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【北朝鮮 Live!】北朝鮮農業に訪れた「ハイテク化」の波

ニュースリリース|北朝鮮 Live!| 2016年06月26日(日)

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東洋経済オンライン2016年6月24日
http://toyokeizai.net/articles/-/124111


 6月も下旬となり、北朝鮮では田植えをはじめ農作物の種付けがほぼ終わったこともあり、北朝鮮メディアでは農業に関した報道が相次いでいる。日本をはじめ、海外では「北朝鮮=食糧難」というイメージが抜きがたいほど植え付けられているが、穀物生産量など、今年の北朝鮮の農業・食糧事情は実際にどうなのか。

 国連食糧農業機関(FAO)は6月上旬に発表した「Food Outlook June 2016」報告書の中で、「北朝鮮の今年(糧穀年度2015年11月〜16年10月)のコメ生産量を160万トン(精穀後基準)と予測した。これは、精穀後の基準では前年比30万トン増、精穀前基準では同190万トン増と、まずまずの豊作ということになる。

「FAOの予測を超える」と見る専門家も

 また、北朝鮮では主穀と同等の扱いであるトウモロコシの生産量も、FAOは前年250万トンとほぼ同水準の生産量を予測している。これは、今年4月から降雨量が適切な水準だったことなど、気象条件がよいまま作物の種付け作業が終わったことを考慮しているようだ。

  「FAOの予測を超えるのでは」と見る専門家もいる。北朝鮮の農業問題に精通する、韓国のGS&Jインスティテュート北韓(北朝鮮)東北アジア研究所のクォン・テジン所長は、米国VOA(Voice of America)放送のインタビューに答え、「コメの生産量は160万トンより多い、200万トンにまで増えることも考えられる」と述べた。クォン所長は、その理由として、良好な気象条件や水と肥料の十分な供給が見込めることを挙げている。

 北朝鮮はこの数年間、4〜5月の田植えの時期に水不足に悩まされてきたが、今年はそれがなかった。今後、台風や大雨による自然災害などの悪条件がない、あるいは軽微であれば、FAOが出した予測はもちろん、クォン所長が言う200万トンも無理ではないという見方が支配的だ。

 では、実際に北朝鮮の農業従事者にとって、今年の状況はどうなのか。5月6日に36年ぶりの朝鮮労働党大会が開催され、農業についても金正恩党委員長が言及し、今後の方針が示されている。それを受け、現場では農作業のどの部分が重点的に行われているのだろうか。

 「このままいけば、まずまずの収穫量が見込めそうだ」と、平壌市郊外にある柳所(リュソ)野菜専門協同農場の李学哲(リ・ハクチョル、40)技師長は見ている。李技師長は、「農業は昨年までに得られた教訓をもとに、どんな自然災害にも迅速に対処できるよう、被害防止策など対策を徹底して用意・実行できるようにしている」と述べ、今年の穀物生産量は昨年よりも増えそうだとみている。

「高レベルの集約農法ができる態勢がととのった」

 特に、「科学的な農法を積極的に導入することに注力している」(李技師長)。北朝鮮ではこの4〜5年の間に、悩みの種だった干ばつによる水不足や病虫害に強い苗の開発に、それなりに取り組んできた。その成果が少しずつ出始め、「早生で大型の苗種などを開発し、稲栽培の技術工程をきちんと管理できるようにして、高レベルの集約農法・多収穫農法ができる態勢がととのった」と李技師長は打ち明ける。

 今年の田植えも、これまで6月末までかけていた作業を2週間ほど早く終えて、苗がしっかり育つようにしたという。

 柳所野菜専門協同農場は、文字通り、野菜やキノコの生産で定評がある農場だが、コメなどの穀物生産も行っている。現場ではさらに、病虫害と雑草の除去をどう効率的に進めるかも大きな課題だと、同農場の李学元(リ・ハクウォン、40)技術員は言う。

 特に病虫害対策には誘蛾灯などの防虫機器・設備を開発・設置して、効果的な病虫の除去に成功しつつあると、李技術員は胸を張る。「昨年には1ヘクタール当たり4つの誘蛾灯を設置していたが、北朝鮮が開発した高電圧の誘蛾灯を設置した。この誘蛾灯1つ設置すれば、20ヘクタールをカバーできるものだ」と李技術員は述べる。また同農場では殺虫剤も独自開発中であり、これが成功すれば人員や動力費の省力化がさらに進むと付け加えた。

 柳所野菜専門協同農場で聞かれた声のように、北朝鮮の農業において現在重点的に推進されているのは、農作業の機械化と確実に成長・収穫できる品種の開発・育成だ。党大会で金党委員長もこの点に触れ、農業分野における主目的の一つとして取り上げていた。

 ただ、これまで資金不足もあって農作業の機械化への投資が難しく、北朝鮮は立ち後れてきた。1990年代後半の経済難、いわゆる「苦難の行軍」時期で農業への投資が厳しく、さらに自然災害も加わって餓死者が出るほどの最悪の食糧不足に陥ったことは、記憶に新しい。

 「苦難の行軍」時期から経済難も徐々に解消し、特に2010年代に入っては経済も緩やかに右肩上がりとなっている。そのため、北朝鮮はようやく、より高度な農業を実施できる状況になったのだ。

 その水準は農業先進国の状況にははるかに及ばない。とはいえ、経済状況の改善を背景に、農業分野にも機械化を進めることができる状況になってそれを実行しているというのが現状である。前出の李技師長は「農機械の稼働率を高めると同時に、営農工程の機械化も大胆に進めて、党大会での決定事項(機械化の推進)を貫徹していく」と述べた。

国民への配給分は2010年以来の最低量に

 改善に向けて進み出した北朝鮮農業だが、その足元はまだ固まっていないようでもある。前出のように、今秋の北朝鮮の穀物生産量を増産とみているFAOは、同時に、今年の食糧不足は4年ぶりの最大規模であり、その不足分の確保は進んでいないという指摘もしている。
 
 前出VOA放送に出演したFAO世界情報・早期警報局のクリスティナ・コスレット東アジア担当官は、「昨年の生産量が大きく減少し、コメは前年比で26%減、トウモロコシは3%減、穀物不足分は69.4万トンと、2011年以来の最大規模になった」と述べた。しかも不足分の3%、2.3万トンしか現段階では確保されていないと言うのである。

 そのため、北朝鮮政府による国民への配給分も、2016年1〜3月には1日当たり370グラム、4〜6月には360グラムと、2010年以来の最低量になっていると紹介している。ただ、小麦やジャガイモなどの生産量は増加しており、また市場でのコメの価格は1キログラム当たり4900〜5000ウオンと、この1〜2年安定したまま、と付け加えている。



  • 李学哲技士長

  • 李学元技術員

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