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北朝鮮の生活水準は中下位の開発途上国レベル

ニュースリリース|トピックス| 2020年02月09日(日)

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韓国・統一研究院
キム・ソクチン、ホン・ジェファン『国際比較を通じて見た北朝鮮の生活水準』
(2019年12月23日発行)
http://www.kinu.or.kr/pyxis-api/1/digital-files/fc56472e-4bdf-455e-909f-7e01f6aab39e

【要  約】

 北朝鮮は世界で最も貧しい国の一つとされているが、このような一般的な評価を裏付ける証拠はとても不足している。最近、新たに確保された資料によれば、北朝鮮の生活水準はこれまでしばしば考えられていた水準よりも高いことがわかった。2017年にUNICEF(国連児童基金)の支援を受けて北朝鮮の統計当局が実施した「大衆指標群集調査」(MICS、Multipul Indicator Cluster Survey)がまさにそれだ。2017MICSでは、家計財産、住居環境、乳幼児栄養状態など生活水準に関連した資料が収集されているが、この資料は大多数の開発途上国でも得られるものと同種の資料であり、北朝鮮の生活水準が他の開発途上国に比べてどの程度なのかを評価できるようになった。

 2017MICSが北朝鮮の実際の事情をどれだけ正確に調査されたものかは、検証する必要がある。UNICEFの支援を受けてはいるが、調査の主体は北朝鮮の統計当局であり、調査結果に相当手を入れられている可能性を排除できないためだ。しかし、中国の貿易統計で内国消費財の対北朝鮮輸出実績を確認してみると、2017MICSで報告された家計資産保有率がおおよそ現実的な数字であることがわかる。北朝鮮の発電装備の輸入が大きく増えたものと思われ、電気利用率も相当上昇したものと判断できる。また2017MICSに報告された住居環境資料は、2008年の人口センサス、14年の社会経済、人口・健康調査(SDHS)結果よりもはるかに現実的だ。乳幼児の栄養状態資料は身長や体重のような実測資料から得られたものであり、より信頼するに値する。

 グローバルデータラボの研究者らが開発した国際財産指数の方法論により、北朝鮮と開発途上国の家計財産を比べると、2017年現在、北朝鮮の財産水準は中上位の開発途上国よりははるかに低いが、最貧国よりは一段階高く、中下位の開発途上国の平均と同等か、それよりも少し低いと出ている。

 北朝鮮の財産不平等の状態もまた、平凡な中下位開発途上国と同等のように見える。すぐに想像がつくと思うが、平壌と地方の間の格差は大きいことがわかるが、首都または最もよく生活できる地域と残りの地域間の格差は、北朝鮮だけの現象ではない。大部分の開発途上国において普遍的に生じる現象であり、北朝鮮より不平等がはるかに深刻な国も多い。

 北朝鮮の健康水準についても、同様な結論を得られる。乳幼児の栄養不足比率を中心指標とし、北朝鮮と開発途上国を比べてみると、北朝鮮の健康水準は開発途上国の中で中下位圏に属することがわかった。すなわち、健康水準に関する限り、北朝鮮の相対的位置は家計財産の場合より高いものと推定できる。家計財産の場合と同様に、健康水準も地域別、階層別で不平等ではあるが、このような不平等は他の開発途上国で一般的に観察できるレベルから抜け出していない。結論的に、この報告書の研究結果は、北朝鮮を漠然と世界最貧国の一つ、そして最も不平等が深刻な国の一つとして見なしてきた通年が誤りであることを示唆している。

【結論と示唆】

 北朝鮮は世界で最も貧しい国の一つとされているが、このような一般的な評価を裏付ける証拠はとても不足している。最近、新たに確保された資料に寄れば、北朝鮮の生活水準はこれまで考えられていたレベルよりは高いことが示されている。2017年にUNICEFの支援を受けて北朝鮮統計当局が実施した「多重指標群集調査」(MICS)がそれだ。2017MICSでは、家計財産や住居環境、乳幼児栄養状態など生活水準に関連した資料が収集されているが、この資料は大多数の開発途上国に対して得られる同じ種類の資料であり、北朝鮮の生活水準が他の開発途上国と比べどの程度かを評価できるようになった。

