ニュースリリース|トピックス| 2022年06月09日(木)
「金正恩が持つ“赤化統一”への野望は夢ではない現実だ」
「核攻撃の脅威に、米国が躊躇する可能性もある」
韓国・国民大学のアンドレイ・ランコフ教授
「北朝鮮の核が拳銃なら、韓国の通常兵器は水鉄砲にすぎない」
『朝鮮日報』2022年6月5日付
「北朝鮮にとって韓国は、北朝鮮が声を出せば現金を与えるATMだった。しかし今や「南伐」、すなわち赤化統一の対象となった。30数年間ゼロだった赤化統一の可能性が10%にまで高まった。尹錫悦政権は北朝鮮の挑戦を過小評価したり、錯覚してはいけない」
韓国・国民大学のアンドレイ・ランコフ教授(59)の北朝鮮に対する見立てだ。ランコフ氏は旧レニングラード国立大で、「朝鮮時代の四色闘争研究」で1990年に博士号を取得したロシア人研究者だ。1984年9月から10カ月間、平壌の金日成総合大学に留学するなど、朝鮮半島ですでに23年過ごしている南北双方の事情に明るい人物だ。
そのため、2013年に当時のオバマ大統領は彼を呼び寄せ、北朝鮮政策について助言を聞くことがあった。尹錫悦政権が出発して以降、北朝鮮が核兵器と各種ミサイル発射の頻度が増えている状況の中で、2022年5月31日にランコフ教授から話を聞いた。
◆増援を送ろうとする米国に核攻撃で脅す
――北朝鮮の経済と国力が韓国よりはるかに劣っているが、「赤化統一」は可能なのか。
ランコフ教授 北朝鮮はすべての国力を核とミサイル開発に集中し、大きな成果を得た。北朝鮮は米国本土への攻撃が可能な核・ミサイルを確保、あるいはまもなく持つようになるだろう。米国は今まで核保有国と戦うために参戦したことは一度もない。ウクライナ戦争に米国が参戦しない最たる理由の一つは、ロシアが核保有国だからだ。北朝鮮の赤化統一は夢ではなく、現実だ。
――北朝鮮が南侵しても、核があるから米国が参戦できないというのか。
そうだ。多くの韓国人は米韓同盟の力を絶対的に信じているが、米国が1954年に韓国と同盟関係を結ぶ際、北朝鮮はロサンゼルスやニューヨークを廃墟にしてしまう能力はなかった。しかし今、米国がソウルを守るために参戦するとすれば、米国大統領はロサンゼルスやサンフランシスコ、またはニューヨークICBMによる攻撃を数回受け、多くの犠牲者が出る可能性を考慮せざるをえない。
ランコフ教授は、「米国で経済危機が発生したり孤立主義が高まり、韓国を守る意志が弱い米国大統領が登場する場合、北朝鮮はこれをチャンスととらえ挑戦を強行しうる。米国が増援軍などを韓国に送ろうとした際、北朝鮮が朝鮮半島の平和のためにニューヨークやロサンゼルスを核攻撃すると脅せば、米国大統領はジレンマに陥るだろう」と言う。
◆「統一大統領になる」という夢は捨てよ
――北朝鮮が命をかけてICBMを確保しようとする理由はそのためか。
南侵のような有事に米韓同盟をマヒさせ、韓国と米国を分裂させる最も効果的な手段が、まさにICBMだ。北朝鮮は米国本土を核で攻撃できるICBMとSLBM、水素爆弾を保有している。北朝鮮が戦術核の開発にも成功する可能性は低くない。
――北朝鮮の核の高度化で南北の軍事的、戦略的バランスが崩れるということか。
そうだ。金泳三から朴槿恵までの保守派の歴代大統領は、北朝鮮が崩壊して「自分こそ統一大統領になれる」という信念を一度は持った。戦時作戦権の返還を初めて推進したのも保守政権だった。革新政権が北朝鮮に幻想を持って融和、時には屈従的な姿勢だったとすれば、保守政権は北朝鮮に傲慢だった。とはいえ、いまやそのような夢は完全に消えた。1990年代から30年ぶりに復活した「赤化統一」の脅威を、尹錫悦政権は冷静に直視すべきだ。
いまの韓国の立場から国家安保と国家生存は最も重要な課題だ。「経済外交」ではなく、「軍人による外交」がより重要となった。この場で、韓国大統領が「統一大統領になる」という言葉は妄想にすぎない。
◆米韓同盟を日米同盟のレベルに格上げすべき
――北朝鮮の赤化統一への意志を無力化する方法は何か。
韓国の一部で提起されている核開発は不可能だ。韓国が本当に核武装を行おうとすれば、国際制裁で経済が崩壊する。米国の戦術核を配置したり、米国との核共有は意義のあることだが、最終的に核兵器の使用ボタンを押すのはたった1人、米国大統領だ。最終的、かつ唯一の方法は米韓同盟を米英・日米同盟と匹敵するように大幅に強化することだ。
――米韓同盟は今もしっかりした、強力なものではないのか。
そうではない。米英、日米同盟の結束度が10点だとすれば、米韓同盟は6~7点に過ぎない。これから9~10点になるように韓国の戦略的価値と魅力をより高めるべきだ。米韓同盟を過信しては絶対にならない。しかし、韓国の生存を守るほかの代案はない。
