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韓国・外交安保のブレーンが語る南北・米朝首脳会談の行方

ニュースリリース|トピックス| 2018年12月08日(土)

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 韓国の総合月刊誌『月刊中央』2018年11月号が、韓国大統領の統一外交安保補佐官である文正仁(ムン・ジョンイン)氏のインタビューを掲載した。文氏は文在寅大統領の外交諮問役として有名な人物で、これまでの開催された南北首脳会談のすべてに随行している。今回のインタビューの内容は、今後の南北関係や米朝関係の方向性を知るために、とても有益な内容になっている。

『月刊中央』2018年11月号
韓国は主権国家だ、5.24措置解除に米国の承認は不必要
文正仁・外交安保特別補佐官が話す北朝鮮非核化の未来

■米国は北朝鮮に関する情報と専門家が少なく、韓国政府の意見が多く反映

■金正恩は、南北間の懸案について韓国政府の政治的合意の必要性について認識

■外交安保政策は国家安保室の所管、大統領スタッフの過去の行動に影響されない

■韓国の大企業は慈善団体ではない、北朝鮮に市場経済の仕組みを導入してこそ進出可能

■韓国は主権国家、5.24制裁措置の部分解除に米国の"承認”は必要ではない

 延世大学名誉特任教授兼大統領統一外交安保特別補佐官である文正仁氏は、文在寅政権発足後、多くの話題を振りまいてきた大統領の側近だ。性格上、保安と機密を必要とする外交 安保イシューに対し、現政権内からそれなりに自由な立場を表面する人物は文氏以外にいない。彼が何らかの発言をすると、大統領府は「個人の意見」と事態収拾に努めるなど、与党内で波紋を起こすこともある。それにもかかわらず、彼の「特別補佐官」という肩書きには変化がない。文大統領の信頼が厚く、同時に政府としても自らの立場を内外に知らせる窓口としての機能がとても重要だからという見方もある。
 2018年9月、平壌で行われた南北首脳会談に続き、2回目の米朝首脳会談が予定されている。2000年以降、3人の大統領が平壌で行った首脳会談に随行した文氏を、10月12日に金大中図書館内の延世大学統一研究所で会い、南北米3カ国の懸案について意見を聞いた。

——非核化など米朝間の懸案について米国政府はディテールが弱く、結局は韓国政府の描いた枠内で動いているという観測が出ている。

 李明博・朴槿恵政権時代に対北政策が崩壊したことも、米国が韓国政府の話だけを聞いていたためではないか。(当時の韓国政府は)北朝鮮に急変事態が起きると述べ、制裁と圧力など苦痛を与えれば北朝鮮が両手を挙げて降参すると言っていた。当初からこんな考え方をして米国が(韓国政府に)従っていたのだ。オバマ、ブッシュ政権に北朝鮮の専門家がほとんどいなかった。そのため、韓国政府が強く主張すれば、そのまま従うほかなかった。

——今はどうか。

 今もそのトレンドは同じだ。われわれが積極的に話をするからトランプ政権がそれを受け止め、ここまで来たのだ。これは北朝鮮問題に力点を置くか置かないかの差でもある。われわれは365日関心を持ち続け(北朝鮮問題を)取り上げるが、米国は大統領が関心を持つときだけ動く。われわれが情報を多く持っており、韓国側の意見が多く反映される。

<DMZ関連事業は米国と協議する事案ではない> 

——それでもポンペオ国務長官が平壌での南北首脳会談直前、南北間の軍事分野での合意について「事前協議が足りない」として康京和外相に直接抗議をした。このようなケースが、韓国内の保守層の目にどこか誤ったように映るのではないか。

 韓国の大統領府と国防省が進める南北鉄道連結などの信頼構築措置は、基本的に非武装地 帯(DMZ)に関することだ。韓国政府はDMZについて国連軍司令部と相当な協議をしている。国連軍司令部は実際には、米国の合同参謀本部と協議する。われわれは国連軍司令部と協議するが、同司令部が米国国防総省とどのような話をするのかは、韓国側はわからない。

 ここで重要なことは、DMZは国連軍司令部の所管であり、われわれは国連軍司令部と協議を行うということだ。問題は国連軍司令部と米国との間のコミュニケーションの問題であり、われわれの問題ではない。DMZ関連事業はわれわれが米国と協議する事案ではない。 国連軍司令部と協議する事案だ。

