深刻さを分析し、党組織と公安機関がこれを効果的に党勢する方法について協議しただろう。2025年にも金正恩と党に対する人民の反発を防ぐために、南北関係の断絶を継続しながら強力に人民を統制していくだろう。
金正恩の偶像化と首領の絶対的権威の確立
党総会で5番目の案件である「党内機関事業について」では、首領唯一支配性を構築するために、金正恩は偶像化と絶対的権威を確立する方案を扱っただろう。党総会に関する報道において具体的に言及されていないが、2024年の労働新聞や朝鮮中央通信の報道によって、評価と展望を提示できる。
北朝鮮は2024年に金日成・金正日の偶像化を縮小し、金正恩の偶像化を拡大した。これは金正恩政権が金日成・金正日の絶対的権威を活用する統治から抜け出し、金正恩の絶対的権威を構築し、これを基盤とする統治へ完全に転換したという意味だ。今回の党総会では、金正恩は主体革命の傑出した首領と表現された。また金正恩は、高麗連邦制と民族解放人民民主主義革命を骨子とした金日成・金正日の統治・対南戦略を廃棄し、2つの民族・2つの国家論を提示した。「地方発展20×10政策」は、金正恩が提示した主力事業だ。党総会ではこの政策をわが党と国家において相当以来の、建国以来初めてとなる事変的決断であり、前例のない膨大な創造闘争だと規定した。
金日成・金正日の偶像化の象徴が大挙して廃棄され、金正恩の偶像化の象徴が目立つようになっている。金正日が金日成の統治業績を記念するために建立した祖国統一三大憲章記念塔が撤去された。金日成の偶像化の象徴である太陽節は4.15へ変更され、主体年号を廃止した。金正恩の肖像が党中央幹部学校革命史蹟館の外壁に、金日成・金正日と並べて掲げられた。
北朝鮮は2025年に金正恩偶像化をより拡大するだろう。まず、金正恩革命思想が強調される。金正恩革命思想は、金日成・金正日革命思想を継承・発展させたものとして宣伝される。また党員と人民は金正恩のことば、党文献、党政策を学修士、実践・活動に具現することを要求した。金正恩の偶像化の象徴物も増えるだろう。幹部らは金正恩肖像徽章を普遍的に着用し、国家機関と施設で金正恩の肖像画・銅像も増えるだろう。
ロ朝軍事協力関連の人士が大挙して昇進
7番目の案件である組織問題については、いくつかの特徴がある。金徳訓内閣総理は党中央委員会書記兼経済部長へ異動した。金徳訓は常務委員会委員から退いたが、党中央委員会書記兼経済部長に任命されたことは、内閣を指導しながら国家経済発展5カ年計画を完遂し、次の段階の経済発展政策を立案・執行する中心的役割を行うだろう。内閣総理には朴泰成・科学教育書記兼国家宇宙科学技術委員長が任命された。朴は組織指導部副部長、平安南道党委員会責任書記、最高人民会議議長、党中央委員会書記兼宣伝扇動部長などを務めた。朴は党常務委員会委員として、国家経済発展5カ年計画の実務を総括するだろう。
今回の人事で特異なのは、キム・ジョングァン国防省第1副大臣を内閣副総理に任命したことだ。軍出身が内閣副総理に起用されたのは、とても異例である。これは国連安保理による経済制裁が続いている状況で、北朝鮮の自力更生による経済発展政策が軍隊に依存していることがわかる。金正恩は党総会で軍人建設者らが地方発展政策の実現において前衛に立っていると明らかにした。今後、キム・ジョングァン内閣副総理は国家経済発展5カ年計画と地方発展政策を推進する過程において、内閣と軍部の緊密な協議と協力を強化することにおいて中心的な役割を果たすものと思われる。