◆尹政権は北朝鮮に強硬姿勢を見せる必要はない
――尹錫悦政権はこのような状況においてどのような北朝鮮政策を行うべきか。
北朝鮮とのほとんどすべての経済交流が禁止されており、南北の交流と米朝関係が滞った「ニューノーマル」がおそらく長く続くだろう。尹政権は人道的支援程度はできる。この場において、尹政権は北朝鮮に対して強硬路線をアピールするようなスローガンを大声で叫ぶ必要はない。安保の強化はもとより「朝鮮半島の平和破壊の主犯」という攻撃の口実にしかならないだろう。
――北朝鮮に向かって強硬的な姿勢を減らしてもいいのか。
その代わりに米国との実質的に同盟関係を深め、北朝鮮に対する拡張抑止の強度を高めるべきだ。また北朝鮮に向かって大なり小なりの文化交流や支援を時々提案すべきだ。北朝鮮の挑発や敵対行為があるとき、それを熱戦へ拡大させないように朝鮮半島情勢をきちんと管理すべきだ。
◆文在寅政権は非現実主義的幻想に囚われた
――文在寅政権の5年間に行われた北朝鮮政策をどう評価するか。
2017年末から19年初頭までの前半において、文政権は朝鮮半島で戦争勃発の可能性を減らした。平倉冬季五輪外交と対北特使団の訪問などで緊張緩和を成し遂げた。しかし、文政権が打ち出した「朝鮮半島ドライバー(運転手)論」は、事実と違うウソだった。当時、本当のドライバーは北朝鮮だった。2019年初頭から文政権は非現実主義的幻想に囚われ、北朝鮮との関係において失敗した。
――なぜ失敗というのか。
2018年末からはトランプ前大統領が北朝鮮を攻撃する可能性が弱まりながら、北朝鮮の立場からすれば韓国政府は何の役にも立たなくなったためだ。国際的な制裁があり、文政権は北朝鮮への支援が一切できなかった。北朝鮮の立場からは、韓国は米港を管理する道具としても、ATMの役割さえもできない無用の存在となった。このため、北朝鮮は文政権の平和プロセスや南北文化交流、離散家族の再会などを徹底して無視した。
――韓国の革新勢力の北朝鮮観を評価するならどうなるか。
韓国の革新派は韓国や他の国に対して政治的な分析を行う際に、政権エリート層を鋭く批判する。しかし北朝鮮に対しては、そのような批判的な見方が完全に消え去ってしまう。北朝鮮エリートの最高目標は体制と権力の維持だ。経済成長や住民生活の改善などは、単なるお飾りにすぎない。韓国の586世代(1950年代生まれ、80年代に大学生で現在60代以上)の革新派はこの事実に目をつぶり、北朝鮮エリート層を「自主平和統一」に満ちあふれた同伴者としてみる。これはとんでもない幻想だ。
ランコフ教授は「北朝鮮エリート層が受け入れることができる統一方式は赤化統一だけであっても、韓国の革新派は南北間の自由往来が可能な世界、すなわち妙香山を自由に登り、北朝鮮の人たちと話をし、ソウル駅からKTXに乗って北朝鮮の沙里院を見物に行く未来を創造する。これは到底不可能な夢だ」と指摘する。
◆「北朝鮮エリート層は平和統一のためのパートナー」は幻想だ
――なぜ不可能なのか。
北朝鮮エリートの立場からすれば、すべての韓国人は「危険な思想的ウイルスの保菌者」だからだ。韓国人の服や靴、態度、身のこなし、肌の色に至るまですべてが危険だ。韓国人と接触すればするほど、北朝鮮の人民の体制に対する忠誠心が揺らぐ。そのため、開城工業団地や金剛山観光で保衛部員のような「分厚い思想の防疫服」を着ているごく少数の北朝鮮人だけが、韓国人と接触できる。
――北朝鮮が鎖国政策や核開発を放棄する可能性はないのか。
北朝鮮エリート層は体制維持のために核兵器と鎖国政策、住民監視統制を駆使する。鎖国政策を解き、住民監視が緩めば、首領唯一体制はすぐさま崩壊する。核は国内の危機発生時に外部の介入を防ぐ手段でもある。彼らにとって非核化は自殺行為だ。「北朝鮮の非核化は可能か」という質問は、「どうすれば500歳まで生きることができるだろうか」という質問とほぼ同じだ。
――南北統一は果たして可能なのだろうか。
結論から言えば2050年、すなわち南北分断100周年となる時点まで統一がなされなければ、永久に分断されたままとなる可能性が高い。世界史を見ると、分断が3~4世代、約100年続くと共有する民族意識と統一に対する思いが消える。韓国の20~40歳代が持つ経験と価値観は、北朝鮮の同年代と180度違う。韓国の青年たちは徐々に北朝鮮に対して無関心になり、統一に敵対的になることもある。
◆「韓国民族」と「朝鮮民族」は別個に成長中
