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【北朝鮮 Live!】北朝鮮「5カ年戦略」を経済現場はどう受けとめているか

ニュースリリース|北朝鮮 Live!| 2016年05月29日(日)

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東洋経済オンライン2016年5月31日
http://toyokeizai.net/articles/-/120367


 5月6日から9日まで、36年ぶりとなる朝鮮労働党党大会を開催した北朝鮮。党大会で「総括報告」を行った金正恩・朝鮮労働党委員長は、従来から主張していた「経済建設と核武力建設の併進路線」を再度確認し、「社会主義経済」の下、経済成長達成への強い意志を見せた。

 そのなかで、金党委員長は「国家経済発展5カ年戦略」(5カ年戦略)に言及した。金党委員長の説明では、2016年から2020年までに人民経済を活性化させ、経済各部門のバランスある成長を果たし、国の経済を持続的に発展させる土台をつくるための戦略と説明した。具体的には、「党の新たな併進路線(経済建設と核武力建設の併進)を堅持し、エネルギー問題を解決しながら、人民経済の先行部門(電力、石炭、金属、鉄道運輸部門)、基礎工業部門(主に機械工業)を正常軌道に乗せ、農業と軽工業生産を増やし、人民生活を決定的に向上させるべき」と言う。

 では北朝鮮の経済現場で、この5カ年戦略はどのように受けとめられているのか。平壌市の金正淑(キム・ジョンスク)平壌紡績工場は、故・金日成主席の夫人の名前がつけられていることからわかる通り、北朝鮮を代表する紡績工場だ。金党委員長や朴奉珠(パク・ポンジュ)首相など要人もよく訪れる工場の一つだ。

 「2020年までの5カ年戦略の目標を、18年までになんとしてでも達成し、終了させたい」と言うのは、同工場第1機織職場で働く白松(ペク・ソン)さん(20)。白さんは、1人で7台の機械を回し、1日に数十メートルの布地を編むことができるほどのベテランであり、工場内では「革新者」と呼ばれる模範的な従業員だ。そのためか、5カ年戦略の「前倒し達成」」に強い意欲を示した。

 また、同工場の技士長である李勇勤(リ・ヨングン、43)氏は、「5カ年戦略期間中に、生地の生産能力を現在の1.5倍にまで引き上げられる」と自信を見せる。すでに、高付加価値な整経機やボイラーなどを自主的に製造、輸入に頼らない生産体制を構築中と打ち明ける。

 「輸入に頼らない」と李技士長が指摘するのは、今回の党大会で金党委員長が述べた「自力自彊の精神」という言葉と付合する。できるだけ外部に頼らず、自分たちで経済建設を行うというのが、今回の党大会で何回も触れられた「戦略路線」でもある。そのため、現場でも「自力自彊」によって生産性をいかに向上させるかという課題に取り組まざるを得ないようだ。
 
 2012年に金正恩政権が本格化して以降、平壌を中心に住宅や商業施設、レジャー施設など建設ラッシュに沸く北朝鮮。また、工場など機械施設の更新需要も高まる中、そのような需要に応える基礎となる金属産業では、5カ年戦略をどう受けとめているのか。

 北朝鮮を代表する理工系大学である金策(キム・チェク)工業総合大学金属工学部の金哲好(キム・チョルホ)学部長(55)は、「党大会直前にも、大学の教員やスタッフが黄海製鉄連合企業所をはじめ現場に出向き、計画の早期達成のために貢献した」と胸を張る。

 また金学部長は「5カ年戦略期間中には、製鉄所などの生産現場で重要な電気炉や圧延炉など設備について、われわれの設計や資材で国産化することを目標にした」と言う。すでに一部設備の国産化を達成し、一部の製鋼所で試験稼働させたと付け加える。金学部長は、「自彊力だけが生き残る道。5カ年戦略期間中に“輸入”という言葉に終止符を打ちたい」と言う。

 北朝鮮には「主体(チュチェ)鉄」という鉄がある。豊富な鉄鉱石資源を基に、コークスを使わない製鉄法で生産される鉄のことだ。北朝鮮にとってコークスは輸入に頼らざるを得ず、そのためコークスを使わない製鉄方式を模索した歴史がある。

 この製造方法などを研究する金策工業総合大学主体鉄研究所の崔林虎(チェ・リムホ)室長(43)は、「主体鉄をはじめ鋼鉄は経済強国建設において革新的な役割を担う」と前置きした後、「主体鉄の生産自体は完成されたが、いまだ解決すべき科学技術的問題が残っている」と打ち明ける。主体鉄研究室が5カ年戦略中に掲げる目標は、「主体鉄生産システムをより完成度を高め、主体鉄を100%利用した鋼鉄生産体系を確立して、金属工業の主体化を完成させること」(崔室長)。

 韓国の北朝鮮専門家である鄭昌鉉(チョン・チャンヒョン)氏は、5カ年戦略の基本的方向性は3つあると指摘する。まず、人民経済の自立・主体性を強化すべき、ということ。次に、内閣が経済運営に責任を持ち、「われわれ(北朝鮮)式の経済管理方法」を確立する、ということ。そして、科学技術大国になるべく経済建設を行うべき、というものだ。そういう方針が決まっていれば、現場ではその方向性にしたがって努力せざるを得ない。そのため、自力や自彊、主体といった言葉が現場でも聞こえてくるのだろう。

 党大会の総括報告で、金党委員長はこれまでの経済成果を誇示しながらも、「ある経済部門は情けないほど劣っており、人民経済部門間のバランスが適切に確保されずに、国の経済発展に支障を来している」と率直に語った。それは、総括報告で何回も登場した「電力不足」という、経済活動の基本的なインフラさえ十分に保障されていないという現状を指摘したものだ。

 「自主・自彊」という方針が現場で十分に反映されつつ、経済成長は達成できるのか。経済制裁で対外経済活動がきびしい中、資本や資材をどう確保するのか。また、資本主義・市場経済の国に囲まれ、社会主義経済を強く標榜する北朝鮮はどう折り合いを付けるのか。5カ年戦略の具体的な目標は明らかにされていないが、目標を達成したと言えるレベルになるためには、このような問題が横たわっているのが北朝鮮経済の実状でもある。



  • 金正淑平壌紡績工場で熟練労働者の白松さん

  • 同工場の李勇勤技士長

  • 工場内の学習室

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