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朝鮮労働党の組織改編は不正不敗の根絶のため

ニュースリリース|トピックス| 2021年01月12日(火)

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【鄭昌鉉の北朝鮮を読み解く】
「ニュース1」2021年1月11日

 北朝鮮が1月10日、朝鮮労働党第8回党大会期間中に党中央委員会第8期第1回全員会議(総会)を開き、政治局委員と候補委員、党中央軍事委員会委員、党検査委員会委員、党中央委員会専門部署に関する人事改編を行った。これに先立ち北朝鮮は、金正恩・朝鮮労働党委員長を同党委員長から名称を変え、党総書記へ推戴し、党中央委員会委員と候補委員を選出した。

 政治局常務委員会には金総書記をはじめ崔竜海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員長、李炳鉄(リ・ビョンチョル)党中央委員会書記局書記、金徳訓(キム・ドクフン)内閣総理、趙勇元(チョ・ヨンウォン)書記が選出された。これまで常務委員だった朴奉珠(パク・ポンジュ)氏は脱落し、組織指導部第1副部長だった趙勇元氏が書記局の組織書記へ二段階昇進する破格の人事が目を惹く。趙氏は金正恩体制となった2012年以降、組織指導部副部長へ昇進した後は金委員長と絶えず密着して現地指導などに随行し、2020年1月に政治局候補委員に選出されてわずか1年で政治局常務委員に抜擢された。

 大々的な党組織改編を予告していた北朝鮮は、「特別に党内規律を強化し、新たな規律監督体系」を打ち出すことに焦点を合わせた。第1回総会で金総書記は、「党内に党規約と党政策を厳格に履行する強い規律を打ち立て、勢道と官僚主義、不正不敗現象を根絶やしにしようとするなら、新たな監督体系をつくらなければならない」と強調し、組織改編の目的が党内規律と綱紀確立にあるという点をはっきりと示した。これにより、党中央検閲委員会を廃止して党中央検査委員会に吸収させることで党中央検査委員会の権限と役割を高めて、「党内規律強化のための監督調査事業を担当するようにし、これに合わせ執行部署を構成」した。

 中央検査委員会委員長には、党中央委員会第1副部長出身の鄭尚学(チョン・ソンハク)を昇進・抜擢させ、副委員長には道党委員長出身の朴泰徳(パク・テドク)と李熙用(リ・ヒヨン)を任命した。また執行部署は、専門部署として規律調査部と法務部を新設した。2020年8月、司法・公安組織を担当する「組織行政部」を新たに設置したという報道があったが、新たな部署は「組織行政部」ではなく、「規律調査部」として確認されたことになる。規律調査部長には2020年8月に部長に任命された朴泰徳がそのまま横滑りとなった。朴泰徳は組織指導部と地方党幹部を経て、黄海北道党責任書記、党副委員長と党政治局員を歴任した人物であり、最高人民会議法制委員会委員として活動した経歴がある。

 中央検査委員会の強化について北朝鮮メディアは「第8回党大会を契機に、党内に規律を打ち立てる事業をリアルタイムで監督・統制できる新たな機構体系、事業体系がつくられた。これにより、第8期党中央委員会が全党的な規律強化のための事業を強力に展開できる、意義のある出発点、転換点が用意された」と報道した。金正恩政権以降、不正不敗の剔抉が継続して強調されてきたが、相変わらず不正不敗に関する事件が発生しているため、より強力なカードを取り出したものと思われる。とくに今回の党大会で「人民大衆第一主義」の実現をアピールしただけに、これに基づいて新設・強化された党組織を中心として、今後の党中央委員会から道、市、郡党委員会に至るまで全方位的な官僚主義と不正不敗の剔抉のための大々的な是正が行われることが予想される。

 また総会は政務局を再び書記局へと名称を変え、10人の党副委員長を7人の書記へと縮小した。最も目を惹くのは、国際と対南担当書記を任命しなかった点だ。国際部長がキム・ヒョンジュンからキム・ソンナムとなり、統一戦線部長がチャン・グムチョルから金英哲(キム・ヨンチョル)へ交代されたが、彼らはすべて書記局書記として起用されなかった。これは書記局会議に対外、対南問題は上程されないことを意味するかもしれない。