——ポンペオ国務長官は、韓国政府に対しありえない抗議をしたということか。

 私はそう見る。われわれは常に米国が完璧だと考えるが、米国内でも省庁間でどのような連絡がされているのかがわからない。われわれが国連軍司令部と協議する事案を、韓国の外交省が米国務省にきちんと報告するというわけではない。ポンペオ国務長官が康外相に何を持って抗議したのかはメディアで具体的に報道されておらず、詳細な内容はわからない。もし国連安保理の制裁や米国の制裁に韓国が違反したとすれば、米国務長官はわれわれに対し抗議できるだろう。私が知っているのは、大韓民国政府はこれまで国連安保理制裁決議案について一度も違反してないということだ。すべてのことを国連安保理制裁委員会に了解を求 め、許可を得て履行し、後に米国と協議することはあった。

——トランプ大統領も最近、 5.24措置の解除について「米国の承認がないまま制裁を解除しない」と強調した。

 それについては、「ともに民主党」のソン・ヨンギル議員がきちんと整理したと思う(ソン議員は10月12日にメディアのインタビューに対し、「5.24措置で対北支援事業をできなくし、人道的な支援もだめという状況になったが、そのような(制裁)内容は朴槿恵政権で緩和された。宗教・文化人の訪朝が許可され、特に朴槿恵大統領が『ユーラシアイニシアティブ』を主張して、羅先・ハサンプロジェクトを積極的に推進したではないか。これもすべて例外となること」と述べた)。

 すでに朴槿恵政権で5.24措置に違反した。5.24措置を今まで維持するとすれば、南北首脳会談や民間人交流事業はどうつながるのか。しかし、5.24 措置のうち、国連安保理制裁決議案に該当する対北貿易と直接投資などはできない。これは国連安保理制裁、米国の独自制裁とも重なるため、われわれができずにいるものだ。残りは国連安保理制裁決議案で許容されること、すなわち民間交流や離散家族の再会などは行われてきたし、今後も行うべきだ。われわれが5.24措置がネックになって何もできなければ、すべての交流協力が終わってしまう。

<国家間の条約には不可逆ということはあってはならない>

——トランプ大統領の承認(approval)という言葉は、外交的に失礼だという批判がある。

 承認、すなわちapprovalという単語は間違って使われた言葉だ。consultation & consenssus、すなわち協議と同意なくして行わないという程度の言葉が適当だ。大韓民国は独立した主権国家だが、米国大統領がどうしてそんな話をするのか。私が思うには、トランプ大統領は相当衝撃的な言葉を選ぶこともあり、協議という内容をより強く打ち出そうとしたあまり、承認という言葉を使ったのだろう。われわれは、米国政府の承認を必要としな い。

——単なる言葉の綾ではなく、これまで米韓間で積もってきた対立が今回になって表面化し、これまで米韓間で積もってきた対立が今回になって表面化したという見方もある。

 米国はトランプ政権やかつてのオバマ政権でもそうだった。北朝鮮の非核化において最高の方法は制裁と圧力と考える。北朝鮮が交渉のテーブルに出てきたのも、制裁と圧力の結果であり、その成果だと考える。ところが、韓国がそんな考え方で北朝鮮との対話の道を開けば、自分たちが行ってきた制裁と圧力の大きな枠が瓦解する。韓国が瓦解すれば中国、ロシアも崩れることを心配し、今でも制裁と圧力が最善の代案だとの認識がある。そこからあんな物言いが出てくるのであって、米韓関係がよい悪いというものではない。

<これについて文氏は米韓関係もまた主権国家対主権国家として見るべきだと力を込める。米国が望むことをすべてしてあげてこそ、米韓関係がよくなるというのはでないということだ。彼は「われわれが米国だけに従うのか。それが主権国家がやることか」と反問さえした>

——米国の議会で2回目の米朝首脳会談が来年以降に延期されうるという見方もあるようだ。


 韓国政府としては、年内の終戦宣言を希望してきた。そうしたいのであれば、2回目の米朝首脳会談は11月中に行われるのが望ましい。2回目の米朝首脳会談に続いて、南北米の三者で終戦宣言を行うようになれば、それだけ非核化に拍車が掛かる。結果、平和協定に対する議論も可能になるだろう。最も重要なことは、米朝が互いに与えることができるのは何かを協議すべきだという点だ。それができなければ、2回目の米朝首脳会談は遅れざるをえない。

