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金正恩氏による核兵器研究所とウラン濃縮施設現地指導分析

ニュースリリース|トピックス| 2024年09月29日(日)

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 2024年9月13日、北朝鮮の『労働新聞』が、金正恩の核兵器研究所と兵器級核物質生産基地を現地指導したことを報道した。同日付労働新聞は、金正恩が「ウラン濃縮基地」の操縦室と生産工程運営の実態を視察したと伝え、「核弾生産および現行核物質生産実態を確かめ、兵器級核物質生産を増やすための展望計画に対する重要課題を提示した」と報道した。

 写真5枚とともにウラン濃縮施設の主要機器ともいえる遠心分離機と、核物質生産施設と推定される装備を公開した。ウラン濃縮施設に該当する原審分離機と核物質生産施設を北朝鮮が公的メディアを通じて公開したことは初めてのことだ。アメリカの大統領選まで50日を残した時点で、大国の大統領選挙に影響を与えるためのメッセージを伝える意図を込めた報道だと分析される。

ウラン濃縮施設、平壌・降仙または寧辺近郊のベットの施設である可能性

 
北朝鮮のウラン濃縮関連施設としては、①ウラニウム鉱山として黄海北道平山(ピョンサン)、平安南道順川、②精錬施設としては黄海北道平山、同パクチョン、慈江道ハガップ(抽出・精錬)、③核燃料加工・濃縮施設としては寧辺と降仙などとして、国際機関や専門家らは推定してきた。労働新聞が公開した写真に遠心分離機と各種操縦装置などをみると、これまで推定されてきた施設のうち、核燃料加工・濃縮施設である寧辺と降仙の施設である可能性が高い。

 ただ、ウラン濃縮施設は短期間で建設・設置が可能であることから、従来推定されてきた施設とは違う地域にあるものである可能性も排除できない。

 労働新聞が公開した写真をみると、2階建ての建物内部の高さ、2010年にジークフリート・ヘッカー(Siegfried S. Hecker)博士が観測したことがある直径約20センチメートル、高さ約1.82センチメートル程度の類似した遠心分離機などがあることから、これまでウラン濃縮施設として推定されてきた寧辺のウラン濃縮施設、あるいは平壌南方・千里馬区域にある降仙の施設である可能性が高いと思われる。

 寧辺のウラン濃縮施設の場合、寧辺核燃料加工施設の用地にこれまで金属核燃料加工施設があった場所を、2009年4月に改造し、ウラン濃縮施設に偏向した事実が確認されたことがある。施設は衛星写真から推定したものでは、奥行き120メートル、幅18メートルの2階建て施設であり、現場を訪問したヘッカー博士が2010年11月ごろの訪問数日前に運転を始めたとの証言もある。

 降仙ウラン濃縮施設の場合、平壌近郊の千里馬区域に位置しており、北朝鮮の寧辺のウラン濃縮施設と基盤施設の特性を共有していると、IAEA(国際原子力機関)のラファエル・グロッシ事務総長が明らかにしたことがある。1)2024年2月末、同地の本館附属建物(別館)の工事が始まり、施設として使える面積を大きく拡張した状況が捉えられている。今回、労働新聞による報道からは、金正恩が「能力拡張を進めている工事現場も視察」という内容があり、拡張工事として最近知られた降仙、あるいは第3の場所である可能性もある。

「新型の遠心分離機導入事業」に言及、遠心分離機の自主制作・大量生産をメッセージ化

 今回の報道で注目すべき点は、「遠心分離機と各種収納・操縦装置をはじめすべてのシステム要素を自分たちの力と技術で研究開発・導入した」ことを明らかにした部分であり、「遠心分離機の台数をさらに増やすこと、さらには遠心分離機の個別分離機能力をさらに高めたこと、すでに完成段階に至った新型の遠心分離機の導入事業も計画通りに進められ、兵器級の核物質生産の土台をよりいっそう強化」すると明らかにしたことだ。

