ニュースリリース|トピックス| 2024年11月28日(木)
延世界大学政治外交学科の崔鍾健教授は、文在寅政権の大統領府で朝鮮韓半島平和プロセスの実務を担当した。3回の南北首脳会談、2回の米朝首脳会談、南・北・米首脳の板門店会談を間近で見守った。
当時アメリカ大統領だったドナルド・トランプが大統領選挙で再選され、アメリカは第2期トランプ政権の発足を控えている。朝鮮半島情勢がジェットコースターに乗っていた時期、第1期トランプ政権と対峙した崔教授は、トランプ政権の属性を外交の最前線で直接経験した学者だ。
崔教授は「トランプが1期の時のように、すぐに北朝鮮と直接対話を試みることはないだろう」と展望した。早急に成果を出せるウクライナ戦争終結に集中するだろうし、朝鮮半島周辺情勢も米朝対話が容易ではない構造に変わったということだ。
崔教授は「韓国には北朝鮮問題のためにトランプ当選者の帰還を期待する人も多いようだが、(米朝対話が急浮上した)2017~2018年の余韻を払拭しなければならない。当時とは違う金正恩であり、違うトランプだ」と述べた。
崔教授はまた、第2期トランプ政権が在韓アメリカ軍駐留費用分担金引き上げなど各種法案を提出するだろうし、通商問題でも韓国に強い圧力をかけるだろうとみている。そのうえで、過度な分担金引き上げ要求などには「ダメなものはダメだとはっきり言わなければならない」と言う。
通商圧力には「韓国がアメリカに多大な投資を行い、多くの雇用効果が発生しているが、そのような部分をしっかりアピールしなければならない」と話した。また、知事や地域議員、住民を相手に多層的な外交を行い、アメリカ国内の地域政治に積極的に関与し、米国と交渉する際には、異なるイシューを混ぜて取引してはならないとアドバイスした。
先日、韓国・監査院は文在寅政権がTHAAD(地上配備型ミサイル迎撃システム〈サード〉)の配備を遅らせようとして慶尚北道・城州のTHAAD砲台のミサイル交換に関する情報を地域住民と中国側に漏らしたとして、チョン・ジョンヨン元大統領府国家安全保障室長など4人の捜査を大検察庁に依頼した。
崔教授は「中国側に情報を漏らしたというのは、国防省が公に話したことを外交的に免罪するために知らせた場合だと思われる。地域住民との協議も現場の事故を防ぐために政府が当然すべきことだった」と反論した。
〈1974年ソウルで生まれ、アメリカのロチェスター大学政治学科を卒業し、延世大学で政治学修士、オハイオ州立大学で政治学博士号を取得。文在寅政権で大統領府平和軍備統制秘書官、平和企画秘書官、外交部第1次官を務めた後、延世大学政治外交学科教授に復職した。<著書に『平和の力:文在寅政権の勇気と平和プロセスに関する記録』などがある。文・前大統領が出版した外交安保分野の回顧録『辺境から中心へ』に対談者として参加した。〉
トランプ、冷静で考えが早い
――首脳外交の現場で見たトランプはどうでしたか。
落ち着いていて、考えがとても速い。防衛費分担金や通商交渉、北朝鮮の核問題といった問題に関して、韓国に圧力をかけるときと協力を求めるときを明確に知っています。 彼のテンポに巻き込まれると、私たちの利益を守ることができません。
時には無礼ですが、原則と国益を守ろうとする相手国の首脳には礼儀を守ります。彼は首脳会談の場で自分の通商・外交・国防閣僚に発言を促す質問をよくします。忠誠心をテストする意図もあります。
質問を受けた閣僚は、トランプ次期大統領よりも強く相手を圧迫します。私たちの閣僚もしっかり準備しなければなりません。媚を売るために巧みに振る舞うよりも、私たちの原則をしっかりと守るほうがいい。
トランプは媚を売ろうとする者にはおもてなしで応えますが、必ず自分の要求を貫こうとします。彼の外交的なおもてなしは楽しんでもいいですが、私たちの国益を守るためには気を引き締めておく必要があります。
――第2期トランプ政権の登場が朝鮮半島情勢にどのような影響を与えるでしょうか。
当面は大きなインパクトはないと思います。 トランプ1期と2期を水平的に比較する人が多いですが、基本的な構造が違います。1期の時は在任期間を考えて8年のタイムフレームを置いていたのに対し、今は4年のタイムフレームです。