——2回目の米朝首脳会談での争点を整理してほしい。

 まず、核に関する申告という問題がある。北朝鮮の核施設・物質・弾頭・ミサイルの数量と位置をすべて申告するという問題だが、米朝は敵対関係にあり、北朝鮮としては不安を持っている。米国が北朝鮮を攻撃しないという保障がなくてはならない。次に、数量について米国と北朝鮮の立場が違わざるをえない。核弾頭だけでも北朝鮮から出てくる話は20〜 30個だが、米国の情報当局は60〜65個と見ている。北朝鮮が20個あると申告しても、米国は「隠している」と疑うだろう。そうなると交渉は決裂する。破局が来るということだ。

 そのため、北朝鮮は申告や査察を行う前に、米朝間で基本的な信頼をつくろうと言っている。その方法の一つが終戦宣言だ。米国の検証原理主義者が言う「凍結→申告→査察→検証 →廃棄」の順序に従わず、いくつかの他の方法で信頼できるようにやっていこうということだ。北朝鮮がまず東倉里のミサイル発射台については廃棄と共に参観をしてもいい、と述べ た。これに相応する措置があれば、次は寧辺の核施設を廃棄すると言及した。これに対し米国が北朝鮮に何かを与えることで米朝間の信頼が醸成されれば、(核弾頭の)申告と査察がしやすくなる。核弾頭、核施設の申告・査察は基本的に北朝鮮の協力がなければ不可能なことだ。これは米国が一方的に北朝鮮に要求するだけで成就するものではない。

<北朝鮮は敗戦国ではない。米国と同等な立場>

——そんな形では、米国が北朝鮮に押しやられて北朝鮮の戦術に引き込まれているという懐疑論が米国内で出てくる。

 
米国でCVID(完全で不可逆的、検証可能な非核化)、FFVD(最終的で完全に検証された非核化)という話が出てくるが、一言で言えば、「完全な非核化」(CD)だ。不可逆的という単語はそれ自体が不能な概念だ。人が死んだとき、それを生き返らせることが不可逆的だというが、国家間の交渉や条約は後に条件が合わなければ覆されうるものだ。

——北朝鮮は制裁解除を要求するが、北朝鮮から米国に信頼を与えられる措置としては何があるのか。

 米国は「完全な非核化がなされるまでは制裁緩和はない」と言う。これに北朝鮮が納得できるだろうか。完全な非核化へと向かう方向において、北朝鮮が具体的な非核化への行動が見えれば制裁緩和のような相応する補償を与えると言うとどうなるか。わからないが、北朝鮮は動くだろう。そうではなく、完全な非核化をする前に制裁緩和はないとなるなら、それは結局「先に解体せよ」ということだ。先に解体すれば後に補償を与えるというのは、北朝鮮の立場からは受け入れられない。米国を信頼できないのに、どうして先に解体を要求するのかと反問される。北朝鮮が要求するのは、行動対行動の原則において同時に交換しようというものだ。これを米国が受け入れられないのであって、そんな米国に対し北朝鮮は「一方的だ」と批判しているのだ。

——北朝鮮が国際社会から信頼されるためには、先に行動が必要だという意見がある。国際社会がこれまでの北朝鮮がやってきた措置では不十分だという前提からだ。核兵器の申告で、国際社会がこれまでの北朝鮮がやってきた措置では不十分だという前提からだ。核兵器の申告であれ査察であれ、 ICBMの海外搬出であれ、トランプ大統領の心を動かすだけの本当の措置 が必要ということだ。そうしてこそ、国際社会の制裁も解除する手順を踏みやすくなるという論理につながる。

 完全な非核化へと進む過程においての具体的な行動、たとえば核弾頭の一部搬出や、寧辺の核施設の完全廃棄は代表的なケースの一つだ。そうなれば、米国は北朝鮮に対し見返りを与えるべきだ。

——北朝鮮が弾頭やICBMを海外に搬出するといった行動を取れば、米国は北朝鮮が望む制裁の一部を解除すべきではないのか。

 米国はそれができないようだ。完全な非核化という前提条件を置くから、進展が見られない。

——北朝鮮が先に行動すれば、米国もそれに相応する制裁解除のような行動を取らざるを得ないだろう。

 当然そうだ。国際社会の世論もそうなるだろう。それは、米国が言質を与えてこそ可能なことだ。不信感が存在する状態で、北朝鮮が先に行動しても「イラクやリビアのようになる」と不安に思うから事は難しくなる。だからこそ、終戦宣言を行おうという話が出てくるのだ。終戦宣言によって不可侵の関係になることを確実に示せば、北朝鮮も行動できるということだ。

