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トランプ大統領は「板門店会談」というアイデアを持っていた

ニュースリリース| 2019年07月02日(火)

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文正仁・韓国大統領府特別補佐官インタビュー

(『京郷新聞』2019年7月2日)

 文正仁大統領府統一外交安全保障特別補佐官(68)は、南北と米国、米朝首脳間の「板門店会談」を「歴史的場面だった」と述べ、政治指導者の決断でいくらでも分断と軍事境界線のような人為的な障壁を克服することが出来ることを見せつけた代表的例として評価している。

 文氏は7月1日、京郷新聞とのインタビューで、朝鮮半島で繰り広げられている劇的な外交イベントの意味と今後の展開について説明した。

 文氏は「基本的に米朝ともに対話の欲求が内在しているため」と、今回の突然の政治イベントが可能だったという。また、今回の会談では米朝が実務協議の再開に合意したため、実質的な進展があったと述べ、一部で言われている「政治的ショーに過ぎない」という非難を一蹴した。文氏は、文在寅大統領が米朝首脳を板門店南側区域にある自由の家に招待し、対話をするように場を設けることを決断したことに対し「外交的に成功だった」と評価した。以下は一問一答。

――板門店で3カ国の首脳が会談が電撃的に行われたことは、米朝対話の再開に合意したこと以外にも、冷戦の現場で3カ国の首脳が一度に集まったというショーの側面もあるようだ。今回の会談をどう見たか。

文正仁:とてつもない歴史的な場面だ。板門店での会談の核心は、軍事境界線がどれだけ人為的なものなのかを見せつけたことだ。首脳らが政治的決断さえ行えば、いつでも行き来でき、また超えることができることをすべてに認識させた。米朝首脳が軍事境界線を越えて、再び戻ってくる様子を全世界が見た。結局、分断と対決の象徴である軍事境界線は政治的な決断で克服できるというメッセージを与えたのだ。そのため、ハノイでの2回目の米朝首脳会談以降、膠着状態だった米朝関係に活力を与えた。特にハノイでの会談以降、多くの者が「トップダウン方式」による交渉には限界があり、実務協議によるボトムアップ式のアプローチをすべきだとの主張があったが、北朝鮮を相手とするならば、結局は金正恩委員長と直接会わなければならず、トップダウン方式だけが解決策だということが板門店の現場でわかっただろう。

――トランプ大統領の急な提案に北朝鮮がすぐに回答を示したが、双方がなぜこれほどまで積極的な行動を見せたのか。

:お互いに考え方が合うためではないかと思う。米国と北朝鮮がともに従来の立場を変えて交渉の場に来いと主張していたが、それは実際には不可能だ。金委員長が今年4月の施政演説で、米国に年末までに考え方を変えよと述べた。しかし、それは外交的、宣言的な修辞であり、北朝鮮住民に向けた発言だったと思う。米国もハノイでの会談は失敗ではなく、北朝鮮と対話を望んでいると一貫して主張してきた。北朝鮮も首脳間の信頼を協調し、米国と対話できるという意志を継続して見せてきた。米朝ともに対話を行おうという内的欲求は相当なものだったのだろう。

――トランプ大統領は機会があるごとに「あせらない」と述べているが、今回のように積極的になったのは意外だ。

:トランプ大統領はまもなく再選を目指す大統領選の選挙戦に入るが、外交の分野で成功したことが一つもない状態だ。彼が最も実績を上げてきたのは北朝鮮の核問題だ。この問題では、前任者であるオバマ大統領に対して非難を繰り返してきた。トランプ大統領の基本的な考えは、クリントン、ブッシュ、オバマ政権がすべて失敗した北朝鮮の核問題で勝利したとアピールしたいということだ。それを次の大統領選挙で大きく取り上げたい。そのためなら、トランプ大統領も早く動く必要がある。またトランプ大統領はこれから、国内のスケジュール消化で忙しくなり、シンガポールでの首脳会談のように外遊することが難しくなるだろう。大統領選挙運動が始まる前に、北朝鮮の問題で成果を出したいという欲求は明らかにある。

