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「北朝鮮関連虚偽情報の実態と対応」

ニュースリリース|トピックス| 2020年05月12日(火)

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慶南大学極東問題研究所
「北朝鮮関連虚偽情報の実態と対応」(2020年5月11日)
【序  文】


 健康異常説に死亡説まで出た金正恩・朝鮮労働党委員長が5月1日、公開活動によって建材であることを誇示した。われわれすべてが、北朝鮮関連のフェイクニュースがもたらす否定的な影響がどれだけ深刻なものかを実感することになった。一方で、今回の事態は北朝鮮情報を扱う政府や国会(政界)、国内外メディア、専門家集団がどう対応すべきかについて振り返る契機を提供した。金委員長をめぐる虚偽情報の生産・流通・増幅に関する一連の過程を、単純に「ハプニング」と考えるのではなく、関連する主体らは国民的信頼を得るための契機とすべきだ。今回の事態に対する冷静な分析と代案を用意することなく、たんなる過去の出来事として考えてしまうと、後々、われわれはすべて大きな代価を支払うことになるかもしれない。

 金委員長が5月1日に公開活動を行ったことを契機に、慶南大学極東問題研究所は再発防止のための効果的な方案を用意することが喫緊の課題だと認識し、報告書「北朝鮮関連虚偽情報の実態と対応」を発行した。北朝鮮関連フェイクニュースの流通過程と類型ごとのケースをみて、このようなフェイクニュースが南北関係や対北朝鮮政策、そして国家安保にどのような影響を与えてきたかを具体的に分析した。そして、このような事態の再発防止のため、政府や国会(政界)、メディア、学者・専門家らは今後どのような姿勢で挙誤情報を扱うべきか、望ましい役割は何なのかについて総合的な見解を提示した。

 この報告書が今後、北朝鮮関連の虚偽情報の生産・伝播・増幅による害悪をなくすための参考になることを望む。北朝鮮関連情報が繰り返されるフェイクニュースの素材としてこれ以上に悪用されず、政府や国会、メディア、専門家の信頼度を高める契機になることを望む。究極的には、北朝鮮関連情報がより科学的で合理的に分析され共有されながら、対北政策の推進エンジンを強化させ、朝鮮半島の非核化・平和への過程の一助になることを願う。

2020年5月
慶南大学極東問題研究所長 イ・グアンセ
 

【要  約】北朝鮮関連虚偽情報の実態と対応

Ⅰ.北朝鮮関連虚偽情報の流通事例と分析・評価
 1.研究の背景及び必要性
 ■メディアの環境の変化による無分別なフェイクニュース生産と、これに対する憂慮が増大
 ■対北情報の信頼性及び対北政策に与える影響を分析する必要性

 2.「金正恩健康(身辺)異常説」に対するメディアの動向分析
 ■「Bigkinds」を利用し、韓国内54のメディアによる3283件のニュース記事をビッグデータ分析(2020年5月4日検索)
 ●記事推移分析(図略)
  ー北朝鮮専門インターネットメディアの「健康異常説」報道(4月20日)が発火点となり、CNN発の「重体説」報道(4月21日)を経て、関連記事が爆発的に増加
 ●関連語ワードラウンド分析(上位1000個の記事)
 (図略)
  ー重体説の報道で関連ニュースを増幅させたCNN、金委員長「健康(身辺)異常説」の発端となった「太陽節」などが関連語として登場したことが特徴
 ●単語関係図(略)
  ー既存の「金正恩」というキーワードと多く関連されていなかった「平安北道」「妙香山」が出てきたことは、「妙香山施術」(平安北道)に関連したニュースが出され拡散されたことを意味する
  ー最初に「健康異常説」を提起した『デイリーNK』と「重体説」で関連記事数を爆発的に増やしたCNNが関係図に出ていることは、韓国メディアが二つの媒体の記事を多く引用したことを意味する

 3.対北フェイクニュースのパターンと特徴
 ■生成→電波・強化→再生産・増幅→検証、の4段階で進む
  ・生成=韓国内:特定メディア、専門家、脱北者、海外:メディア
  ・電波・強化=生成されたフェイクニュース:既存メディアを中心に電波、国内政界・専門家が加勢し内容を強化
  ・再生産・増幅=韓国・海外メディアの相互引用による再生産・拡散(循環構造)、最初に提起した問題以外の内容を結合・変形・増幅
  ・検証=北朝鮮の公式報道以降、関連ニュースの誤報が確認
 ●生成された対北フェイクニュースの電波通路は韓国の既存メディアだが、最近の情報・通信の発達によりSNSあるいは個人放送プラットフォームなどで拡散される傾向
 ●海外で韓国にフェイクニュースが電波される場合、海外有力メディアの権威に依存し、該当内容に対する確認作業がおろそかに
  ー主要外信や通信が世界の主要指導者の死亡と関連して正確な確認作業を行わないまま報道する傾向がある

