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北朝鮮党政治局会議と最高人民会議第14期第3回会議の分析と示唆

ニュースリリース|トピックス| 2020年04月29日(水)

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韓国・国会立法調査処:イ・スンヨル

(要約)
 2020年4月の朝鮮労働党政治局会議と最高人民会議第14期第3回会議の最大の議題は、「新型コロナウイルス」事態を克服するための国家体制確立だったと要約できる。今後予想される北朝鮮の経済・政治レベルでの変化を、二つのレベルから整理できる。まず、北朝鮮の経済状況が国家レベルの非常態勢にも関わらず、さらに悪化する可能性が高い。次に、金与正・朝鮮労働党第1副部長の地位とその役割が「党中央」(後継者)の役割へと拡大される可能性も排除できない。したがって、北朝鮮の経済と政治状況の変化に合わせ、韓国政府はすべての状況に備えた総合的な対策を立てる必要がある

(1)はじめに

 2020年4月12日、北朝鮮の最高人民会議第14期第3回会議が平壌で開催された。金正恩・朝鮮労働党委員長が出席しなかったが、崔龍海常任委員長の主宰で進められた。1)一方で、4月11日に行われた朝鮮労働党政治局会議は、金正恩委員長が直接主宰した。

 最高人民会議は北朝鮮の憲法上、国家の最高主権機関であり、行政・司法などすべての国家機関を組織する権限を持つ。2)しかし、北朝鮮は国家が党より優位にあり、憲法上の最高主権機関である最高人民会議よりも政治局会議の主要決定が優先される。そのため、北朝鮮は最高人民会議の前日となる4月11日に朝鮮労働党の最高政策決定機関である政治局会議を開催し、2019年12月の総会で確定した主要経済計画を変化したた現実に合わせて調整すると明らかにした。3)

 一方、政治局会議で北朝鮮は、「新型コロナウイルス」事態と中朝国境の閉鎖が長期化することで状況が変化した中、その経済目標を足下の状況に合わせることなどをはじめ最高人民会議に提出する主要案件を討論した。したがって、本稿ではコロナ事態の下で、北朝鮮の国内外政策の方向性を考えることができる政治局会議と最高人民会議の主要内容を振り返り、これを基に今後の政策の方向性を提示する。

(2)会議の主要内容

1)労働党政治局会議の分析

 2020年4月12日付の党機関紙「労働新聞」は今回の政治局会議の開催目的について、2019年12月の党中央委員会第7期第5回総会で決定された主要政策を一部調整・変更するためのものだと明らかにした。4)北朝鮮が総会の決定内容を公の場で修正すると明らかにした理由は、対北制裁とコロナ事態による国境封鎖が継続する状況において、2020年の経済的成果に悪影響を与えるのは避けられないことを認めたものと考えられる。2020年4月11日、中央委員会政治局会議の主要議題は、下の【表1】の通り。5)

 政治局会議で最も重要な議題とされたのは新型コロナ問題であり、この解決のために中央委員会と国務委員会、そして内閣名義で「共同決定書」を採択した。「共同決定書」の主な内容は、①国家的な非常防疫事業を継続して強化する、②2020年の経済建設と国防力強化、③すべての国家機関で人民生活の安定のための具体的な目標と方案を用意するとしている。6)北朝鮮が政治局会議でコロナ事態に重きを置いたことは、今回の事態が「短期間で解消することは不可能」であり、「われわれの闘争と前進するうえで一定の障害をなりうる条件」だと見なしたためだ。7)

 また政治局会議では、幹部・組織問題も主要議題として処理した。このうち、中央委員会政治局委員と候補委員の補選が最も注目されるが、党中央委員会第1副部長の金与正氏が政治局候補委員に補選された。金与正氏は2019年4月の第7期第4回全員会議で、ハノイでの米朝首脳会議が決裂した余波で政治局候補委員から退いた後、1年余りで再び政治局候補委員として最補選された。金与正が復帰したのは、19年12月の総会で党中央委員会第1副部長(組織指導部)に選任されて以降、彼女の役割拡大と密接な関係があることがわかる。