もう一つ、今回の人事で特徴的なのは、ウクライナ戦争への派兵、ミサイル・軍需、ロ朝軍事協力に関連する人物が昇進したことだ。先任政治局委員となったリ・ヨンギル総参謀長、崔善姫外相、ノ・グァンチョル国防相、キム・ヨンボク特殊作戦軍司令官は、ロ朝軍事揚力とウクライナ戦争への派兵に関してロ朝の軍事協力と米国の覇権を牽制し、北朝鮮の国際的地位を高めたという功績が認められたものと推定される。ウクライナ戦争への派兵は、現場で管理するものと思われる特殊作戦軍司令官であるキム・ヨンボクは、党中央委員会候補委員に転任し、ロ朝軍事協力・軍需支援関連で中心的な役割を行う国防相のノ・グァンチョルは党中央委員会委員、政治局委員、党中央軍事委員会委員などに任命された。また、ミサイル開発・ロ朝核・ミサイル協力を主導してきた党軍需工業部第1副部長のキム・ジョンシクが党中央軍事委員会委員へ転任、ロ朝軍事協力及び北朝鮮軍派兵を総括する総参謀長であるリ・ヨンギルが党中央委員会政治局委員に転任した。崔善姫はトランプ新政権発足を前に、米朝対話に主導的に参加しなければならず、党の地位を高めたものと思われる。
【経済部門】国家経済発展計画の4年目、生産実績と地方発展政策の成果・宣伝に集中
2023年同様に、2024年末に党総会に関する報道でも、経済部門の成果についての報道が多かった。労働新聞で掲載された表現通りであれば、2024年は「5カ年計画遂行の勝算を拡張する」年であり、人民経済各部門の成果を点検することが重要だったのだろう。経済部門の報道は、生産実績と「地方発展20×10政策」を中心に構成され、財政金融事業や価格の問題と同様に、経済管理部門については短く言及された。経済部門の報道は一般的に経済発展政策の成果に重きを置く傾向があったが、最近、市場での物価と為替レートの急騰で物価の問題に関する政策の失敗と混線が取り沙汰された。それだけに、経済管理の政策に対する議論は縮小して報道された可能性があると思われる。
2024年、党総会の報道でも国家経済発展5カ年計画の重点生産部門だと言える「12の重要高地」の目標と比較した成果の達成率が随時明らかにされた。このような傾向は、強力な国境封鎖(2000~2022年)を緩和し、経済与件が回復され始めた2023年から貫徹されている。今回の党総会の報道でも「12の重要高地が成功的に占領」されたとし、それぞれの達成率を具体的な数値で明らかにした。石炭と圧延鋼材の目標達成率が前年比で大きく改善されたとしながらも、根本的な改善効果が明らかだった2023年よりは達成率は全体的に落ちている。穀物の場合、前年比107%を達成したと発表し、外部機関の推定値*よりは高い実績を宣伝している。住宅の場合にも達成率を数値で明らかにしていないが、ファソン(平壌)、コムドク(咸鏡南道)地区と農村住宅など「今年、住宅建設の課題を終えた」と報道した。
*米国農務省は2024年、北朝鮮のコメやトウモロコシ生産量が前年並みと推定、韓国農村振興庁は北朝鮮の国内穀物生産量が前年比小幅減少(マイナス0.8%)と推定した。
2023年の達成率 | 2024年の達成率 |
穀物103% 電力・石炭・窒素肥料100% 圧延鋼材102% 有色金属131% 木材109% セメント101% 水産物105% 鉄道貨物輸送量106% 住宅(建設中の世帯)109% |
穀物107% 電力101% 石炭110% 窒素肥料103% 圧延鋼材127% 有色金属106% 木材104% セメント101% 水産物101% 鉄道貨物輸送量108% |
(注)2024年の場合、住宅建設の達成率はデータで開示されていない。
(出所)労働新聞の報道を元に筆者作成。
2024年初頭、最高人民会議で新たに提示された「地方発展20×10政策」は、3番目の案件として別途に議論された。よく知られているように、「地方発展20×10政策」は毎年20の都市・郡に10年間で現代的な地方工業工場を建設、必需の消費材を供給することで「人民の初歩的な物質文化生活水準」を向上させ、都市と農村の格差を縮小する一方で、北朝鮮経済の全面的な発展を達成するという目標を持っている。2024年、北朝鮮メディアは「地方発展20×10政策」の進捗状況を詳細に報道し、人民生活を向上させるために努力する最高指導者と党の努力を伝えることに重点を置いていた。2024年9月9日、北朝鮮の政権樹立日の関連報道を通じ、地方工業工場の建設が90%完了したと言及するなど、工場建設自体はスムーズに推進されていることが観察されている。下半期に入り、北朝鮮当局は地方工業工場建設以降、稼働に必要な設備や原資材の供給を強調する一方、「3大必需対象建設」を中心とする「地方発展20×10政策」の範囲を拡張することに注力している。