2026年11月に中間選挙があるので、スピード感を持って成果を出そうとするでしょう。可視的な成果を出すためにウクライナ戦争の政治的解決に集中すると思います。2023年、アメリカでトランプ政権の復帰を準備している人たちと話をしましたが、トランプ次期大統領が大統領選挙が本格化する前から、北朝鮮関連のブリーフィングは自分でしっかりチェックしていたそうです。これは、北朝鮮に関心はあるということです。
しかし、第1期の時のようにすぐに北朝鮮と直接対話を行おうとはしないと思います。ロシア・ウクライナ戦争が勃発し北朝鮮とロシア、韓国とロシアの関係も変化し、金正恩総書記の戦略的決断も今はプーチンに傾いています。
ただ、トランプがSNSを通じて金総書記と交信することはあるでしょう。アメリカの北朝鮮に対するレトリックも少し緩和されるでしょう。
――韓国についてはどうなるでしょうか。
アメリカの伝統的な同盟観は、国益を拡大する一種のプラットフォームというものですが、トランプは同盟を負担とみなし、費用精算を要求するでしょう。戦略資産の朝鮮半島展開費用、韓米連合訓練費用のようなものを多く要求することでしょう。
――在韓アメリカ軍の撤退問題も取り上げるのでしょうか。
ブラフとしてのカードとしては使うかもしれません。 文在寅政権の時も在韓アメリカ軍撤退カードを取りだしたことはありますが、実効性がありませんでした。現時点ではアメリカ国内の反対がかなり強いでしょうし、そうするためにはトランプ次期大統領の時間があまりないのも事実です。
――対北朝鮮政策の基調はどう見ますか。
トップダウン式のアプローチは有効だと思います。トランプ自身の強みを発揮できる重要な資産だと考えるでしょうから。
また金総書記と3回会い、10回ほど親書を交換しているので、ゼロベースから始めるわけではありません。しかし、金総書記との親交をどれだけ活用するかはこれからでしょう。仲介者や仲介者がいない状況で、米朝がどれほど直接的に対話できるかわかりません。
韓国には北朝鮮問題のためにトランプ大統領の帰還を望んでいる人も多いようですが、2017~2018年の残像を払拭する必要があります。当時とは違う金正恩であり、違うトランプなのです。
――米朝首脳会談の話をするのは早計ですね。
その話をするのは韓国人だけだと思います。トランプが米朝首脳会談を推進したとしても、金泳三政権の時と同じことが起こるでしょう。「通美封南」は絶対にダメだと米朝会談を阻止しました。今、金総書記は死から目覚めても尹錫悦政権と対話しないということでしょう。
ワシントンにとってソウルは戦略的価値がない
――韓国政府をパスして北朝鮮と対話するでしょうか。
北京と対話できないソウル、南北対話がないソウルは、ワシントンにとって戦略的価値があまりありません。
韓国は今、ロシアとはほとんど断交状態であり、韓中関係は氷山の一角であり、南北関係は完全に断絶されていますよね。これは、ワシントンの人々がソウルの人々に聞くべき話がないということです。
――米朝対話の前提条件は何でしょうか。
軍縮を議論する、核削減を議論する、核凍結を議論する、といったさまざまな話がありますが、そのようなことはしないでしょう。金総書記の立場では、ハノイ米朝首脳会談のときにバーゲンセールをしても売れませんでした。トランプに対する不信の壁はかなり高いでしょう。
北朝鮮はそれを溶かしてくれるようなアメリカの先制的な行動を期待するでしょう。経済制裁の解除とか、韓・米・日、韓・米間で行われている合同訓練の中断といったものになるでしょう。
――米朝核交渉の争点は何でしょうか。
CVID(完全で、検証可能で、不可逆的な核廃棄)が交渉のテーブルに上がる可能性はありません。北朝鮮がハノイ会談で議論された「寧辺核施設+α」で、寧辺より大きなαを与えることができるかどうかが重要です。
