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【火星17型】ICBM発射でもアメリカは冷淡な反応

ニュースリリース| 2022年03月26日(土)

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 北朝鮮が3月24日に大陸間弾道ミサイル(ICBM)を発射したことで、金正恩総書記がレッドラインを超えたという指摘が相次いでいます。北朝鮮の今回の発射は、米朝関係はもちろん朝鮮半島をはじめ北東アジア情勢に大きな変化をもたらすという見方です。崔源起記者が報告します。

 北朝鮮が4年4カ月ぶりにICBM「火星17型」を発射し、レッドラインを事実上超えたことになりました。韓国合同参謀本部によれば、北朝鮮は3月24日に午後2時34分、平壌・順安空港でICBM1発を日本海に向けて発射しました。このICBMの飛行距離は1080キロメートル、高度は6200キロメートルと探知されました。

 北朝鮮はICBMを高角発射しましたが、通常の角度で発射された場合1万5000キロメートル以上、飛行できるものと推定されています。理論的には、アメリカの首都ワシントンとニューヨークを含むアメリカ本土全域が射程圏に入ったということになります。

 北朝鮮は翌25日に国営メディアを通じて金総書記がICBM火星17型の発射を直接命令したと伝えました。これにより2018年4月に金総書記が核実験とICBMの発射を中断するとしたモラトリアム宣言が、4年ぶりに破棄されたことになると、アメリカ海軍分析センターのケン・ゴース局長は指摘しています。

 韓国の文在寅大統領は3月24日に国家安全保障会議(NSC)の緊急会議を開き、北朝鮮のICBM発射を糾弾しました。北朝鮮が発射したことで、文大統領はこの5年間に注力して進めてきた「朝鮮半島平和プロセス」も原点に戻ったことになります。韓国統一研究院のチョ・ハンボム博士は「韓米は事前に発射の兆候を捉え、すぐに対応し、強力に糾弾するという異例の行動を見せました。文大統領の人気ないに朝鮮半島平和プロセスの再開は厳しいとみなければなりません」と指摘します。

 専門家はICBM発射で米朝関係も2018年6月12日のシンガポール共同声明以前に戻ってしまったとみています。これまで米朝関係は北朝鮮の「核実験、ICBM発射モラトリアム」と、アメリカの「戦略訓練中断」でかろうじて平和を維持してきました。しかし今回、北朝鮮がこのモラトリアムを破棄したことで、アメリカはこれ以上「戦略訓練中断」を守る必要がなくなってしまいました。

 こうした中、4月12日から始まる米韓合同軍事訓練からは、アメリカの戦略兵器が展開されたり、あるいは大規模機動訓練が実施されるとチョ・ハンボム博士は指摘します。「米韓合同訓練では大規模機動訓練を行う可能性もあり、B52、B1といった戦略兵器を展開することもありえます」。

 アメリカのバイデン政権は3月24日、ICBMの発射を強く非難し、国連安保理会議の招集を要請しました。しかしウクライナ戦争で国際社会が極度に分裂した状況で、安保理が追加的な北朝鮮への制裁などで共同対応ができる可能性は希薄だと、アメリカ国家利益センターのハリー・カジアニス韓国担当局長は指摘します。これに先立ち、国連安保理は北朝鮮の弾道ミサイル発射に対応し、2022年1月10、20日、2月4、8日、そして3月7日に会議を開きましたが、共同対応は何もできていません。

 北朝鮮が4年ぶりにICBMを発射したことで、アメリカでは韓国や日本ほど大きな反応や緊張状態にあったり、または政策を転換すべきかどうかという動きは見えていません。専門家らはアメリカが比較的静かなことについて、それなりの理由があると指摘しています。まず北朝鮮がICBMを発射したとは言っても、まだアメリカ本土を脅かすほどのレベルではないということです。

 前出のケン・ゴース局長は、北朝鮮の今回の発射はICBMのある部分を実験したものであって、核弾頭が装着されたものではないと言います。またカジアニス局長は、アメリカ内の政治的要因を指摘しています。それは、現在のバイデン政権と議会などアメリカの政界のすべての関心はウクライナ戦争に向けられているためです。したがって、北朝鮮がICBMを打ったとしても、「そうなのか」といった程度だのようです。

 また、ホワイトハウスなどバイデン政権は当初から北朝鮮の核・ミサイル問題に大きな関心を寄せてきませんでした。さらには、アメリカの民主党と共和党は北朝鮮問題と他の問題をめぐっていくつかに分裂しており、声を一つにすることが難しいということです。カジアニス局長は共和党ではジョン・ボルトン元大統領府国家安保補佐官が北朝鮮の政権交代を主張している一方で、民主党では完全な非核化を主張していると指摘します。

 アメリカにとって北朝鮮問題のレッドラインは、ICBMではなく核実験だという見方もあります。専門家は中国に注目しています。中国は北朝鮮のICBM発射で、アメリカと2つの戦線に対置する状況となりました。ロシアが2月24日にウクライナを侵攻すると、アメリカはロシアを軍事・経済的に支援してはならないと中国に圧力をかけています。

 このような状況で北朝鮮が3月24日にICBMを発射すると、アメリカは中国に対して対北制裁の強化を受け入れることを要求しているものと思われます。短期的に中国は、北朝鮮のICBMを活用して、アメリカを牽制し圧力をかけることができます。当時に、北朝鮮がICBMを完成させた場合、これは朝鮮半島のTHHAD(高高度ミサイル防衛システム)の追加配備とアメリカの中距離ミサイル、またはミサイル防衛網の配置、日米韓の関係強化へとつながります。すべて中国の安保利益に否定的な内容です。

 このため、中国は多少の時間差を置き、2つの動きを見せるだろうと専門家は見ています。1つは、安保理でロシアと手を結び、北朝鮮に味方して会議を完全に封鎖するというものです。これにより中国・ロシア・北朝鮮の関係を強化できます。もう1つは、国連安保理の対北制裁の可逆的条項を根拠に、制裁を一部緩和し、これを元に米朝対話を再開しようとする公算があります。ゲリー・セイモア元大統領府大量殺傷兵器調整官は、中国が制裁感を元にある種の交渉を仲裁しうるとみています。

 問題は、4月に朝鮮半島での危機がより高まりうるという点です。金総書記は3月10日に平安北道東倉里にある西海衛星発射場を訪問し、偵察衛星の発射に備えて施設を拡充することを指示しました。また、4月15日は故・金日成主席の生誕110周年となる「太陽節」を迎えます。さらにアメリカと韓国は4月中旬から米韓合同軍事訓練を実施する計画です。北朝鮮のICBM発射で朝鮮半島には徐々に「強対強」の構図が固まりつつあります。

 専門家らは、朝鮮半島情勢がいつ、どのように解決の糸口を探すことができるのか注目しています。
(2022年3月26日VOA)


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