「3大必需対象建設」とは、2024年8月31日に招集された「地方発展事業協議会」に関する報道で言及された市・郡病院、科学技術普及拠点、糧穀管理施設を意味する。当初「地方発展20×10政策」は地方の軽工業を活性化し、必須消費材の供給を拡大しようとする趣旨として理解されていた。しかし、北朝鮮当局は「地方発展20×10政策」を通じて老朽化した李鵬の保健・医療施設を拡充し、科学・教育をはじめとする分科、生活施設も改善しようとする意志を見せている。「一体化された糧穀管理施設」にも注目する必要があるが、これは2020年以降、農場法と糧政法の改正を通じて「国家糧政体系」内で穀物の流通を拡大する政策の延長線上にあるものと思われる。とくに、糧政法の改正を通じて国定価格が適用される「国家供給」と別途に、市場価格よりも若干低い価格が適用される「国家販売」という新たな流通ルートを新設し、「食糧供給所」とともに「糧穀販売所」の設置を明文化し、「国家販売」を「国家糧政体系」内に編入した。このような政策の延長線上からみると、「一体化された糧穀管理施設」の建設とは、全国の市・郡に現代化された糧穀販売所などを設置することで、供給地である農村から糧穀を迅速にかつ広範囲で調達し、消費者である都市へ円滑に流通させるというものだと思われる。
しかし、「3大必需建設対象」は2024年下半期に追加された計画だったので、党総会で建設の成果が具体的に明らかにすることはできず、この政策の党における位置づけと今後どう推進するかについて強調されるにとどまった。最近「地方発展20×10政策」は政策の範囲が徐々に拡張されている状況であり、政策をきちんと推進できるかは十分に考慮されているのかは疑問の余地がある。とくに「科学技術普及拠点」は、2024年9月9日の建国記念日の演説で映画鑑賞、体育文化施設、商業とサービス施設(便宜奉仕網)を含めた「複合型文化センター」として確認されたこともある。「地方発展20×10政策」は当初から機械設備や原資材、財源と人的供給がどこまでできるか疑問が出されていた政策だ。政策を推進するための力が十分に保障されていなければ、都市と農村の格差解消と人民生活の向上は宣伝向けのスローガンに留まる可能性が高い。
経済全般の統一的管理、計画化事業と価格事業の改善に言及
党総会関連報道は、経済管理政策については次のように、とても短く言及されている。北朝鮮の経済構造と実情に合わせながらも「経済全般を統一的に管理できる体系と方法、計画化事業と価格事業を改善することをはじめ」とし、「切実な方法論的問題を解決」することに注力して経済成長の目標を達成することが強調されている。
2024年の北朝鮮経済は、貿易や農業、製造業部門の成果が比較的良好だったことに比べ、市場指標の変動制があまりにも高いことが特徴だ。2023年下半期から始まった市場レートの急騰が十分に緩和されずにいる。このように、市場史表の変動制が拡大したことは、糧穀などの消費財、貨幣の国家流通強化政策が2020年以降推進されたことに加え、2024年の国定価格と国定賃金の引き上げ、国家唯一価格表の配布なの政策が追加された影響だと思われる。国家糧政体系と国営商業網内の流通を拡大し、市場供給が縮小されただけでなく、市場での取り引きが部分的に違法となり、闇市場化されてきたためだ。市場史表が継続して情報していることは、国家流通ルートを通じた供給が十分ではないことを反証することでもある。国家流通経路を通じて十分に満たされない需要が市場の超過需要を形成し、市場指標を引き上げているということだ。
