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韓国政府の「大胆な構想」は実現可能か・中国識者の見方

ニュースリリース| 2023年01月10日(火)

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<尹錫悦政権の「大胆な構想」は北朝鮮が受け入れるだろうか…そこを習近平主席は見ている>

 

趙虎吉・元中国共産党中央党校教授

(韓国『京郷新聞』2023年1月7日付)

 

・安全保障なくして核を放棄せよということは北朝鮮の立場から絶対に受け入れられない

・このままでは中国も助けることができない

・政権ごとに変わってしまう韓国の北朝鮮政策、一貫性がないゆえに北朝鮮からの挑発が増えるという悪循環を反復させている

 

 中国政治学会の碩学として評価されている中国共産党中央党校の趙虎吉・元教授(70)は、2022年12月23日に『京郷新聞』とインタビューし、南北関係の悪化を最近の東北アジア情勢において最大の事件として取り上げた。趙氏は「南北関係はそこがどこなのかさえわからないほど悪化している。南北関係がこのままよくない方向へ進み、北朝鮮が経済的により厳しくなれば、何が起きるかわからない」と憂慮した。

 

 趙教授は尹錫悦政権が米中対立の狭間でバランスを取ろうとせず、アメリカとの価値同盟を選択し、自ら外交的に自由にできる空間を狭めていると評価する。とくに韓国が北大西洋条約機構(NATO)に代表部を設置したことについて、「アジアで小さなNATOが形成され、韓国と日本が橋頭堡となるのではないか」という中国学会での憂慮を伝えた。

 

 趙教授は中国共産党幹部を養成する中央党校で政治学研究室の室長を務めた。韓国の慶南大学と日本の慶應義塾大学の訪問教授となり、政治学理論と東北アジア地域の現代化戦略などを研究してきた。現在、中国政治学会理事と中国朝鮮半島問題研究会副会長を務めている。以下は、一問一答。

 

――米中対立の激化とウクライナ戦争で「新冷戦」という構図が深まっているとの評価が多い。

 

 新たな冷戦構図が深まるというレベルではなく、実際に熱戦が起きている。銃砲を使い戦っているではないか。今の新冷戦構図は、過去の冷戦とはあまりにも違いが多い。経済が融合された状態で行われている冷戦という点で、より損害が大きい。技術と産業構造、国家間の関係が融合している時代なのに、米中関係やウクライナ侵攻はこのような時代の流れに逆行するものだ。

 

そのため、多くの国が経済的困難に直面している。新冷戦構図はアメリカ国内の状況と関連がある。アメリカの産業構造の変化で製造業が崩壊し、その間製造業は日本と韓国を経て中国へと押しやられた。ところが、アメリカはまるですべてのことが中国のせいで発生しているかのように認識している。コロナ禍以降、反中情緒も普遍化された。米共和党と民主党はこれを選挙に利用する。そのため、状況が悪化するほかなく、他の国も害を与えている。韓国も半導体問題などで苦労しているではないか。このような状況がいつ、どのように解消されるかがわからない。これこそ最大の問題だ。

 

――2022年の東北アジア情勢において、最大の事件は何か。

 

 南北関係の悪化がそうではないか。南北関係は底が見えないほど悪化の一途をたどっている。ミサイルを発射し、互いに言いたい放題だ。言いたい放題の末に、何が来るか本当に心配だ。これは韓国政府の対北朝鮮政策と直結している。尹錫悦政権の対北朝鮮政策は、アメリカのアジア太平洋戦略と中国を牽制する政策と密接だ。

 

 NATOに代表部を韓国が設置した。北朝鮮はこれを非対称な状況だと見ている。韓国・アメリカ・日本の軍事訓練が続き、戦略資産の配置まで取り上げられている状況において、金正恩総書記の立場からは何かを見せつけてやらないと自分の統治能力が毀損することを避けざるをえない。とくに、軍に何かを見せてあげないといけない。国際的にだけでなく、国内政治用としても対応が必要なことだ。

 

――朝鮮半島の状況をどう見ているか。

 

 北朝鮮は経済的により厳しくなるが、南北関係がこのままよくない方向に進むと、北朝鮮は何をするのかわからない。危機が究極に進めば、北朝鮮は緊張関係をつくりだし内部統制を進めるだろう。状況は深刻だと思う。戦略資産の話が出ており、北朝鮮も核の精密度を高め、固体燃料の製造まで話が進んでいる。

 