 このような改編は、金与正(キム・ヨジョン)第1副部長の地位と役割に関連しているものと推定できる。昨年2020年、金第1副部長が数回にわたって対南、対米関連の談話を発表したことで、彼女が対南、対外事業を総括しているという見方が出た。北朝鮮も公式的に、金第1副部長が「対南事業を総括している」と明らかにしたことがある。

 北朝鮮は金正恩政権以降、核実験など主要な安保、対南事業については「国家安全及び対外部門幹部協議会」を開いて議論してきた。したがって、北朝鮮が韓国の国家安全保障会議(NSC)と似たような機関をつくり、金第1副部長を責任者として前面に出せるという分析が専門家の一部から出たことがある。対南、国際担当書記を任命しないことは、対南、対外問題を担当する常設部署を別途に設置した、あるいはこれから設置する可能性があるということだ。今回の第1回総会では金第1副部長は政治局候補委員から脱落したが、第8回大会執行部の名簿には含まれている。依然として対南、対外問題を総括しているものと推測できる。

 今回の人事で、金与正・第1副部長、崔善姫(チェ・ソンヒ)外務省次官、金英哲部長が政治局候補委員から脱落・降格したことは、2019年2月のハノイでの米朝首脳会談が決裂に終わったことが反映されたものと思われる。北朝鮮が第8回大会の「事業総括報告」で「対外関係を全面的に拡大発展させ、破局に直面した北南関係を収集して改善するための積極的な対策を講究すべきだ」と強調したため、まもなく金第1副部長や崔善姫氏が復活する可能性はまだ残っているとみられる。

 北朝鮮は党中央委員会の専門部署の人事改編内容を明らかにして担当部署名を公開したことは異例だ。これにより、金才竜(キム・ジェリョン、組織指導部長)、朴泰成(パク・テソン、宣伝扇動部長)、呉日正(オ・イルチョン、軍政指導部長)、李日煥(リ・イルファン、勤労団体部長)、朴泰徳(規律調査部長)、キム・ソンナム(国際部長)、許哲万(ホ・チョルマン、幹部部長)、金亨植(キム・ヒョンシク、法務部長)、朴明順(パク・ミョンスン、軽工業部長)、李哲万(リ・チョルマン、農業部長)、金英哲(統一戦線部長)、金勇秀(キム・ヨンス、党財政経理部長)などの職責が公式的に確認された。

 ただ、新任の党部長のうち総政治局宣伝部局長のリ・ドゥソン、人民武力省副大臣のカン・スンマン(軍需工業部長と推定)、江原道党委員長のパク・ジョンナム、勤労団体担当副委員長の崔輝(チェ・フィ)などの職責は確認されなかった。過去と比べると、通常、組織書記と宣伝書記が組織部長と宣伝扇動部長を兼任していたが、今回は書記と部長を別途に任命した点が注目される。これは、過去とは違い、組織指導部を軍政指導部、規律調査部などのいくつかの部署に分離したことと関連があるようだ。

 一方、党中央軍事委員会は党と国家機関の人事によって、党の人士が新たに任命された。注目すべきは党経済部長出身の呉寿容(オ・スヨン)が軍需工業を総括する第2経済委員長に任命され、中央軍事委員になったことだ。これは最近の北朝鮮が軍事施設を民間施設へと転換し、軍需工場の生産を多角化している流れと関係があるものと思われる。北朝鮮は最近、軍事基地が位置する江原道元山葛麻半島を2018年から「元山葛麻海岸観光地区」として建設しており、飛行連隊が中東していた咸鏡北道鏡城(キョンソン)郡仲坪(チュンピョン)里に大規模な温室農場と養苗場を建設した。これは、2018年4月に「経済建設総力集中路線」を提示した北朝鮮が、軍事産業の技術を民間産業へ移転する政策を強化しているものと判断できる。

 北朝鮮は2021年1月末、最高人民会議の開催を予告している。そのため、この会議で党組織に続いて国家機関と内閣に対する大々的な人事を行うことが予想される。とくに南北対話と関連する祖国平和委員会の委員長が新たに任命されるかどうか、注目する必要がある。


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