北朝鮮当局も市場指標の急騰に対し、少なくはない心配をしているだろう。「計画化事業と価格事業の改善」に対し「切実な方法論的問題」という背景というところで言及されたと思われる。2024年6月の第8期第10回総会でも「財政金融事業に強い規律」と「実現可能で漸進的な経済管理の改善」が言及されていた。経済管理に対する各種「改善策」をつねに追究していることは、国家の流通強化政策による副作用を解消するためのものと思われる。公開された内容が制限的なものであり、内部でどのような政策・代案を研究しているのかを確認することは難しいが、政策の失敗に対する責任追及と代案の用意に奔走するかのうせいがある。第8期第10回総会で財政相を交替させたことに続き、今回の党総会でも商業相を交替させたことが確認されたためだ。
2025年の経済展望
2016~2020年に推進されていた国家経済発展5カ年戦略とは違い、北朝鮮当局は今回の5カ年計画の目標達成を宣言すると思われる。2023年末の総会で北朝鮮は当該年度の生産目標達成率と2020年の実績と比較した増加率をともに発表するなど、2020~2022年最悪の実績から経済全般が改善されたことを内外に宣伝することに注力した。2024年に12の重要高地の目標達成率は基底効果が大きかった2023年比で小幅鈍化したものと思われるが、生産実績自体は前年に続き改善されているものと思われる。このような傾向が続けば、2025年の国家経済発展5カ年計画の目標達成は難しくはないだろう。しかし、5カ年計画(2021~2025年)は北朝鮮経済が1990年半ば以降、最も厳しい時期に提示されたものであり、目標自体が保守的なレベルで設定された可能性が高い。さらに、既存の計画失敗を補完する「整備補強戦略」の性格も強い。
一方、2025年にも北朝鮮当局は「地方発展20×10政策」の推進を強調し、党と最高指導者が人民生活の向上のため注力している点を内外に宣伝する可能性が高い。ただ、最近「地方発展20×10政策」ははっきりとした財源調達計画がなく、「地方工業工場」建設から「3大必需対象建設」へとその範囲が徐々に広がっている。一部の試験的地域に限って政策の成果が提示されうるが、制裁が長期化している状況において、その実現可能性が高いと評価するのは難しいだろう。
市場の物価、為替レートの変動制は2025年にも簡単に縮小するのは難しい。2024年秋の穀物収穫ぶんの国内流通が本格化される場合、市場の穀物価格は低位安定へ回復するかも知れないが、市場レートがそれまでの水準に短期的に回復するかどうかは厳しいと思われる。貨幣改革のような急激な政策介入が行われておらず、予測可能な製作で市場の心理的不安を緩和できるなら、2025年上半期以降、市場レートの急騰が収まる余地はある。しかし、これまでのレート(1ドル8000ウォン)よりは高い水準で新たなコンセンサスが形成される可能性もあると思われる。
【社会文化部門】2024年度社会文化部門の成果
2024年度の社会文化部門の評価は、科学や教育、保健、体育分野を中心とするものだった。科学分野では経済部門の生産を高め、人民生活の向上に切実な科学技術的問題の解決に一歩進んだと簡略に言及された。文化分野では、U20アジアカップで優勝した女子サッカーを始め、ウェイトリフティング、卓球、ボクシング、テコンドーなどの種目が国際競技で「国の位相」を高めたとし、体育部門中心に成果が強調された。教育分野では平安北道、慈江道、両江道地域の水害被災者を平壌に送って保護し、学生に授業を保障する非常体系を稼働させたと述べ、これを「後代育成を第1の国事とする教育重視の表示」の代表的成果として強調した。
2025年社会文化部門
2025年には「科学と文化戦線」の役割増大が重要な課業として提示された。科学部門は科学界が総奮起して新たな発展段階を結ぶ結実を成し遂げなければならず、保健部門は治療予防事業と医療奉仕の質を高め、世界的な保健危機に対処できる防疫のための土台をつくらなければならないと提起した。そのほかにも、立派な文化芸術作品の創造、威力あるメディア攻勢、優勝の体育成果などで分科芸術・出版報道・体育部門の課業が簡単に言及された。
