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中朝国境封鎖から4カ月、物価、為替に影響も

ニュースリリース|トピックス| 2020年05月24日(日)

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 北朝鮮が新型コロナウイルスの流入を防ぐために、中国との故郷を封鎖して4カ月経った。この措置で、北朝鮮の市場と貿易が大きな打撃を受け、外貨難もさらに深まっている。

 北朝鮮は2020年1月31日、新型コロナウイルスの流入を防ぐために中朝国境を封鎖した。当時、北朝鮮の朝鮮中央通信は、「該当部門では国境、地上、海上、空中をはじめウイルスが浸透できるすべての空間を先制的に、完全に遮断すべき」と伝えた。この措置で、北朝鮮と中国を連結する陸海空の通路は全面的に封鎖された。

 平壌から北京、瀋陽、ウラジオストクを行き来し、観光客を運んできた定期航空便が途絶した。また中国・丹東と北朝鮮の新義州を連結する鴨緑江大橋など10数カ所の中朝ルートも遮断された。

 国境を封鎖したことで大きな打撃を受けたのが、北朝鮮のチャンマダン(闇市場)だ。これまで中国産の物資はトラックに載せて平安南道の平城と咸鏡北道の清津の卸市場へ運搬された後、400カ所あまりの総合市場とチャンマダンへ卸されてきた。ところが、国境が突然遮断されて物品が入らなくなり、物価が急騰し始めたとされている。

 日本の北朝鮮専門メディア「アジアプレス」によれば、2019年末に1キログラム当たり4118ウォンだったコメの価格は、2月初旬に5670ウォンまで上昇し、5月20日には4524ウォンへと下落したという。これは、北朝鮮当局が軍糧米を放出したり、取り締まりによる結果だというのが、脱北者出身で世界北朝鮮研究センターのアン・チャンイル所長は指摘する。「北朝鮮当局が軍糧米を放出し、少し価格を調整していると聞いている」とアン氏は言う。

 さらに、北朝鮮当局が伝染病の拡散を防ぐために住民の移動を統制しているため、商人の商売に支障を来しているようだ。脱北者出身で北朝鮮内にいる知人と定期的に連絡しているという、韓国・NK知識人連帯のキム・フングアン代表は「今がピークで、完全封鎖によって人の移動をさせないようにしているため、ウイルスをつかまえようとして人をつかまえているのではないかとの不満が高まっている」という。

 国境封鎖が数カ月続き、チャンマダンも開かれないなど、商取引が大きく萎縮しているものと思われる。また、調味料や食用油、砂糖など、これまで輸入してきた食料品の価格が急騰し、平壌では生活必需品の買い占め現象まで起きていると韓国の国家情報院は伝えている。

 中朝貿易も大きく減少した。最近公開された中国の税関統計によれば、今年3月、北朝鮮の対中輸出は61万6000ドルにとどまった。北朝鮮のひと月の対中輸出額が100万ドル以下になったのは、今回が初めてだ。対中輸入も大きく減少している。3月の北朝鮮の輸入額は1803万1000ドルで、前年同期比の1億9000万ドルの10分の1にまで減少した。米国の北朝鮮経済専門家であるトロイ・ステンガロン韓米経済研究所(KEI)先任局長は、北朝鮮経済が崖っぷちに向かっているという。

 新型コロナウイルスによる今回の事態で、中朝国境封鎖は北朝鮮の外貨難をさらに厳しくしている。北朝鮮はこれまで、毎年100万人以上の中国人観光客を受け入れ、3億ドル程度の外貨を得ていたとされている。ところが、国境封鎖で1月末からすべての観光客受け入れが中断した。米国の経済専門家である米ジョージタウン大学のウィリアム・ブラウン教授は、観光事業が萎縮したことで、当然ながら外貨危機を免れ得ないと指摘する。

 為替レートも変動している。この2年間、北朝鮮のウォン・ドルレートは1ドル=8000~8200ウォン台で安定してきた。ところが、3月19日に9235ウォンと上昇、5月10日には8259ウォンとなっている。韓国の北朝鮮経済専門家であるソウル大学のキム・ビョンヨン教授は、北朝鮮当局が政策的に貸せに介入できると指摘する。「最近、1ドル9000ウォン台にまで上昇し、8000ウォン台に戻ったのは、政策的介入があったのではないか。何がその理由なのかは、北朝鮮内部の事情と政策介入があるかどうかを詳細に見ていく必要がある」と言う。

 食糧難も心配されている。国連食糧農業機関(FAO)は最近、北朝鮮がコロナ事態の余波で食糧不足に陥いる可能性があると警告している。FAOは、北朝鮮住民1010万人が不安定な食糧状況におかれており、子ども全体の20%が栄養不足による発育不全に苦しんでいると明らかにしている。

 韓国・統一省も、北朝鮮が今年86万トン程度の食糧が不足すると予測している。北朝鮮では年間550万トンの穀物が必要とされているが、昨年の生産量は464万トンに過ぎなかったという。したがって、食糧を中国など外国から輸入しなければいけないが、中朝国境が遮断され、穀物輸入が難しくなっているという。北朝鮮の農業事情に詳しい韓国GS&Jインスティテュートのクオン・テジン博士は、すでに北朝鮮住民の食糧事情が厳しいと指摘する。「事実、昨年の穀物の作況がよくなかったため、いまごろは穀物価格が高めで推移しているはずだが、購買力が足りず価格が低いままだ。まだ食糧危機にまでは至っていないが、必要な食糧を確保することが難しくなっている」という。

 注目すべきなのは、最近の北朝鮮が防疫措置を緩和しようとする動きが見えていることだ。平壌のロシア大使館は5月18日に、外国公館に対する制限措置が緩和されたと伝えている。同大使館はフェイスブックで、北朝鮮外務省が外国人に平壌第一百貨店と(平壌)駅前百貨店の訪問を許可したと明らかにした。これに先立ち、北朝鮮は対外宣伝メディアである「朝鮮の今日」を通じて、日常生活に復帰した平壌市民の様子を公開している。

 公開された映像には、マスク姿の北朝鮮住民が家族や友人単位で大城百貨店と柳京苑を訪れ余暇を楽しむ様子が映し出されている。ソウル大のキム・ビョンヨン教授は、北朝鮮としてはできるだけ早く国境封鎖を解きたいはずだと言う。「防疫状況に大きな問題がなければ、早晩、封鎖を解除しようとするだろう。中国の状況が突然悪化したり、北朝鮮の防疫状況が安定していない状態で解除され、再び状況が悪化する可能性もあるため、ディレンマを感じているだろう」(キム教授)。

 北朝鮮首脳部がいつ、どのようなやり方で中朝国境封鎖を緩和するか注目される。
(米VOA、2020年5月22日)


 



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