2)最高人民会議第14期第3回会議の分析

 最高人民会議第14期代3回会議が予定よりも二日遅れの4月12日に開催された。全国687人の代議員が出席した同会議では、6つの議案が処理された。第1議案から第3議案は最高人民会議常任委員会副委員長であるテ・ヒョンチョルの報告で進められた。残りの議案はすべて、出席者の討論を経て決定された。各議案の主要内容は、【表2】の通り。8)

 今回の会議で最大の議案は、経済危機を克服するための内閣の経済施策において指摘された通りコロナ事態の長期化による2019年12月の総会で決定された主要内容の調整が避けられない中、経済運営の主体である内閣が提案した危機克服案について集中的な実績報告が行われた。

 主要内容は次の通り。最初に電力工業部門では水力による電力生産能力を103%以上増産し、このために前年比の石炭生産は123%、火力炭供給は122%増加させた。次に、金属工業部門では金策製鉄連合企業所の銑鉄と鋼鉄、圧延鋼の生産をそれぞれ122%、102%、137%まで増やした。三つ目に、鉄道運輸部門で貨物輸送を前年比105%増加させた。4つ目に、建設・国土環境部門では、三池淵市整備第2段階工事を完工し、元山葛麻海岸観光地区と陽徳温泉文化休養地の樹立化作業、平壌・元山観光道路に対する施設改善事業を終わらせた。9)これらを基に、今回の最高人民会議で調整・変更された内容を推定すれば、順川リン肥料工場の完工、主要製鉄・製鋼生産の保障、平壌総合病院の建設、地方の学校増設・改築、電力損失防止・発電整備の保障などとして予想できる。10)

 また最高人民会議では、国務委員会に対する組織人選が行われた。注目すべきは、非核化交渉など米朝関係に直接的な影響を与える外交ラインの変化だ。党国際部長であるキム・ヒョンジュンと外相の李善権が第7期第5回全員会議で解任された李スヨン(国際部長)と李容浩(外相)が取って代わり、国務委員会委員に任命された。したがって、これまで米朝首脳会談など対米外交に責任を負っていた崔善姫第一外務次官とともに、「キム・ヒョンジュン-李善権-崔善姫」ラインで新設された「対米交渉局」を通じて、どのように米朝関係を主導していくのかに関心が高まっている。

(3)示唆

 今年の党政治局会議と最高人民会議で最大の話題は、コロナ事態を克服するための国家非常態勢確立であると要約できる。ここで議論された内容を土台に、今後予想される北朝鮮の経済・政治レベルでの変化を、次のように二つのレベルで分析する必要がある。

 まず、北朝鮮の経済状況が国家レベルの非常態勢にもかかわらず、さらに悪化する可能性が高い。北朝鮮は今年1月末から国境封鎖を含めて強力な国家非常防疫体系を実施している。今回の政治局会議で党と国務委員会、内閣の「共同決定書」により、第7期第5回全員会議の決定を調整・変更することを決定した。したがって、北朝鮮経済はこれまで国際社会の対北制裁の長期化でかなり脆弱となっており、コロナ事態による国境封鎖で観光事業の中断による外貨獲得難がさらに厳しくなり、特に市場に供給される輸入品の供給に支障を来すだろう。これにより生活必需品と資材価格の暴騰による人民経済の沈滞がさらに加速するものと思われる。

 次に、金与正の地位と役割が「党中央」(後継者)の役割にまで拡大される状況を排除できない。今回の政治局会議で、金与正が政治局候補委員に再任命されたことは、「白頭血統」の統治基板を強化する役割を果たすものと思われる。年初から金正恩委員長に代わって金与正氏が自分の名義で対南・対米談話を発表するなど、とても活発な活動が注目された。独立した政治主体として金与正の活動は、首領唯一領導体系という北朝鮮政治の特性上、党の唯一指導体制に責任を負う「党中央」の役割であり、これは党の最高権力機関である組織指導部第1副部長の役割だけでなく、白頭血統の後継者としての地位と役割へ拡大される可能性を予告していると考えられる。特に2012年以降初めて太陽節に参拝しなかったことで、金正恩の身辺異常説が指摘されるようになると、金与正氏への注目が高まった。もちろん、依然として政治局候補委員に留まっている彼女が、すぐさま後継者の地位と役割を与えられると考えるのは早急すぎる。したがって、政府は予見しうるすべての北朝鮮の変化を考えた総合的な対北政策を立案する必要がある。