――トランプ大統領の典型的な政治リアリティショーという批判もあるが。

:それには同意できない。それをショーだとすれば、美しいショーだ。またショーだけで終わらないだろう。もし二人が板門店でたった2分だけ会って終わればショーになるだろうが、いずれにしても協議によって金委員長が「自由の家」まで来た。そして50分以上の対話を行った。そうして、米朝実務接触を再開しようという実質的な結果を引き出した。そうできたのは、ハノイで米国のビッグディールと北朝鮮のスモールディールの間で、金委員長と何らかの接点を見いだしていたからこそ可能だったのではないかと思う。もしこれまでのようにオール・オア・ナッシングだったら、北朝鮮は実務接触という提案に応じなかっただろう。

――今回会談にまで至った背景について、知っている通りに説明してほしい。

:今回の会談は、事前に企画されたものではないようだ。金委員長が自分も驚いたと言っていた。崔善姫外務次官も公式提案があれば応じると述べた。これを見ても、事前調整はなされなかったと思わざるを得ない。ところで、基本的には昨年の最初の米朝首脳会談を話し合う時、特に5月に入り会談場所をどこにするかという話し合いの中で、韓国政府の一部では板門店で米朝首脳会談を行い、引き続き南北米首脳会談をするのが望ましいと考えてトランプ大統領を説得しようと努力していた。その時、すでにトランプ大統領の頭の中には板門店での話し合いというアイデアが入力されたのかもしれない。そのため、突然にあのような提案を出せたのではないだろうかと思う。今回、トランプ大統領が韓国を離れる前に、烏山(オサン)基地でポンペオ国務長官とイバンカを舞台に上げた。ポンペオは交渉の総責任者でありそうしたのもわかるが、なぜイバンカを上げようとしたのか。私は、板門店でのイベントがイバンカと密接な関係があると思う。今回のイベントを可能にしたのは、イバンカだったとも言えそうだ。ワシントンポスト紙が「イバンカがかなりの役割を果たした」と報道したことは根拠があるものなのだろう。

――保守層の一部では、文在寅大統領が萎縮していたという指摘も出ている。

:文政権は立派に、そしてきちんと協力した。韓国の大統領は脇役で、米朝首脳からパッシングされたという者もいるが、私はそう思わない。大統領が決断して、板門店で米朝首脳が会えるようにしたのではないか。外交とは当事者、時にはファシリテーターの役割もできるし、仲裁的な外交も出来る。今回のケースは、文大統領が布石を打つような外交を行ったと思う。結局、米朝首脳が再度会って対話を再開できるように準備したということだ。この点で意味は大きい。特に金委員長と会うには、本来ならば板門店北側の統一閣まで行かなければいけないが、金委員長は南側の自由の家でトランプと会った。韓国の領土内で米朝首脳が会ったのに、どうしてパッシングされたと言えるのか。事実上、文大統領がホストなって二人のお客を招待したのだ。

――北朝鮮は段階的・同時的なアプローチを、米国は同時的・並行的なアプローチを主張している。米朝の実務協議でこの差は解消できるだろうか。

:米国務省のビーガン北朝鮮政策特別代表が5月19日にアトランティックカウンシルで演説したが、ここで米朝ともに柔軟なアプローチが必要だと述べた。また、安全保障に対する典型的な考えが必要だとも指摘した。米国がこれまで一貫して同時的・並行的アプローチを強調してきたが、これは北朝鮮の段階的・同時的なアプローチと折り合うことが可能だと思う。北朝鮮の主張は言葉には言葉、行動には行動という原則であり、それによって段階的に同時交換しようというものだ。米国が言う並行とは、非核化と平和体制を同時に推進しようというものだ。北朝鮮の立場ではビッグディールであり、一括妥結は簡単ではない。そのため、段階的に行いながら信頼を積み上げて、また同時交換によって信頼を積み上げながら非核化を行おうというものだ。段階的同時交換原則や、米国が言う同時並行的なアプローチの共通点は「同時」にある。簡単に言えば、北朝鮮の立場でも米国が安全保障、より多くの政治・経済・軍事的な保障をしてもらうことで、非核化を完全に行うことは可能だということだ。

――米朝は実務協議を始めて、三回目の首脳会談を行うのが目的だ。三回目の首脳会談がうまく開かれためには何が必要か。

:まず、北朝鮮が先に何らかの措置をすべきだろう。豊渓里の核実験場に国際調査団が行き、東倉里のミサイル実験場を先に廃棄すれば、米国も何かすべきだろう。その次に、ハノイで提示した寧辺プラスアルファだ。寧辺の核施設を検証可能な形で廃棄すれば、相当な行動になる。大統領も述べたように、南北間の経済交流協力を可能にする措置や、必要であれば国連安保理決議の一部緩和も考えることができる。米国は北朝鮮が「プラスアルファ」の実施に前向きに出てこなければ、交渉に応じないだろう。もし北朝鮮がそのようにできれば、米国も相応の措置、たとえば南北経済協力に必要な制裁解除措置をしたり、国連制裁の一部解除、米国の独自制裁の一部解除もできる。さらに、米朝の連絡事務所の開設、国交正常化交渉、終戦宣言、平和条約、不可侵条約などを米国が前向きに行えるだろう。