◇対北フェイクニュースの主要ケース要約
 ●金正恩委員長健康異常説(2020年)
日 付 内容・展開過程
4月11日 金委員長が朝鮮労働党政治局会議を主宰して以降、公式席上から消える
4月15日 金委員長、錦繍山太陽宮殿への参拝に参加せず
4月17日 北朝鮮専門家が「金委員長健康異常説」を提起、一部メディアがウェブ上で報道
4月20日 韓国の北朝鮮専門ネットメディア「金委員長が4月12日に心血管施術後、別荘で治療中」と報道
 *ネット上で報道が迅速に拡大
4月21日 ー一部メディアが紙面で報道、身辺異常の深刻さ、蓋然性を提起
ーCNN、米政府高官の発言を引用「金委員長重体説」を提起
ーウォン・ドルレートが急騰、株価下落
ー韓国国会の外交通商委員会委員長「平壌が完全に封鎖、身辺異常」説を提起
ー国会議員当選者「心血管異常、摂政体制」を提起
4月22日 日本メディア「金与正が2019年末から権力代行準備を進めている」報道
4月23日 ー世界と東北アジア平和フォーラム理事長「事実上、死亡」とSNSに投稿
ー国会議員当選者「金平日有力説」を提起
ー日本メディア、新型コロナウイルスの拡散で金委員長が元山への異動可能性を提起
 *韓国NSC常任委員会会議後、報道資料で「特異な北朝鮮内部の動向は発見できない」と明言
4月24日 ー国会議員当選者「動けない状態」と言及
ー一部韓国メディア「金委員長が元山に滞在、新型コロナウイルスによる隔離説」を提起
4月25日 ーロイター通信「中国の医療専門家など代表団が派遣」報道
4月26日 ー日本メディア、50数名の中国医療人を急きょ派遣と報道
ー『38ノース』、金委員長の専用列車が元山に定着確認、「新型コロナウイルスを避けている」との説が浮上
 *韓国統一相、NSC常任委員会での発表内容と国会常任委員会で「北朝鮮内部に特異な動向はない」と強調するなど関連省庁と一貫した対応を行う
4月27~29日 国会議員当選者がSNSやCNN、韓国メディアによるインタビューを契機に「金正恩健康異常説」を再生産
5月1日 国会議員当選者「先週末に死亡、99%確信」と発言
5月2日 金委員長、順川リン肥料工場の竣工式に参加、公開活動が報道される

 ●金英哲粛清説(2019年)
日 付 内容・展開過程
2月 ハノイでの米朝首脳会談以降、北朝鮮メディアで金英哲、金革哲の身辺異常説が提起
5月31日 ー韓国有力メディア、対北消息筋の発言を引用「金英哲は労役刑、金革哲は銃殺」と報道
ー『ニューヨークタイムズ』が「ワシントンで誰も(上記に対する)反論できる情報を言及しない」と報道
ー聯合ニュースなど韓国メディアと外国メディアがこれを引用して迅速に報道
  *韓国有力メディア「平壌で粛清ブーム」などの見出しで数回報道
6月3日 韓国有力メディア、日米高官発言・外信の動向を紹介
6月7日以降 6月2日に金英哲、6月3日に金与正、金委員長の公開活動に同行

 ●金敬姫毒殺説(2013~20年)
日 付 内容・展開過程
13年12月 張成沢粛清以降、金敬姫が表に姿を現さないと、韓国内外のメディアで危篤説、脳卒中説、自殺説など身辺異常説が継続して提起
15年5月11日 CNN、脱北者の元高官の発言を引用「金委員長が2014年5月に金敬姫を毒殺」と報道
15年5月12日 ー韓国主要メディア、ニュース速報で「毒殺説」を集中して報道
ー以降、多数のメディアが脱北者や専門家へのインタビューで拡散・増幅
 ・脱北者出身の元高官「情報提供者は15年1月に脱北者したパク・ジェギョン副部長と推定、金敬姫を毒殺」
 ・専門家「情報提供者は金正恩の秘密資金を管理していた党中央の副部長級」
20年1月 金敬姫が13年9月以降6年4カ月ぶりに、金委員長と公開活動に登場

 ●金日成主席銃殺説(1986年)
日 付 内容・展開過程
11月16日 韓国有力メディア、日本の外交消息筋と休戦ラインでの動向などを基に「金日成銃殺・死亡説」を初めて報道
11月18日 韓国有力メディア、金正日失脚説、軍部狙撃説など繰り返し報道
11月10~18日 7日間、北朝鮮メディアが贈り物、祝電などで金日成主席の動静を報道(11月10日ぶり)
11月19日 金日成主席、訪朝したモンゴル国家元首を出迎え、身辺異常説が解消


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