1)今年の最高人民会議は4月10日に招集される予定だったが、北朝鮮の内部事情で延期された。
2)統一部統一教育院『北韓知識辞典』(ソウル:統一部、2013年), p.620. 最高人民会議は国務委員会委員長、最高人民会議常任委員長、内閣総理、最高裁判所所長を選挙または召喚する権限を持っており、憲法修正、国家の対内外政策の基本原則の樹立、人民経済発展計画の承認、国家予算の承認、条約批准などの権限を持っている。
3)「労働新聞」2020年4月12日付。
4)同日付の記事。
5)「労働新聞」2020年4月12日付。
6)同日付の記事。
7)同日付の記事。
8)「労働新聞」2020年4月13日付。
9)同日付の記事。
10)ホン・ミン「北朝鮮の党政治局会議および第14期第3回最高人民会議分析」『Online Series』2020年4月14日、p. 3。

 

【表1】2020年朝鮮労働党政治局会議の主要内容
主要案件 会議内容
新型コロナウイルス ・世界的な大流行に対処する「共同決定書」を採択
・党中央委員会第7期第5回総会の決定事業に対する一部調整・変更
国家予算 ・2019年国家予算執行決算
・2020年国家予算承認
組織問題 ・党中央委員会政治局委員、候補委員の補選
・党中央委員会委員、候補委員の召喚・補選
・党中央検査委員会委員の召喚・補選
・党中央委員会検閲委員会委員の召喚・補選
幹部人事 ・党中央委員会:パク・チョンチョン(委員)、金与正(候補委員)、李善権(候補委員)
・党中央委員会委員:リ・テイル、李善権、キム・チョル
・党中央委員会候補委員:キム・ジョンナム、リ・ソンハク、チョン・ミョンシク、シン・チャンイル、チャン・ヨンロク、キム・スンチョル
・党中央委員会検査委員:パク・ヨンジン
・党中央委員会検閲委員:リ・ギョンチョル、ウォン・ヒョンギル
 
【表2】最高人民会議第14期第3回会議主要内容
主要法案 主要内容
再資源化法 ・自らの力と技術、資源で経済の持続的発展を図るため
・朝鮮民主主義人民共和国「再資源化法」を採択
遠隔教育法 ・科学の母である教育の発展をより推し進めるため
・朝鮮民主主義人民共和国「遠隔教育法」を採択
除隊軍官生活条件保障法 ・社会全体に軍事重視の気風をしっかりと定着させるための法律的担保を用意するため
・朝鮮民主主義人民共和国「除隊軍官生活条件保障法」を採択
内閣の事業と課業 ・党第7期第5回総会の決定と党政治局会議の共同決定書を貫徹
・内閣事業評価・分析を土台に自立経済強国建設に責任と役割を決議
国家予算 2019年国家予算の執行結果と2020年の国家予算承認
組織・幹部人事 ・国務委員会委員(解任):チェ・プイル、ノ・グアンチョル、リ・スヨン、テ・ジョンス、リ・ヨンホ
・国務委員会委員(任命):リ・ビョンチョル、キム・ヒョンジュン、キム・ジョングアン、李・ソンクオン、キム・ジョンホ
・最高人民k内儀:コ・ギルソン(常任委員会書記長)、キム・ヨンファン(同委員)、キム・ジョンホ(法制委員会委員長)、キム・ドクフン(予算委員会委員長)、キム・ヒョンジュン(外交委員会委員長)
・内閣:ヤン・スンホ(副総理)、キム・チョルス(資源開発相)、キム・ジョンナム(機械工業相)、リ・ソンハク(軽工業相)


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