 固体燃料を使用するということは、燃料を注入する時間が必要でなくなるため、随時、ミサイルを発射できるという話だ。韓国政府が緊張一辺倒の政策に進んでいることも心配だ。北朝鮮を今後も押さえつけようという強硬姿勢を固守することは、アメリカの政策に載せられているように見える。

 

――韓米は北朝鮮問題で中国の役割を期待している。

 

 最大の障害は、政権によって変わる韓国の対外・対北政策だ。現政権の対北政策が今のような方向へ進めば、中国が助けることができるだろうか。習近平主席が尹大統領と会ったとき、韓国政府の「大胆な構想」を北朝鮮が受け入れれば協調するだろうと述べた。言い換えれば、それが可能なのか、という話だ。北朝鮮に核を放棄し跪けということだが、果たして可能だろうか。

 

 北朝鮮が核開発を中断できないことは、それ以外に安全装置がないためだ。安全保障をせずに核開発をするなということは道理が立たない。単純に、中国が助けたからと言って解決される状況でもない。北朝鮮が核開発を放棄すれば、戦時経済と軍需産業中心の経済構造が正常化するということはありえない。経済構造を民営産業中心へ変えようとすれば、安全保障が必要だ。

 

 韓国もそのような戦略的判断をするだろうが、政権によって政策の一貫性がなくなるため、悪循環が繰り返されると思う。核問題をはじめ北朝鮮の問題は中国を含めた東北アジアで最も重要なイシューだ。北朝鮮のミサイル発射は日本を刺激しており、アメリカのアジアにおける軍事力維持の口実にもなっている。

 

 現在としては、このような状況がどのように緩和されるのかが見えてこない。中国の役割は韓国政府の対中政策とも直結しているため、いまは積極的な役割を期待するには難しい状況だ。韓国政府が中国を積極的に活用する必要があるのに、現在ではそのようにやっているとみるのは難しい。

 

・尹政権ははっきりとアメリカ側に、中国の立場からはそれが最大のネック

・韓国、安保目的の韓米同盟を超えてすべてのことを自由主義陣営と共に行うときには自由な活動空間が狭まる

 

――尹政権の対外政策はどのように評価しているか。

 

 尹政権の対外政策は、価値をメインに置く。自由主義陣営に属するということを明確にみせようとしている。安保問題だけを考えると、最強国であるアメリカを背景にして日本もいるが、NATOにまで行く必要はない。以前の政権と差をつけながら、保守政権の色合いをはっきりさせようとしている。そのため、自由主義陣営とすべてのことを共にすると考えているように見える。中国の立場からすれば、それこそ核心的な問題だ。

 

 米中間でバランスをとろうとすることは終わり、確実に自由主義陣営とともにするということが韓国政府の立場だと思う。中国の学会では、「アジアNATO」という概念をよく使う。日本に続き韓国が駐NATO代表部を設置したため、アジアに小さなNATOが形成され、韓国と日本がその橋頭堡となるのではないかということだ。NATOは経済連合体ではなく、欧州の軍事同盟だ。冷戦体制が形成されアメリカが価値同盟を結んで中国を牽制する戦略が目に見えている状況で、韓国が橋頭堡となっていると思われる。

 

――韓国のアメリカへの傾斜が続けば、中国が直接的に衝突する可能性もあるのか。

 

 当面、衝突まで起きるとは思えないが、韓国経済や南北関係には大きな影響を与えうる。現在としては、中国が韓国に何かの制裁を加えるとは思わないが、韓国がどこまで行くのかを見る必要があるだろう。

 

 韓国がきちんと判断すべきことがある。アメリカと欧州も一枚岩ではないということだ。彼らにおいても対立する要素が多い。尹大統領は自由主義の理念を重視するが、自由主義の脈絡をきちんと読み取るべきだ。アメリカ式市場経済ではなく、欧州式自由主義が未来の方向だ。韓国政府は欧州式改革をして踊り場に来ており、政権が変わってそれが覆された。尹大統領の自由主義は、アメリカ式に近いと思う。

 

――韓中関係はこの30年間で経済の依存度が高まったのに、政治的協力がそれに追いついておらず不均衡な状態にあるという見方がある。

 

 基本的に理念と体制の差がある。また双方がともに選択的記憶から抜け出せずにいる。中国は過去、自らが大国だったということだけを記憶し、韓国はいま先進国として先に立っていることだけを記憶する。そうなると、摩擦が生じるほかない。

 

 中米関係を見る必要がある。中国とアメリカは戦いながらも水面下での交流を続けてきた。政府レベルだけでなく民間外交も重要だが、中国と韓国の間にはコミュニケーションチャンネルがない。過去、専門家の協同委員会がつくられ2年ほど活動したがよい経験だった。引退した政治家や学者、ジャーナリスト、企業家などの役割が重要だ。今は互いによいことだけを選んで対立しているようでとても残念だ。