江西の核施設はハノイ会談の時に問題が大きくなったのですが、北朝鮮がそれを今回公開してしまいました。今は、北朝鮮が寧辺・江西など将来の核(核施設)に加えて、現在の核(核弾頭・核物質)のようなそれ以上のアルファを出し、アメリカはそれに見合った措置を取ることができなければ、交渉にならないでしょう。
――万が一合意になれば、ビッグディールになるということですね。
そうすれば、トランプ大統領も「悪い取引より取引しないほうがいい」という自国の人々を説得できるのではないでしょうか。北朝鮮との核交渉は、北朝鮮が不動産と動産を出し、相手は約束手形を支払う構造です。韓米合同訓練をしない、経済制裁から外す、米朝関係を改善する、これはすべて可逆的なものです。
しかし、今はハノイ交渉の時より(核に対する価格が)高くなっているので、トランプ大統領がどれだけ大胆な決断を下せるか、そして私たちがどれだけ費用を支払う意思があるかが変数でしょう。
――韓国はどのような役割を果たすことができるでしょうか。
南北対話を開かなければなりません。北朝鮮に対する制裁構造があまりにも強いので経済協力は容易ではなく、文化交流などは北朝鮮も望んでいません。
接境地での偶発的な衝突を防ぐための南北軍事合意の復元と対南・対北放送、ゴミ・チラシ風船を相互に中断するための軍事分野の対話を提案しなければなりません。
今のような状況が続き、偶発的に小規模な交戦のような衝突が起これば、アメリカが韓国政府を引き裂くでしょう。それは私たちにとってかなり屈辱的なことですが、その前に先制的に防止しなければなりません。
また、そのようなことがアメリカにアピールできます。「あなたたちが北朝鮮と大きな話をすることができるように、通常軍備統制は私たちが握っている」と言えば、私たちの役割論が浮上します。
私たちが9・19南北軍事合意で目指したこともそのようなことでした。
――在韓アメリカ軍の費用分担金を過度に上げてほしいと言われたら、どう対応すべきですか。
防衛費分担金はアメリカはただの行政命令体系であり、私たちは国会の批准事項です。防衛費分担金の最終決裁者は国会ということです。このような点に留意して、ダメなものはダメだとはっきり言わなければなりません。原則的に行動すべきでしょう。
――文政権の時はどうでしたか。
文大統領とトランプ大統領が北朝鮮問題では強く協力し、役割も分担しました。しかし、防衛費分担金問題では、私たちは「ダメなものはダメだ」という立場を堅持し、交渉が破談になったこともありました。
トランプ大統領がメディアのインタビューで「私が落選したことを最も喜んだであろう大統領は文大統領だ」と話したほどです。私たちは分担金を十分に支払っています。それなのに戦略資産展開費用、韓米合同訓練にかかる人件費を要求すれば、在韓アメリカ軍のアイデンティティは傭兵になってしまうのです。
派兵された北朝鮮軍、結局ロシアに従属された傭兵
――トランプは露骨に取引主義外交を標榜します。尹政権のいわゆる「価値外交」路線は有効でしょうか。
最初から価値を前面に押し出してはいけないことでした。トランプやその周辺の人々は国際政治を2国間関係中心で見ています。彼らが2国間関係の質を判断する基準は、アメリカからどれだけお金を稼いでいるかということです。
私たちがアメリカからお金をたくさん稼いでいるので、通商分野でも大きな圧力がかかるでしょう。 そこに対して韓国とアメリカは民主主義の同盟だ、血盟だ、などと言っても通用しないでしょう。
――トランプがウクライナ戦争の早期終結を公言しました。
大統領に就任すると、すぐ手を入れてくるでしょう。アメリカがウクライナに送るべき軍需品が70兆ウォン以上あります。アメリカの経済もよくないのに、なぜあんなに助けなければならないのかというアメリカの世論が強い。
ウクライナのゼレンスキーが発するメッセージの変化にも注目する必要があります。 先日、トランプとの電話では「トランプだけがこの戦争を終わらせることができる」というようなメッセージを送りましたが、最近のメディアのインタビューでは「2025年には戦争が終わってほしい」と言いました。ロシアとウクライナが死に物狂いで戦闘しているのを見ると、朝鮮戦争最後の1年(1953年)を見ているような気がします。
