ニュースリリース|トピックス| 2024年03月22日(金)
2023年12月末、北朝鮮の朝鮮労働党中央委員会総会で金正恩総書記が発表した極端な対外路線について、さまざまな議論が交わされれている。その中には、北朝鮮による局地的な軍事的挑発を予想する意見も少なくなかった。
普段は穏健な議論を展開するアメリカ・ミドルベリー国際研究所のロバート・カーリン研究員やスタンフォード大学のジークフリード・ヘッカー名誉教授らも、「金正恩は戦争を準備しているのか」というタイトルの論文を共同発表し、注目を集めた。
北朝鮮の新たな対外路線は、ウクライナ戦争やパレスチナ情勢に見られる国際情勢の緊迫性(新冷戦の認識)、北朝鮮自身の戦略・戦術核兵器開発の進展、ロシアと北朝鮮の相互援助体制の構築、さらに2024年11月に行われるアメリカ大統領選挙でドナルド・トランプ前大統領の再選の可能性などを反映したものだ。
それは戦争宣言というよりは、北朝鮮の体制維持のための「統一拒否宣言」であり、南北が「1民族2国家」として敵対的に共存することを表明するものである。
では、金総書記はなぜ、そのような結論に至ったのだろうか。
第1の観点は、核抑止力だ。現在、金総書記は朝鮮半島有事の際に即座に対応するための核戦力の強化(火星17型、火星18型、潜水艦発射弾道ミサイル、各種短距離弾道ミサイル、巡航ミサイル、偵察衛星、核兵器搭載潜水艦などの開発)と戦争準備体制の完成に邁進し、朝鮮半島に相互抑止状況が出現したと主張している。
また、有事の際には「核戦力を含むすべての物理的手段を動員して南朝鮮の全領土を平定する」と強調している。
第2に、金総書記は金日成主席以来の「連邦制統一」路線を放棄し、南北関係を「敵対的な両国関係」または「戦争中の両交戦国関係」とみなすと宣言した。
実際に、南北の民族的同質性を強調した従来の「わが民族第一主義」は、戦術核兵器の対南先制使用という北朝鮮の核ドクトリンが本当にできるのかどうかというその信憑性に疑問を持たれていた。それを「わが国家第一主義」に置き換え、さらに韓国をあえて「大韓民国」と正式呼称した。
第3に、金正恩政権で最も重要なのは体制維持の観点である。
1994年7月、北朝鮮建国の父である金日成主席が死亡したとき、後継者である金正日に残されたのは小さな破綻国家に過ぎなかった。しかも、それは韓国が民主化を達成し、1988年のソウルオリンピックを成功させた後のことであり、ドイツのベルリンの壁が崩壊し、ソ連と東欧社会主義諸国が次々と体制を転換した後のことだった。
また、北朝鮮は1995~1997年に3年連続で自然災害に見舞われ、数十万人の国民が死亡したと推定される。間違いなく、北朝鮮はこの時、体制崩壊の危機に直面していた。
しかし、金正日が選択したのは、先軍政治と「苦難の行軍」という、軍隊を前面に押し出した内部結束強化と核兵器開発の推進だった。まるで核武装が北朝鮮の体制危機を解決するかのようだった。
したがって、核兵器で武装した北朝鮮がこれを契機に韓国との和解や交流に向かうのか、それとも南北分断をさらに深化させるのかは興味深い問題だった。しかし、結果的に2019年、ベトナム・ハノイでの米朝首脳会談でトランプ前大統領との取引に失敗した金総書記は、後者を選択するしかなかったようだ。核兵器とミサイル開発への強い執着が、北朝鮮の改革開放と南北交流を不可能にしたのだ。
しかし第4に、統一拒否宣言が金総書記の最終的な選択なのかどうかについてはまだ疑問が残る。
確かに、北朝鮮が断固たる態度を示したため、当面は南北対話や協力は不可能になった。しかし、そこにはトランプ政権が再び出現すれば、韓国をパスして軍備管理(非核化ではない)交渉を開始するという金総書記の期待が込められているのではないか。
つまり、統一拒否宣言は、米朝交渉から韓国を排除するための戦術的な欺瞞に過ぎないかもしれない。
最後に、長期的な権力継承の問題を忘れてはならない。2022年11月18日、ICBM「火星17型」の発射を娘とされるジュエ氏とともに視察した後、金総書記は弾道ミサイルの試験発射や国家行事にジュエ氏を同行させることが多い。
新たな対外路線の誕生は、金正恩以降の長期的な後継体制構築のための布石かもしれない。
(2024年2月27日、東亜日報、小此木政夫・慶應義塾大学名誉教授)