——政治的負担を気にして、トランプ大統領は2回目の米朝会談を最初の会談のように進めることはできないのではという見方もある。そのため、具体的な非核化措置を約束しなければ、2回目の会談は霧散しうるのではないか。

 北朝鮮の人たちの表現を借りれば、北朝鮮は敗戦国ではない。米国と同等の立場で交渉を行うということだ。だからこそ、米国が一方的に「先に核弾頭を搬出せよ」「リストを提出 せよ」、そうしたら安全を保障すると言っても、北朝鮮はそうしないはずだ。 仮に北朝鮮がまず具体的な行動を示したとしても、米国のはっきりとした言質があるべきだ。言質がないまま先に行動することと、言質があって行うことの違いははっきりしている。これに限らず、北朝鮮が一貫して主張しているのは、行動対行動の原則だ。中国とロシアがこれを支持しているため、北朝鮮が一方的に米国が望むことを先にやるのは相当難しいだろう。

——北朝鮮は自らの論理や原則をしつこいほど打ち出して主張することを好む。研究者の中には、終戦宣言は朝鮮戦争に起因するため、侵略軍として見なす米国が朝鮮半島から去るべきだと北朝鮮が主張してくるのではと考える人もいる。

 韓国政府の基本的立場はこうだ。まず、終戦宣言は1953年以降継続してきた非正常な戦争状態の収束を政治的に宣言すること。次に、戦争の収束を宣言すれば、関連国(南北米) 間の敵対関係を清算すべきだということ。三つ目に、終戦宣言後、平和協定が締結される時点までの過渡的な空白を埋めるために、停戦協定体制を平和協定が締結されるまで維持し、 現在の軍事境界線と国連軍司令部、中立国監視委員団を維持するというものだ。さらに四つ目は、非核化と朝鮮半島の平和体制を終戦宣言と同時に推進していくということだ。

<文在寅政権の対北抑止力は高めている途中だ> 

——文大統領の考えはどうか。

 文大統領の考えには二つある。一つは、終戦宣言を採択することで北朝鮮の非核化を推し進める。その次に平和協定交渉へ進むように早く転換させるというものだ。終戦宣言は平和協定を締結するようになれば、それの序文に相当する。これを米国と協議しており、国家情報院の徐薫(ソ・フン)院長と鄭義溶(チョン・ウィヨン)国家安保室長が二度目の訪朝をした際に、北朝鮮側と議論してきた。これに対し金正恩委員長は、終戦宣言と在韓米軍の地位、韓米同盟の地位はまったく関係がないとはっきりと述べた。それなのに、韓国の保守層は心配しているのが理解に苦しむ。もちろん、この問題も南北米首脳が会って具体的な協議を行うべきだが、少なくとも韓国政府の立場は、保守側が心配するレベルではまったくないという点を知っておいてほしい。

——日本の徳川家康が「戦争のない平和の時代を開こう」と豊臣秀頼に持ちかけ、大阪城の堀を埋めた後に城を陥落させた。こんな話が保守層で広まっている。些細な憂慮まで解消するための対話と説得が、韓国内にもあるべきではないのか。

 ペロポネソス戦争の時のトロイの木馬、米国とベトナム間に締結されたパリ平和協定などを取り上げ「平和条約が戦争の禍根になる」という人がいるが、文政権が安保を行っていないとでも言うのだろうか。安保を強調しながらも、李明博・朴槿恵政権当時の国防費の増額幅は4〜6%程度だった。現政権では8.2%まで増やしている。文政権が国防に関心がない、あるいは軍を一方的に削減しているわけでもない。終戦宣言や平和に言及しながらも、韓国の安保を守る基本的戦略を構築している途中であり、その抑止力を高めている。