 整理すれば、より多くの核物質を生産するために遠心分離機の台数を増やすだけでなく、効率のよい遠心分離機を導入するという意味だ。

 遠心分離機は自然界に存在するウラン同位元素の3つ、すなわち234(0.0058%存在)、235(0.720%存在)、238(99.274%存在)のうちウラン238の比率を減らし、ウラン235の比率を高める装置の1つだ。ガス加工物を極限の速度で回転するシリンダーに入れる方式だ。最も重い原子(ウラン238)は容器の外壁に向かって移動する傾向がある反面、軽い元素(ウラン235)は軸により近く維持され、これを抽出してほかの遠心分離機へ送り、同一の手続きを繰り返す。兵器級ウランを得るためには、遠心分離を数万回経なければならない。

 北朝鮮ウラン濃縮装置である遠心分離機と関連する主要部品を2009年以降、自主生産しているという分析はこれまでも提起されてきた。2)通常、ウラン濃縮に必須でありながらも確保が難しい技術と主要部品として六フッ化ウラン、モレイジング鋼鉄(ローター製作用)、周波数インバーター、真空ポンプ、リングマグネットなどがあげられる。

 実際に北朝鮮は自主生産を証明するかのように、2009年に金正日の現地指導において遠心分離機の核心に該当するローターを公開したことがある。当時の現地指導報道によれば、「偉大な勝利」と評価した自主技術で開発した「主体鉄」は、モレイジンング鋼鉄と推定される。北朝鮮がローターの材料であるマレイジング製鋼(maraging steel)は自主生産できないとみられたが、これを北朝鮮ができるということを示したことになる。このローターを公開したのは2009年4月、北朝鮮外務省報道官声明によってウラン濃縮を示唆した時点と近く、2010年11月に寧辺を訪問したヘッカー博士に2000ほどのP2型と推定される遠心分離機濃縮工程を公開したことも、同じ脈絡とする行動と考えられる。

 2013年には金正恩が代表的な軍需工場である江界トラクター総合工場の現地指導を行った際、ローターを直接加工・成形して製作する「流動成形旋盤」と推定される機械を公開したことがある。この設備は遠心分離機に必要な超高強度金属であるモレイジングシリンダーを製作する際に利用される。3)金正日、金正恩の現地指導写真、北朝鮮の科学報告書と特許受賞など対外宣伝資料をみると、残りの部品の生産能力を備えていると思われる。4)

 今回公開された写真をみると、北朝鮮はすでに1万台以上のP2遠心分離機を生産した可能性も排除できない。P2遠心分離機2000台を稼働させれば、年間40~50キログラムのHEUを生産できるとされている。北朝鮮が2010年より前からHEUを大量生産しており、寧辺の濃縮施設が従来の2倍に拡張されたことを考慮すると、2020年ごろまでに700~800キログラムを生産したと推定できる。寧辺と同様の施設、あるいはそれ以上の可能性がある降仙などその他地域の濃縮施設があることを考えると、生産量が1400~2400キログラムに増加し、ここに改良型の遠心分離機の開発に成功したとすれば3000キログラム以上の生産も可能だ。5)

 今回の報道で「核兵器の原稿生産のために能力拡張を進めている工事現場も視察され、設備組み立て日程計画を具体的に了解」したと明らかにしており、今後のHEU生産量の増加もより加速される可能性が高い。

戦術核兵器の製造に必要な核物質生産に注力

 金正恩は2022年12月31日、朝鮮労働党中央委員会第8期第6回総会で「戦術核兵器の大量生産」と「核弾頭保有量を幾何級数的に増やす」ことを要求した。今回の現地指導で金正恩は「術核兵器の製作に必要な核物質生産においてより高い展望目標を掲げ、総力を集中して新たな飛躍的成果をもたらすことについて強調」した。金正恩は自ら提示した戦術核の幾何級数的増加のために、最近まで戦術核を搭載可能なミサイルの大量量産システムを誇示する一連の軍需工場訪問と武器引き渡し式などを意図的に演出したことがある。

 今回の現地指導により、これまでミサイル生産に比例した核物質生産の限界を指摘する外部の視線を意識したのか、核物質生産もまた増加していることを意図的に演出したとみることができる。結局、核物質の量的増産、核弾頭量産システムの拡大可能性を見せることで、戦術核兵器の大量生産と実戦化を具体的に完成させていることを誇示しようとしたと思われる。