 グローバルデータラボの研究者らが開発した国際財産指数の方法論にしたがって、北朝鮮と開発途上国の家計財産を比べると、2017年現在、北朝鮮の財産水準は中上位の開発途上国よりははるかに低いが、最貧国よりは高く、中下位の開発途上国の平均と同程度、あるいはそれよりも若干低い水準にあることがわかる。北朝鮮の財産不平等状態もまた、平凡な中下位の途上国と似ている。容易に予想できることだが、平壌と地方の間の格差が大きいと出ているが、首都またはもっとも生活が豊かな地域と残りの地域の間の格差は、北朝鮮固有の現象ではなく、大部分の開発途上国で普遍的に現れる現象であり、北朝鮮よりも不平等さが深刻な国も多い。

 北朝鮮の健康水準についても、同様な結論が得られる。乳幼児の栄養不足比率を中心指標として、北朝鮮と開発途上国を比べてみると、北朝鮮の健康水準は開発途上国の中で中将意見に属することがわかる。すなわち、健康水準に関する限り、北朝鮮の相対的な位置は家計財産の場合よりもより高いものであることが推定できる。家計財産の場合と同様に、健康水準も地域別、階層別に不平等ではあるが、このような不平等は他の開発途上国で一般的に観察される水準から抜け出していない。結論的に、この報告書の研究結果は北朝鮮を漠然と世界最貧国の一つ、そして最も不平等が深刻な国の一つと見なしてきた通念が誤りでありうることを示唆している。

 以上の推計結果がどれだけ妥当かについては、合理的な疑念がありえる。UNICEFの支援を受けてはいるが、調査の主体は北朝鮮統計当局であり、2017MICSに報告された資料が相当な偏向を内包する可能性を排除できないためだ。しかし、中国の貿易統計で内国消費財(主に家電製品)の北朝鮮向け輸出台数を確認してみると、2017MICSに報告された内国消費財保有率はおおよそ現実的な数字であることがわかる。家電製品保有率が相当高いことを見ると、電気の利用率もこれまで考えられてきた水準よりは高いものと思われる。また2017MICSに報告された住居環境資料、特に化粧室施設と上水源の資料は、2008人口センサスと2014社会経済、人口および健康調査(SDHS)の結果よりもはるかに現実的だ。ただ、施設の維持補修がきちんとなされておらず、実際の利用率は2017MICSに報告された資料よりは低い可能性もある。一方、乳幼児の栄養状態資料は、身長や体重のような実測資料から得られたものであり、比較的信用できる。結論的に、北朝鮮の2017MICS資料は、若干の課題な推定がある可能性はあるが、誤差はそれほど大きくはないものと判断される。

 残された課題の一つは、北朝鮮が家計財産の水準に比べ食品消費の水準が低い国である可能性が高いということだ。すなわち、北朝鮮の家計財産は中下位の開発途上国の平均レベルに近いが、食品消費をはじめとした消費水準はそれよりも一段階低いことがありうる。しかし、このような問題を考慮したとしても、財産と消費を総合して判断してみると、北朝鮮の生活水準は大部分の最貧国より高い可能性が大きいものと思われる。

 北朝鮮の家計財産が中下位の開発途上国の平均レベルに近くなったのは、最近の現象だ。10~20年前、北朝鮮における大部分の家具は家電製品など内国消費財を使ってはいないが、2000年代後半以降、中国向け鉱物資源の輸出をはじめとする各種の外貨を稼ぐことができる事業が行われ、内国消費財の輸入が急増した。北朝鮮は、世界的な経済大国であり、高成長を遂げる国である中国と隣接しているという地理的な恩恵を十分に得たことになる。また市場化と私経済部門の発展により、一般住民の所得と生活水準は継続して工場しているものと思われる。この10~20年の間、家計財産と生活水準が継続して上昇したことは、北朝鮮だけでなく大多数の開発途上国に共通して見られる現象だが、おそらくは2010年代の北朝鮮における家計財産の増加速度は、特に速かった可能性が高い。

