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死後の世界と核の傘・拡大抑止の意味

ニュースリリース|トピックス| 2024年03月25日(月)

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 死後の世界はあるのか。生きている人は知ることができず、死んでいる人は教えてくれない。知る唯一の方法は死ぬことだが、死んだ人が死後の世界を知ったかどうかは、生きている人は知ることができない。この話を持ち出したのは、「拡大抑止」に似ているからだ。

 拡大抑止は、「あなたが私の友人を攻撃したら、私があなたに報復するぞ」と脅すことによって、敵対勢力が私の友人を攻撃できないようにするという概念だ。絶対兵器」と呼ばれる核兵器による報復の脅威が代表的だ。

 米韓同盟と北朝鮮の関係を例に挙げてみよう。米国は世界最強の核保有国であり、韓国は非核国家であり、韓米同盟の共同の敵である北朝鮮は核兵器を持っている。そのため、米国は北朝鮮が韓国を核兵器で攻撃すれば核報復を行うと警告する。 これにより、北朝鮮の対南核攻撃を抑制し、同盟国である韓国を安心させるということだ。

 では、このような拡大抑止は機能するのだろうか。 普段は機能する。北朝鮮であれ、どの国であれ、韓国に核攻撃を加える国はない。

 では、戦時中はどうだろうか。 戦争が勃発して北朝鮮が韓国に核攻撃を仕掛けた場合、米国は北朝鮮に核報復をしてくれるだろうか。 100%「そうだ」と断言することはできない。それは戦争が起きてみないとわからないからだ。

 しかし、これは抑止力に対する裏切りだ。一般的な抑止の趣旨は戦争を防ぐことにあり、拡大抑止の代表である核の傘の趣旨は核戦争を防ぐことにある。だから、戦争が起きて核兵器が使われるということは、抑止そのものが失敗したことを意味する。

 死後の世界が気になるからといって死ぬわけにはいかないように、有事の際に拡大抑止が機能するかどうかを確認するために戦争をするわけにはいかないのではないだろうか。

 だから、私たちは北朝鮮の抑止と関連して「能力」と「感覚」を区別して見る必要がある。能力の観点から見ると、韓米、あるいは韓米日の対北朝鮮抑止力は強大だ。韓国の同盟国であり、拡大抑止を公言している米国の軍事力は世界最強だ。

 韓国も莫大な国防費の投入に支えられ、2024年、軍事力が世界5位に浮上するほど強くなった。財政再建に拍車をかけている日本も攻撃用武器の導入を本格化している。

 朝鮮半島有事の際に戦力を供給するとして韓米連合訓練に参加している国連軍司令部加盟国も10カ国を超える。これらの国が直接・間接的に参加する連合訓練の規模は圧倒的な世界1位だ。この程度なら、北朝鮮に対する抑止力は不足しているのではなく、溢れていると言っても過言ではない。

 それにもかかわらず、抑止力が不足していると訴える声が依然として高い。それは能力が不足しているからではなく、そう感じるからだ。

 核心的な理由は、米国の拡大抑止公約を「100%確信できない」という不信感にある。米国がソウルを救うためにワシントンの犠牲を覚悟するのか」という疑問がそれを象徴する。米国が核兵器とそれを運搬できる大陸間弾道ミサイル(ICBM)を保有している北朝鮮を相手に拡大抑止を実際に展開するのは難しいということだ。

 しかし、このような問いかけ自体が憂鬱だ。米国が約束を守るかどうかを確認する前に、大韓民国はすでにかなりの被害を受けるはずだからだ。

 ここで私たちは自問する必要がある。北朝鮮に対する抑止能力は十分なのに、つねに欠乏感に悩まされることが果たして有益なのか。

 決してそうではない。まず、欠乏感を埋めるために北朝鮮の軍事力と軍事態勢を強化すればするほど、韓米同盟に比べて劣勢にある北朝鮮はさらに核高度化に執着するだろう。このように軍備競争と安保ジレンマが悪循環の沼に陥れば、ダモクレスの核の剣を握っている馬の首が揺れ、細くなる可能性がある。戦争を抑制しようとする行動が、むしろ戦争危機を高揚させる可能性があるということだ。

 また、韓国がすでに強力な米国の拡大抑止をさらに強化してほしいと願えば願うほど、米国が韓国に提示する不当な請求書に堂々と対応することが難しくなる。最近始まった防衛費分担金交渉から半導体をはじめとするさまざまな経済問題に至るまで、米国の利己主義的な要求に発言権を行使することが難しくなる。

 そこで一部の人々は独自の核武装を主張しており、多くの人々もこれに呼応している。しかし、独自の核武装の現実性と妥当性はあっても、韓国が核武装を決意した瞬間、対米従属性はさらに強くなるしかないという逆説を理解することが重要だ。

 核武装が可能になるためには、米国の同意、とくに韓米原子力協定の改正が不可欠だ。また、韓国に対する経済制裁の可否についても米国の判断が非常に重要になる。

 韓国が北朝鮮に匹敵する核能力を確保するには10年以上かかるが、その間に韓半島の危機は高まるだろうし、これは韓国が在韓米軍と米国の拡大抑止をさらに必要とすることを意味する。このような状況で、米国が不当な要求をすれば、韓国はそれをきちんと根絶することができるだろうか。

 南北関係と朝鮮半島情勢が大きく変化している今日、北朝鮮の核に対する過度な被害妄想と対北朝鮮抑止不足感から脱却することが切実になっている。そうして初めて、地盤固めが可能になる。有備無환の能力を備えた分、その能力の誇示を控えながら、平和と安全を守るもう一つの道が外交にあることを自覚することができるようになる。

チョン・ウクシク ハンギョレ平和研究所所長 wooksik@gmail.com
「ハンギョレ」2024年3月25日


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