表面上は「国防力発展5カ年計画」の2024年遂行細部課業のうち核兵器部門を点検する一環

 今回公開されたウラン濃縮施設については、表面的には2023年12月に行われた党中央委員会第8期第9回総会で金正恩が提示した国防力発展5カ年計画の2024年度遂行分の細部課業のうち、核兵器部門の点検する一環だと考えられる。「核兵器部門」は核物質の抽出・核弾頭の量産システムに該当する部門であり、2024年になって金正恩は民防衛武力部門を除く残り7つの部門に該当に対する現地指導と実験参観などによって、遂行状況を把握して公開してきた。経済部門で成果を出しにくい状況において、国防部門での成果を最大限誇示する意味もあり、何よりもアメリカの大統領選挙を前にし、アメリカにメッセージを送る性格が強いように思われる。
 

〈表1〉2024年国防力発展計画遂行における細部課業
課業部門 内 容 意 図 予想される行動・遂行内容
軍需工業部門 ・武装装備開発・生産の拡充
・党国防発展戦略の成功的な実行の担保
・軍需生産の優先順位
・自主戦力化への需要
・ロシアへの供給量
・海外への兵器販売
・重要な機械工場の現代化
→金正恩による重要軍需工場訪問(8回)
→240㍉新型放射砲
核兵器部門 ・核兵器生産計画の遂行 ・核物質、核弾頭の増産 ・核物質の抽出を拡大
・核弾頭の量産システム
→核兵器研究所、濃縮ウラン施設訪問(9月12日)
ミサイル開発・生産部門 ・重点目標と戦闘的課業を提示 ・ミサイル完成形モデルの多種化 ・固体型中距離弾道ミサイル
・ICBM完成度向上
・SLCM、SLBM、艦対艦、地対空、地対艦
      ・空対地、空対空
→極超音速ミサイル、「ヘイル5-23」「プルファサル3-31」「パダスリ6」「ポンゲ6」「火星11-4.5」多弾頭ミサイル、超大型放射砲
宇宙開発部門 ・3つの偵察衛星発射 ・韓国の開発日程を意識、競争的優位を誇示する目的 ・韓国の4月の発射日程を考慮、前倒しして2号機発射可能性
・朝ロ技術協力の可能性
→5月27日発射失敗
船舶工業部門 ・第2次艦船工業革命
・海軍水中・水上戦力向上
・国防力発展5つの重点目標のうち未熟な課業の早期執行(中心課業)
・海軍の現代化10カ年計画の開始
・艦船建造、海軍基地の現代化
・潜水艦、艦船の建造
・海軍基地現代化
・軍港防衛反航空及び海岸防御兵器
→船舶建造事業を現地指導(9月7日)
→海軍基地建設現地了解(9月7日)
無人航空工業部門 ・各種無人武装装備の開発生産 ・無人偵察機、戦闘用ドローンなどの戦力化及び輸出 ・無人偵察機、戦闘用ドローンを利用した地上、空中、海上での飛行
・ロシア及び中東への供給可能性
→自爆無人機2種の公開(イスラエル・ハロップ、ロシア・ランチェット3級)
探知電子戦部門 ・電子選手段を開発生産 ・戦術核実戦化によりEMP目的の具体化 →GPS混乱
民防衛武力部門 ・労働赤衛軍の戦闘準備完成 ・戦争準備レベルでの緊張、住民統制・結束  


米大統領選第1回討論会の2日後での公開、大統領選挙に影響を与えようとする対米メッセージ

 北朝鮮は、アメリカ大統領選に向けた対米メッセージをいくつか準備している可能性がある。アメリカの次期政権に非核化は不可能であること、北朝鮮の核兵器の高度化は不可逆的なものであること、核交渉では新たな次元にいることを(核保有国の政治的承認)、関係改善から安保上のリスク低減と核軍縮統制のための交渉に転換することなどをメッセージとして作成することが必要な時期にあると判断したと思われる。