——大統領府のスタッフの中には、過去、北朝鮮の路線に追従するような行動を示した者が少なくはない。そのため、保守層の危機意識を気づいていないのではないか。

 この質問には反論したい。大統領府で安保政策、外交政策は国家安保室が担当する。国家安保室長は外交官出身だ。第1次長は軍の将軍出身、第2次長は外交官出身だ。その次に安保室所属の8人の秘書官がいるが、そのうち市民社会からの出身者としては学者が1人いるだけだ。残り7人の秘書官はすべて軍や官僚出身だ。それなのに、なぜ北朝鮮に追従した者の考えが実行に移されているといった、とんでもない話が出るのか。もし平和のために安保を犠牲するとなれば、8.2%の国防費増額はどのように説明するのか。文大統領が軍の行事へ出向くたびに「力に基づいた平和」と述べ、例えば先日の済州島の観艦式に行っても「平和の拠点を作る」とアピールさえした。具体的な現実を見て、そんな話をするのならよい。イメージや虚像だけを取り出して主張してはいけない。国防体制は今も昔も変わりがな い。軍事的抑止力を高め、ミサイル防衛体制を継続して強化し、先端科学に基づいた精鋭軍をつくるというのが国防改革の基礎だ。そういうなら、保守政権9年間で韓国の安保はきちんとなされたか。天安艦、延坪島も攻撃されたではないか。

——北朝鮮は首脳会談など南北対話のテーブルに、韓国の保守政党や保守陣営の代表も一緒に席に着くことを望んでいた。その背景はどう理解すればいいのか。

 韓国の政治構造に対する北朝鮮の理解度が高まったということの証左だ。野党である自由韓国党が反対すれば、国会で経済協力や交流であれ、関連予算が通過しないということをよく知っている。そのため、南北の懸案について国民的合意がなされることを望んでいると見るべきだ。 保守陣営と革新陣営の間で合意がなければ、南北対話に障害が生じることをわかっているから、北朝鮮がそのように期待したわけだ。これは過去とは違った姿であり、肯定的な姿勢だと思う。金委員長は南北合意が継続され履行されるべきだと強調した。そうするならば、韓国政府の政治的合意が必要だ。

——それならば、大統領府や与党が野党をさらに説得して参加を促すべきではなかったのか。

 機会を与えたが、野党側が「行かない」と言った。事前に院内代表を大統領府に招いて 「一緒に行こう」と合意したのに、最後になって相談もなく「一方的に進めるのか」と言ってきて、結局「行かない」となった。自由韓国党は元々行くつもりはなかったようだ。 個人的に行きたかったのかもしれないが、党内の意見は現政権とは対立すべきというのが主流であり、「行かない」となったのかもしれない。自由韓国党は政府が南北関係をこのような形で進むのを望ましいとは思っていないからだ。彼らを説得して一緒に行くのは難しい。

<自由韓国党が政権をとっても南北協力には野党の同意が必要>

——今後、機会があれば、野党が同行するようにできるだろうか。

 私は(保守政党も)行くべきだと考える。後になって自由韓国党が政権を取ったとして も、南北関係は改善すべきではないのか。吸収統一ができないという前提であれば、今後も自由韓国党にとって南北協力は必要であり、それならば超党派的にやるべきだ。

——国内大企業のトップたちも平壌での首脳会談に同行した。北朝鮮が韓国企業と企業家に望むものは何か。

 相当な期待を持っている。南側の大企業が北朝鮮に投資してくれることをとても望んでい る。今年9月18日夕方、金委員長夫妻主催の歓迎晩餐会が平壌・木蘭館で行われた。北朝鮮側関係者が私が座っているテーブルにSKの崔泰源会長と一緒に来て、「崔会長を説得して北朝鮮に投資をするように言ってくれ」と笑いながら頼みに来た。それで私が「そんなことに時間を使うなら、まずはあなたたちが(投資できるような)基本的な条件を整えれば企業は進出できる。まずは焦眉の核問題から解決しよう」と答えた。

——今回の訪朝ではそのSKの崔会長の行動が積極的に見えた。崔会長は北朝鮮への投資に意欲を見せたのか。

 崔会長は2007年10月の(史上2回目となる)南北首脳会談でも随行した。彼は北朝鮮の経済システムが変化しなければ投資は難しいことをよく知っている。北朝鮮自らが改革・開放 に進み、市場経済の体制に移行するようになれば企業は事業を始められるものではないか。 大企業は慈善団体ではない。