教育インフラ、教育の質、都市の農村の教育格差、
障害者教育など全般的な教育の土台を現代化することを強調
4番目の案件「国の教育土台を強化するための一連の措置を実施することについて」は、人材強国、社会主義教育強国をつくるために、全般的な教育土台を現代化する方案に焦点が合わせられている。これは教育事業をどの時期に、どのような段階で優先権を与え、最大の効果を上げるかという第1の国事であり、最も責任のある重大事として提出されるだろう。これまでの教育事業が教育人材の育成、学生のための社会主義的施策として「自慢できるほどの質的変化」もあったが、全般的な教育土台は時代と革命の要求に合っていないという指摘があり、これを先進的な教育構造の整備、教育内容と方法改善のための実戦的な措置が提示された。教育土台の強化のための課業は、▲学用品と教具備品、教育機材の問題を国家が全面的に責任を負い、教育者と学生に最大限の事業条件と学習条件を用意すること、▲学校リニューアル・現代化、▲普通教育部門で基礎教育の質を高め、学生の知的水準を向上させること、▲教育者の質の向上、▲都市と農村の教育水準を縮小すること、▲障害者教育支援体系の樹立、などだ。2023年12月、党総会で強調した「学生少年たちのための社会主義施策執行」は、全国の学生に質のよい教育とカバン、靴など学生の必需用品を無償で供給するという政策として具体化されたが、今回の党総会は教育環境と条件など、全般的な部門において教育インフラの現代化を国家事業として強調している。11月29日の労働新聞は、2023年12月の党総会以降、全国に340の学校、780の分校、150の幼稚園が新たに建設されたりリニューアル、現代化されたと報道したことがある。学校の現代化は多機能な教室を増設し、資料通信網を構築するなどインフラを改善し、先進教育の土台を用意するものだ。教育機関と資源の集中度が高い都市と比べると劣悪な農村の学校の外的条件は教育格差を招くという問題意識と関連している。教育格差は経済、社会、文化全般にわたって発展の格差へとつながるためだ。これは教育内容と方法に対する学生の知的水準と教育者の資質向上と連携している。
障害者教育支援体系を強調
4番目の案件である「国の教育基盤強化のための一連の措置を実施することについて」の最後の項目で、障害者教育支援体制を強調しているのが特徴的だ。北朝鮮教育法(1999年制定、2015年改正)と障害者保護法(2004年制定、2022年改正)は、障害者教育に関する全般的な事項を扱っている。北朝鮮は、2021年のVNRで目標4の指標として、障害児のための公共インフラ施設と教育材料へのアクセスの可否及び教育資料へのアクセス可能性を提示した。4番目の案件が障害者のための特殊教育基盤の近代化と体系化をどのような近代化と体系化を具体的な代替案として提示するかが注目される。これは、障害者教育の不平等要素を緩和または解消するロードマップが具体的に提示されていないが、すべての人のための包摂的で公平な質の高い教育を保証するというSDGsの目標4実践を議題として提出したことに意義がある。
今後の展望と政策的示唆点
今回の党総会で金正恩は、教育が国家の興亡を左右し、人の成長発展に重要な役割を果たすとし、教育事業を改めて強調した。教育振興が国家の全面的な復興、地方中興、農村の振興と連動していることを強調した琴は、教育に対する資源と投資が経済発展と都市・地方格差の緩和、地方発展の布石だと認識していることを示すものだ。教育環境と条件の現代化、障害者教育支援体系を実現するための財源をどのように調達するかに注目される。人民の財源と努力を動員すること以外にも、ロシアとの貿易または観光で財政が拡充されれば、社会文化全般で住民生活の変化が予想されるためだからだ。