 今回のウラン濃縮施設公開は、2024年9月11日、アメリカ大統領選第1回候補者討論会から投票日まで50日あまりを残した時点で、北朝鮮の核兵器高度化を北朝鮮側に有利な争点として気づかせるというレベルと、今後発足する次期政権に来著須縁側の石と状況をわからせるための行動の一環と思われる。

 これまでトランプ候補の外交安保ブレーンの間では、非核化より一時的な凍結のためのリスク低減、核軍縮アプローチが提示されており、ハリス候補側は北朝鮮に対するアプローチについて明らかにしたものはない。ハリス側は、これまでの非核化原則により北朝鮮に対して圧力をかける「戦略的忍耐3.0」を基調とするだろうとの見方が有力だ。

 今回のウラン濃縮施設を公開したことは、トランプ候補にはバイデン政権の対北制作の失敗をアピールするよい素材として活用した。また2019年、ハノイでの米朝首脳会談でトランプ前大統領は北朝鮮の濃縮ウラン施設である降仙を金正恩に対して言及したとされている。トランプが今後2期8年の大統領となるならば、交渉を再開し、濃縮ウラン施設の廃棄に一定の成果を出すだろうと主張できる。

 反面、ハリス候補には独裁者と対話するトランプ候補を非難しているが、対北アプローチにおいては現在のような非核化という原則と圧力中心の「戦略的忍耐」を主張している。そのため、事実上、北朝鮮の核兵器高度化を放置したままだと批判できる部分がある。これが選挙戦において不利な要素となる可能性もある。北朝鮮は意図的にこの時期にウラン濃縮施設を公開したことで、大統領選に向けた北朝鮮側の石を伝える一方で、両陣営ともに北朝鮮へのアプローチを変えるべきといった圧力をかけたとも言えよう。

核実験に変わる最上位のカードとして公開

 今回の公開が7回目の核実験を事前に予告するものではないかという見方もあるが、そうとは思われない。7回目の核実験は気候的条件や技術的必要姓、政治的波及効果などを十分に考慮されなければならない。現在、豊渓里の状態は大雨による被害で道路と鉄道線路が流出し、地盤が弱まっており、9月中に追加的な被害が発生する可能性もある。そのため、冬季になって地盤が安定し、実験のための条件が整う。

 最も重要なのは、アメリカの大統領選を前に実験を行った場合、国際社会から政治的汚名を集中的に受け、対北制裁強化論が力を得て国連での中国とロシアの立場が弱まる可能性もある。また国際社会が協力して北朝鮮に圧力をかける口実となり、ハリス候補に有利に働く可能性もある。

 また朝ロ密着で新冷戦構図を外交的チャンスとして活用している現在の北朝鮮としては、核実験はロシアや中国がどのような反応を見せるか不透明だ。核実験を行った場合、中国との関係はより悪化する可能性が高い。ロシアはウクライナ戦争に北朝鮮の支援が必要だが、核実験で対北制裁が強化され、国連での立場が弱まれば、ウクライナ戦争への支援計画に問題が発生するため、核実験に否定的になる可能性が高い。

 現在、アメリカ国内では、核兵器を高度化するために核実験が必要だとの主張が出始めている。トランプ候補と近い外交安保専門家らは積極的だ。6)ロシアはすでに2年前から、核実験が必要だとの世論が形成されつつある。アメリカの次期政権において核実験の可能性があるだけに、北朝鮮はこのような雰囲気が高まった際、適切な時期に必要であれば核実験を行う可能性がある。アメリカもロシアも核実験を行うのに、なぜわれわれはいけないのかという正当性を主張することを念頭に置いている可能性もある。

1)「IAEA、北ウラン濃縮共有で降仙別館完成」『東亜日報』2024年6月4日付。
2)「米核専門家、北朝鮮は遠心分離機の主要部品をすでに自主生産」『聯合ニュース』2013年9月24日。
3)略
4)「北、遠心分離機の主要部品を自主生産」『京郷新聞』2013年9月24日付。
5)イ・チュングン『北朝鮮の核覇権』243ページ。

統一研究院、2024年9月13日、ホン・ミン北朝鮮研究室先任研究委員
 


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