——サムスン、 LG、現代自動車など主要企業のトップ、代表も訪朝した。これらの企業は北朝鮮への投資について何らかの青写真を持っていたのか。

 彼らの行動は「まずは見てみよう」ということであって、企業が先立って動くことはできない。核問題が解決され、制裁がまず解除されなければならない。サムスンや現代自動車、SKなどはすべて米国で事業を行う企業だ。制裁が解除されず、米国が反対している状況において北朝鮮への進出はできない。制裁が解除され、米国の同意がある状態になってから北朝鮮に行くべきであって、わざわざ今の時点で不利益を被ろうとはしない。韓国企業からすれば、北朝鮮より米国市場がはるかに大きい。

——北朝鮮は開城工業団地にサムスン電子のような韓国の高付加価値産業の施設誘致を望んでいるか。

 北朝鮮は基本的に労働集約型産業に関心を持っていないというだろう。その代わり、技術や資本集約的事業を望んでいる。特に先端科学技術分野を望んでいるということだ。それなら制裁は解除されるべきであり、非核化に具体的な進展があるべきだ。財閥企業がそれを知らないはずはない。

——最近、開城工業団地について北側から新たな話が出てきたことはないか。

 平壌共同宣言では、条件次第で開城工業団地と金剛山観光事業を正常化すると記された。 これは北側が強く望んでいることだが、韓国の立場からは国連安保理制裁決議案があるために、どうしようもないことだ。開城工業団地、金剛山観光事業を再開すれば、北朝鮮にはまとまったカネが入る。大量の現金が入れば核兵器開発に転用されるという疑いが出てくるが、これを解消できてこそ、議論が進む問題だろう。

——北朝鮮は自らの経済発展モデルを持っているのか。

 北朝鮮が既存の政治体制を維持するなかで改革・開放もし、市場経済を導入しようとすれ ば、中国やベトナムモデルのほかにこれといったモデルはないだろう。そうなっても、北朝鮮はこれを「鄧小平モデル」「ベトナムモデル」と呼ぶことは絶対ないだろう。自らの「主 体モデル」と主張する可能性が高い。すでに北朝鮮は相当水準の経済変化を見せている。具体的には「人民経済」という公式セクターの比重が徐々に減っている一方で、農民市場、 闇市場の比重がより高まっている。学者によっては、後者の比重が60〜70%と見ている者もいる。すでに市場化の方向へ変化しており、制度も相当変化を見せている。企業にインセ ンティブを与えることもあり、現場が独自に利潤を創出できるようにしていると言っている。

<文大統領のノーベル平和賞は難しく時期尚早>

——スティーブ・ビーガン国務省対北政策特別代表と、崔善姫外務省次官のチャネルがまもなく稼働しそうだ。北朝鮮で外務省ラインが全面に出てくるということか。

 もともと、対話の始まりは国家情報院の徐薫院長と統一戦線部の金英哲部長、ポンペオ国務長官(当時はCIA長官)の3つの政府機関のチャネルから始まった。ポンペオが国務長官に任命されてポンペオ・金英哲ラインが形成され、それに徐院長がいて、康京和外相と協議を行う。交渉が進めば、おそらく金英哲ラインが李容浩外相・李​洙墉(​朝鮮労働党国際担当副委員長)ラインへ変わる可能性もある。

——文大統領のノーベル平和賞受賞の可能性はどの程度だと見るか。

 簡単ではないだろう。文大統領だけに与えられるものではない。金大中元大統領がノーベ ル平和賞を受賞したのは、それまでの民主化闘争への功績があったためであり、それに加えて2000年の南北首脳会談で南北間の窓を開いたという業績が十分条件となって受賞へとつながったものだ。今は3人の首脳が朝鮮半島の平和をつくろうとしているが、まだ道半ばだ。 このような状況で、3人の首脳または一部にノーベル平和賞を与えるということは時期尚早だと言えるだろう。

——韓国と米国には、北朝鮮が核を絶対放棄しないとの見方が強いが。

 そのような疑問は十分にありうる。今年4月、党中央委員会全員会議でも核武力の完成を宣言したが、これは今後も継続して核を持つという意思だとも分析できる。ところが、北朝鮮は首領体制だ。全員会議での決定と首領による決定のどちらがより重要だろうか。金委員長が9月19日に、肉声で「核兵器のない平和の地をつくる」と確約した。文大統領も金委員長とともに平壌市民15万人の前で同じ話をした。それなのに、「党中央委員会全員会議」 文書に記された文字が重要なのかは疑問だ。