 

――今後の韓中関係をどうみているか。

 

 中韓関係には永遠に離れられない隣国という下地がある。政治理念のために、逆の方向に行っていることが残念だ。改善される余地はあるのだろうが、より近い関係になるにはとても難しい。今後の状況を見るべきだろう。つまり、中国と台湾関係に問題が生じた時、韓国がどのような立場を取るのかが変数となりうる。

 

 中国の核心利益に関連した変数が発生するかどうかが重要な問題だ。韓国が安保目的の韓米同盟を超えて、すべてのことを自由主義陣営と共にする方向に進むことは頭のいいことではない。中国とアメリカがともに必要とする国であることが有利になるが、今は自由な空間を狭める方向へ進んでいるようだ。

 

――2023年は習近平国家主席の3期目が本格化する。中国の外交政策と戦略に変化があるか。

 

 中国の対外政策は相当柔軟になるだろう。この数年間、中国の外交環境が悪化したことに対する反省の結果が出てくるだろう。3年間のコロナ禍を経て、経済環境が悪化し、ウクライナ侵攻まで起きてさらに厳しくなった。3期目であるからこそ、統治能力と成果を出さないといけないという習氏が感じるプレッシャーは相当なものだろう。

 

 2023年の経済問題に注力し、統治の正当性をアピールしようとするだろうが、そうするためには安定した国際環境が必要だ。それこそ、柔軟な外交の最大のエンジンとなるだろう。終始としても3期目に対する負担が大きく、結果的に「よくやった」と言われなければいけない。

 

――台湾問題について、中国は武力統一も放棄しないという立場だ。

 

 政治指導者が歴史的な宿題を解決しようとの抱負を持つことは当然だ。しかし、武力統一をしようとすれば、次の状況がどのように耐えるのか。改革・開放から40年間、積み上げてきた外交関係が崩壊するが、そのような無謀なことはしないだろう。台湾内の独立勢力を今後も活用することがアメリカの戦略だ。

 

 アメリカはソ連の崩壊後NATOを拡大し、ウクライナまで引き込もうとしてロシアを刺激した。いま、ウクライナはロシアを弱体化させようとするアメリカの戦略に巻き込まれ、代理戦争を行っている。台湾問題も、周辺国家がこのような状況をきちんと見るべきだ。

 

――日本が安保文書を改正し、「敵基地攻撃能力」の保有を鮮明にした。東北アジア情勢や日中関係に与える影響は何か。

 

 北朝鮮のミサイル発射などの状況が、日本の右翼勢力に力を与えている。中国の立場からも不安だ。日本はドイツと違い、戦争反正に対する確実な反省をしていない国だ。日中関係は全体的により悪化することも、よりよくなることもない関係だ。特別な事件がなければ、これといった変化はない。

 

――米中対立は東北アジアの経済協力にも影響を与えうる。

 

 経済協力もアメリカが勝ち同盟を通じて中国を牽制する状況から抜け出すことは難しい。中国と韓国は協力可能な部分が多いが、それも厳しくなっている。ただ、若干緩和される可能性はあると思う。中国の対外政策が柔軟性をもつ方向へ進んでおり、アメリカや欧州も中国形成による損失が多い。2023年には世界経済がより厳しくなるだろうし、そのような状況を考えざるをえない。中米関係もそのような流れを見せている。外相会談が続けられており、融和的なジェスチャーも出ている。

 

――米中対立や東北アジアの緊張関係緩和を予想するのか。

 

 いま新冷戦という構図にあるということは、大枠では合っているが、過去の冷戦状況とは違い、逆動的であり変化する可能性が多い。今は共通の敵がいない。中国と北朝鮮に共通の敵と共通の利益は何か。過去、毛沢東と金日成は理念と生存環境、価値観などで似たような点が多かった。

 

 しかし、鄧小平と金正日は同じものがこれといってなく、習近平と金正恩からはさらに共通点を見つけることが難しい。ドイツやフランス、オーストラリアのような国の(融和的な)ジェスチャーも、アメリカに影響を与えるだろう。中国はコロナ禍で経済がとても厳しくなった。そのような時期に習近平が3期目をむかえたことはエンジンとなりうる。指導力を見せるために国際関係を含めてすべてのことを経済に有利な方向へリードするほかない。大きな構造変化はないが、緩和する方向に進むと思う。

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