――米国が2020年の大統領選モードに入るのが変数とな理想だ。トランプ政権が選挙を考えて北朝鮮に譲歩しづらくなり、北に要求するレベルを高めるのではないだろうか。

:トランプ大統領は自分がつくったディールにはいつでも応じる構えだ。そのため、選挙戦を控えて北朝鮮の問題が、彼にとって大きな問題になるとは見ていない。寧辺核施設の廃棄といったようなことに合意し、続いて具体的な行動まで実行に移せれば、トランプ大統領に有利な材料となるだろう。いずれにしろ、ハノイでビッグディールという話をしたため、ビッグディールに近いところまで行くだろう。もし年末までにディールが成立せず、来年に米朝交渉が決裂した状態で北朝鮮が2017年のように弾道ミサイルを発射したり核実験を行うと仮定してみよう。いまトランプ大統領が最も強調しているのは、2017年に比べ北朝鮮が挑発をしていないというものだ。もし過去と似たような状況が展開すれば、トランプ大統領にかなりの負担となるだろう。トランプ大統領の立場からは、外交的業績が一つはあるべきだ。イラン、パレスチナはうまく行かず、中国、欧州との関係もよくない。今、本人肝いりのプロジェクトは北朝鮮の核問題だが、自ら交渉の場を崩すことはなく、大統領選挙が本格化する前に外交的業績を上げようとするだろう。

――北朝鮮が南北関係と距離を置こうとしていることは、どう受け止めるべきか。

:北朝鮮は米朝関係が厳しくなれば、南北関係も厳しくなるということを確実に知っているはずだ。民族的な連帯を訴えながら、南北関係を改善するということは、すでに構造的な限界に来ている。米国と交渉して成果を出せなければ、南北関係の改善も難しいことを感じていると思う。北朝鮮の立場からは、韓国を仲裁者とするのは難しいだろう。米韓は同盟なのに、韓国は仲裁者になれるだろうか。私がかつて、ある討論会でこのように述べたが、北朝鮮がまさにそれを引用して韓国を非難したこともある。米国は常に同盟の利益を強調し、北朝鮮は民族協調をアピールするため、韓国はサンドウィッチのような立場になりうる。これを克服しようとすれば、南北関係と米朝対話を同時並行的に行おうとする努力が必要だ。米朝関係が改善されていれば、そうしやすくなるような状況をつくる。そうすれば南北関係も改善されるだろう。

――米朝関係がよくない時、南北関係をリードすべきだというのが文政権の考えだが、これに同意するか。

:私はよく講演に出かけるが、市民社会からはそのような要求が強い。もちろん保守的な人たちは反対もするが、南北交流協力に関心が高い人たちの場合は特にそうだ。事実、これまで政府が国連制裁に違反しない範囲で自分たちが出来ることを積極的に探そうとはしなかった。制裁の枠内でも出来ることは相当ある。たとえば金剛山へ個別に観光することは制裁に違反しない。欧州や中国の観光客も金剛山観光に行くではないか。人道的な支援や交流協力も制裁に違反せず、いくらでも出来ることだ。

――中朝首脳会談を契機に、中国が朝鮮半島問題に積極的な役割を果たすという意思を見せているが、どのような変化があるだろうか。

:中国は北朝鮮の核問題は基本的に米朝間の問題だと考えている。そしてツートラック戦略によって北朝鮮の非核化をリードしようとすれば、平和体制の問題を取り上げざるを得ない。平和体制を進めようとすれば、終戦宣言を行い、平和条約を締結すべきだが、中国は休戦協定の体制を平和条約に転換させる過程において法的な当事者だ。中国が朝鮮半島問題に影響力を行使するという見方をするよりは、停戦宣言の法的当事者として見るのが正しい。トランプ大統領は何回も強調したが、北朝鮮の核問題において中国は障害ではない。この問題の解決において、中国と米国は協力できる。


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