——朝鮮半島の未来と運命がかかった問題だからこそ、常にいつも慎重な見方が出て、かつ 疑問もすぐに解けないものではないだろうか。

 米国社会の主流にそんな見方が存在しているのは知っている。北朝鮮について懐疑的な人 たちの考えは、おおよそこんな感じだ。「北朝鮮の指導者は核を放棄しないだろう。それなのになぜ北朝鮮と交渉をするのか、制裁と圧力を加えて、必要であれば軍事行動をとるべきだ」。ただ、そうやった場合、われわれが得るものは何だろうか。たとえ北朝鮮が核を放棄する意図がないとしても、われわれが対話と交渉によって非核化へ向かうように誘導すべきではないのか。最初から「非核化への意思がないようだ」と否定的な前提を置いて、問題にアプローチすることが理解できない。

——金委員長のソウル訪問はいつごろ、どんな形でなされるか。

 年内に訪問するということは、文大統領が主張していることだ。事実、金委員長のソウル 訪問については、金英哲・朝鮮労働党副委員長を含めて誰もが反対したという。統一戦線部 のキム・ソンヘ政策室長の言葉によれば、「周囲は誰もが反対したが、金委員長が強く希望した」ということだ。また、金副委員長が平昌五輪で訪韓した際、太極旗部隊(韓国の右派、北朝鮮に批判的な勢力)が反対したという話も北朝鮮から出たそうだ。しかし、金委員長は南北関係を改善しようという意思が強い。彼のソウル訪問は南北関係に画期的な歴史を切り開くことになる。これはかなりよいことだ。ただ、平壌での首脳会談で韓国側は北朝鮮から相当の歓待と配慮を受けたが、金委員長がソウルでそれほどの歓待と配慮を受けるられるかどうかと心配する人が多いのも事実だ。

<文氏は時々敏感な発言で議論を引き起こし、大統領府はそれを大統領統一外交安保特別補 佐官としての見解ではなく、個人的立場からのものだと弁解したことがある。それでも大統領府が彼を解任せず、特別補佐官職を与え続けている。これについて文氏は、「私もそれはよくわからない。言葉が過ぎて大統領も負担に思っているかもしれない」と述べた。さらに「突 然、今になって辞めろというのも変だし、また私が辞めるというのもちょっと変だ。両方の気持ちが存在していくだろう」と付け加えた。>

<鄭義溶室長は情報を絶対流さない> 

——文氏の発言は後になって政府の政策として実現されることがある。すでに政府から重要な情報を受けているのか。

 
政府から機密情報を受けたことはまったくない。鄭義溶安保室長は絶対にそんなことを言わない。鄭室長の運営方式はとても徹底している。われわれのような学者とは違う。

——革新側の一部でも、終戦宣言と平和協定は厳格に分離すべきだという見方があるようだ。平和協定は南北の力の均衡を作ったあとに推進すべきだということだ。ベトナムのように、力の均衡がないままに進められる平和協定は北ベトナムの統一へ帰結したからだ、とい うわけだ。平和協定は与件が十分に熟成した状態で進めるべきだという主張でもある。

 平和協定を結ぶまでには時間がかかる。ところで、力の均衡が備わってこそ平和協定が可能だとするなら......。まず北朝鮮が非核化される過程の最終段階、平和協定がなされる段階になれば、北朝鮮はわれわれに向かって米国の核の傘を取り除けと言ってくるだろう。そうなると、朝鮮半島の非核地帯化の議論が出てくるだろう。北朝鮮は1980年代以降、外国の兵器を買ったことはなく、独自の防衛産業を育ててきただけだ。われわれはこの間、どれだけ多くの先端兵器を買ってきたか。南北間の軍事的均衡は核だけで解決されるとすれば、さら には非対称リスクまでもわれわれが耐えることができると考える。基本的に非核化の過程と 平和協定の締結の過程は同時並行で進めることができると考える。交渉を始めることができるからだ。

——そんな話を自由韓国党などの保守陣営の人たちとやってみたらどうか。

 
私はあちこちに出向いて話をする。企業のCEOなど保守層の集まりからも招かれる。地方で講演に行けば、いわゆる「太極旗部隊」関係者が抗議しに来るが、私の話を聞いて考えを変えるケースもいくつか見てきた。私は招かれれば拒否したことはない。だが、自由韓国党は私を呼ばないようだ。
 


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