ランコフ教授は「2010年ごろから朝鮮半島の双方で韓国民族と朝鮮民族という完全に別の民族意識が生じつつあり、その異質さが最近になって急速に深まっている。韓国の青年たちにとって東京やニューヨーク、パリが平壌よりはるかに近くてなじみ深い」と言う。
――南北統一は今後、必ず必要だろうか。
米国や英国、カナダなどは言語と文化がほとんど似ているが、別途の国家として政治体制が違う。南米の20数カ国と20数カ国のアラブ諸国もまた、言語と歴史を共有したり統一された考えはない。南北統一はより広い市場が生じ、安保面での不安が消え、北朝鮮の人たちの能力を発揮するチャンスが広がるといった見方をすれば肯定的だ。しかし、統一後の20~40年の過渡期はとても苦しく混乱するだろう。
――韓国にとって北朝鮮はどのような存在か。韓国はどのような北朝鮮政策の原則を持つべきか。
韓国政府や主流のメディアの統一論をみると、主に北朝鮮の天然資源と低廉な労働力について指摘する。低賃金の単純労働力を提供する新たな経済的領土として北朝鮮を見ているということだ。これは19世紀の帝国主義を連想させる。われわれが統一を本当に望んでいるのなら、北朝鮮住民を資源よりは同胞として、北朝鮮の国土を搾取の対象ではない、わが国として見るべきだ。これが基本原則だ。そうしてこそ、統一後の過渡期の厳しい時代を早く克服でき、南北統合も可能だ。
――韓国国民が北朝鮮との統一を望んでいないのなら?
その場合には、北朝鮮を問題の多い隣国の一つとして見なし、平和共存を最高目標とすべきだ。そうなると、北朝鮮は韓国と交流を断絶し、時々軍事挑発を行う可能性がある。言い換えると、南北が別個の主権国家として共存する場合、近い未来に朝鮮半島における完璧な平和は不可能だ。それでも、危機を管理して大きな衝突を回避する共存体制をつくるべきだ。平和共存は双方が軍事力と抑制手段としてバランスを取れば可能だ。
◆米中対立の中で北朝鮮の位置づけが高まった
――北朝鮮のエリートたちがこれまでの態度を変える可能性はないのか。
経済的厳しさと強力な対北制裁にもかかわらず北朝鮮が体制を維持していることは、北朝鮮のエリートたちがしっかりと団結しているためだ。彼らの規模は家族を含めると数十万人から最大100万人以上となる。労働新聞はもちろん地方の新聞で社説を書いたりする記者や住民監視に熱心な保衛部員、「首領様、万歳!」「米帝打倒」と叫ぶ宣伝幹部たち、現代技術や経営方式を知らない北朝鮮の経済エリートたちは、すべて韓国主導の統一韓国では立つ瀬がない。彼らは北朝鮮の体制が崩壊すれば、既存の権力と特権をすべて失う。体制維持に必死とならざるをえない。
ランコフ教授は「まだ体制に近くはない北朝鮮の若い下級エリートでさえ、現段階で政治的運動を行い体制に挑戦するかは疑わしい。しかし、彼らに自由民主主義や中国式の改革・開放のような代案を続けて聞かせるべきだ」という。
――北朝鮮の最近の対南政策が、これまでと変わった点はあるか。
米中対立の激化で、中国の立場からは北朝鮮の戦略的価値が大きく高まったことを最初に指摘したい。その結果、北朝鮮は中国からはるかに多くの油や食料をただで支援されることになり、韓国やその他国家との経済協力、または援助されることの必要性が低まった。また、ICBMと戦術核などの開発が成功したことだ。このような変化は、北朝鮮の対南政策を攻撃的なものに変えている。2022年4月、金正恩・金与正の「対南核攻撃」発言に、赤化統一への野望が読み取れる。
◆米国大統領がトランプ的な孤立主義を行うことに備えよ
朝鮮半島の安保状況は、最近強く危険になった。米中対立で朝鮮半島は戦略的最前線となった。これに加え、北朝鮮は赤化統一を画策している。韓国政府は国際情勢により多くの神経を使うべきだ。トランプ前大統領より若く、よりエネルギッシュなリーダーが、トランプ式の孤立主義のような朝鮮半島政策を行うとすれば、それにどう対応すべきかつねに念頭に置いて備えるべきだ。
――韓国国民とエリートたちに忠告しようとすればどうなるか。
最近のウクライナ戦争から教訓を得たほうがよい。ロシアは自らの能力は過大評価し、相手の能力は過小評価した。だから苦戦を招いている。また安保では0.1%、0.01%の可能性も無視してはならない。韓国人は世界6位の軍事力を持つ韓国軍にとって、それより劣る北朝鮮人民軍は脅威にならないと信じている。ところが、韓国の在来式軍事力をもって、本当に戦術核を防ぐことができるだろうか。核兵器が拳銃であるならば、韓国の最先端の通常兵器は水鉄砲だ。韓国は北朝鮮の挑戦を過小評価し、錯覚に陥ってはいけない。行き過ぎた楽観主義は判断力をマヒさせることがある。