結局、トランプが出す平和案が重要でしょう。ロシアにウクライナの領土を譲って、今後20年間ウクライナのNATO加盟を認めないが、ウクライナが独自に武装できるように支援するという程度の妥協案になるのではないでしょうか。
――北朝鮮はなぜ派遣したのでしょうか。
派遣された北朝鮮軍はロシアの軍服を着ています。作戦統制体系がロシアに服属していると思われます。結局、傭兵だと思います。
それによって北朝鮮が戦闘経験を積むことが潜在的な脅威かもしれませんが、その脅威が現実化するまでに時間がかかるでしょうし、ロシアも先端軍事技術の防御機構が強いので、それを北朝鮮に安易に与えることはないでしょう。
――韓国政府はどうすべきでしょうか。
慎重に見守るべきです。そして、トランプ政権がウクライナ終戦のためにさまざまな政治的努力を行うとき、私たちが支持声明を出していけばいいのです。韓米同盟に基づいてそうすれば、トランプ政権と尹政権の重要なプラスポイントになると思います。ウクライナに人道的支援をし、ロシアとの関係も改善しなければなりません。
――尹政権の対北朝鮮政策をどう見ていますか。
文在寅政権との無条件の差別化、「Anything But Moon」だと思います。そしてすべてを「起承転結」の基準で見ています。
北朝鮮政策にいわゆる司法的な基準を押し付け続けると、誰が朝鮮半島の現状変更を推進できるでしょうか。かつては終戦宣言を夢見て南北が非核化を議論しましたが、今は汚い風船のようなものを心配しなければならない状況になってしまいました。嘆かわしいことです。
イム・ジョンソク「平和的二つの国家論」は実用的な話題
――先日、監査院がチョン・ジョンヨン前国家安全保障室長など4人の捜査を大検察庁に依頼しました。政府がTHAAD配備を遅らせるために、THAAD砲台のミサイル交換情報を城州住民と中国に漏らしたということです。
文在寅政府がTHAAD配備を撤回したことはありますか。中国側に情報を漏らしたというのは、状況的に国防省が公に話したことを外交的にいわゆる免罪符にするために知らせた場合だと思います。それが問題でしょうか。
朴槿恵政権から城州へのTHAAD配備問題を引き継いだ文政権としては、現場での事故防止のためにも当然、地域住民と実務的に協議し、議論しなければなりませんでした。アメリカが公式に問題を提起したこともなかったと聞いています。
――文政権は米朝対話の仲介・促進者を自任しましたが、米朝交渉は決裂し、南北関係も凍結されました。
私たちは7合目まで行ったと思います。その程度の実力しかなかったのです。
いくつか後悔している部分があります。1つは、ハノイ会談が決裂した時、(北朝鮮側の正確な意向を把握するために)なぜ金総書記に南北首脳会談程度の提案をしなかったのかということです。
また、北朝鮮は核交渉を通じた安全保障のような大きな絵を望んでいました。しかし、私たちは南北経済協力や文化交流のほうに比較的多くの資源を投入しました。
2018年、高速道路で高速走行するように、南北関係、北朝鮮とアメリカの関係が先行したり後退したりしたのは、それまで誰もやったことのない経験です。それに対する知識が私たちにできたのです。
そして、進歩(革新)的な陣営も必ず知っておくべきことは、政府の中に入ってみると、アメリカの協力と協調なしに私たちができることの限界がはっきりあります。
結局、アメリカの協力を得たりアイデアを私たちがどれだけ注入できるかがポイントになると思います。24時間北朝鮮問題を考えている国は韓国しかないじゃないですか。
――イム・ジョンソク元大統領秘書室長が「平和的2国家論」を提起しました。
イム室長の主張は3つに集約されます。まず、平和が優先であること。第2に、今の若い世代が統一に同意していないこと。第3に、憲法上の問題があるものは改憲して直そうということ。
私は、イム室長は実用的な話題を投げかけたと思います。統一への強迫観念は少し置いて、今、私たちができることを考えようということです。
(2024年11月27日、京郷新聞)