 北朝鮮の住居環境と衛生水準が大部分の最貧国と比べはるかに良好なことは、社会主義の理念と政策の遺産とも思われる。旧社会主義局は一般的に、公共住宅の建設や公衆保健システムの構築、公益施設の建設に積極的だった。その結果、大多数の開発途上国と比べ、住居環境と衛生水準が良好なほうだった。北朝鮮も社会主義建設の時期やその全盛期に同じような政策を繰り広げ、その遺産が今でも残っているものと思われる。

 もちろん、この研究の推計結果によれば、平等主義的な社会主義の理念にもかかわらず、北朝鮮の地域間の不平等は深刻なことがわかる。北朝鮮当局が政権を維持するため、幹部層と平壌市民など一部の特権層を政策的に優待しており、市場化と対外貿易の発展によって新たな不平等要因も生じたためだ。しかし、この程度の不平等は北朝鮮固有の現象ではなく、開発途上国の大多数で観察できる一般的な現象であり、北朝鮮よりもはるかに不平等な開発途上国も多い。

 この研究で得られるもう一つの示唆は、未来の北朝鮮の生活水準の展望が暗いものになりうるということだ。北朝鮮の家計財産、さらには生活水準が向上した主な理由の一つは、対外経済交流、特に中国との経済交流が増えたことだ。しかし2016~17年に北朝鮮の核・ミサイル実験に対応して国連の安全保障理事会が強力な経済制裁を行うにつれて、北朝鮮の対外経済交流は大きく減少した。また18年からは各種家電製品、機械類、輸送装備など北朝鮮の財産増加に寄与する品目の輸入が禁止された。このため、制裁が十分に解除される時までは、家計財産の追加的な増加を期待することは難しい。外貨稼ぎがほぼ遮断されたことにより、商品の輸入に使用できる外貨保有額も継続して減っていることだろう。大多数の開発途上国の所得、財産は継続して増加しており、今後他の開発途上国と比べた北朝鮮の相対的な位置は今後下落する可能性が高い。17年には北朝鮮の位置が最貧国より中下位の開発途上国に近かったが、制裁が長期化する場合、2020年代には北朝鮮の位置は最貧国水準に下落することもありうる。

 もちろん、非核化・平和交渉に成功し、制裁が解除されれば、北朝鮮経済は再び成長軌道に復帰することもできる。過去よりはるかに速い速度の成長が可能になるものと思われる。しかし、交渉や非核化履行、制裁解除、対外経済関係の復旧などの過程で多くの問題が生じることもありうる。そのため、政府と民間は北朝鮮当局や国際社会と共に、北朝鮮の民生を一日でも早く回復・向上させることができるように、多様な協力事業を繰り広げる必要がある。過去の対北支援では食糧と基礎医薬品など人道的な支援が中心だったが、この研究で見られるように、北朝鮮の生活水準は過去よりも大きく向上しているため、今後は単純な物資支援中心の人道的支援よりは、長期的な経済・社会発展のための、レベルの高い開発協力を積極的に推進することが望ましいだろう。

 Ⅳ章3節で指摘したように、北朝鮮は所得・財産水準に比べ、食品消費の水準が低い方である。脆弱な地域と脆弱な階層が相当数存在しており、食糧支援をはじめとする人道的支援の必要性はなくなったのではない。ただ、この20年間の食糧事情の改善傾向を考慮すると、主食用穀物(コメ、トウモロコシなど)の大規模支援の必要性は、過去よりは多く減少したものと判断される。また国際社会でよく取り上げられるように、影響の均衡問題に注意し、支援対象を特定し、各種栄養素を添加した栄養食品を支援することがより望ましいように思われる。

 人道的支援を超える開発協力において、問題の一つは民生改善に直接的に効果のある部分は農業、保健医療、環境分野での協力だ。農業部門では食生活の質的レベルを高めるため、野菜や果実など園芸農業と畜産業を支援する開発協力プロジェクトが必要であり、保健医療部門では保健医療の知識・技術の伝授、保健医療の人材養成、地域拠点病院の現代化などが必要だ。環境分野では山林造成のほかにも、農村の上下水道をはじめとする生活環境の改善プロジェクトを同時に推進することが望ましいだろう。一方、北朝鮮の地域間の不平等を考えると、過去の平壌地域中心の支援から抜け出し、多くの面で遅れている農村・地方小都市地域に、開発協力事業を多角化する必要がある。
 


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