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【北朝鮮 Live!】北朝鮮経済が「社会主義」にこだわるワケ

ニュースリリース|北朝鮮 Live!| 2016年11月03日(木)

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東洋経済オンライン2016年11月2日

 「現在の北朝鮮における企業活動は国家の統一的指導の下で行われている」ゆえに成果を上げていると、北朝鮮を代表するシンクタンク、朝鮮社会科学院経済研究所の金哲(キム・チョル)所長は断言した。
金所長は東洋経済との単独インタビューに対し、北朝鮮の企業や工場で実施されている「社会主義企業責任管理制」が成長エンジンとなっていると指摘。北朝鮮が目指す「経済強国」建設のための企業管理制度の有効性を説いた。金所長へのインタビュー内容は、以下の通り。

――北朝鮮は経済強国建設を打ち出しているが、具体的にはどうなっているのか。

:経済強国建設のため、実質的に経済が発展できるように各種の国家的措置が執られた結果、経済制裁の下での経 済は徐々に発展している。2016年5月に開催された朝鮮労働党第7回大会で出された事業総括報告では、「社会主義企業責任管理制」が言及された。これ は、経済発展を進めるために、以前から実施された国家的な措置による企業管理制度だ。

現場に権限を与え、国に大きく依存しない企業

 工場や企業所、協同団体が生産手段を社会主義的な所有とすることで、実質的な経営権を行使して企業活動を創造・活発に行う。これによって、国家に対 する任務を遂行し、勤労者が生産と管理において主人としての責任と役割を果たすということが、社会主義企業責任管理制の目指すところだ。

――社会主義企業責任管理制の目的は何か。

:企業体自身が経営するうえで、より具体的な経験を持てるようになったということだ。すなわち、各企業が経営 活動において完全に責任を持って、現存する生産の基盤に基づき、国家に大きく依存することなく生産や経営活動を進められるように、実質的な経営権を行使で きるようになったということである。

 たとえば、計画と生産組織や管理期間と労力の調整、人材管理、貿易、合営、合作、財政管理、価格設定、販売などの実際的な経営権を企業体が持ち、経営活動を主導的に行っていく。

――社会主義企業責任管理制において、各企業や工場はどのような義務を国家に負うのか。

:各企業、工場に与えられた国家的課題を無条件に遂行して、収入と支出を合わせ、国家に利益を与える。また、従業員の文化生活に責任を持ち、向上させ、さらに企業を拡大発展させるということだ。

――社会主義企業責任管理制で北朝鮮らしい点はどこか。

社会主義企業責任管理制の優位性を強調する社会科学院経済研究所の金哲所長

:他国の管理制度とは根本的な違いがある。言葉通り、社会主義企業責任管理制は、社会主義的な企業管理制度ということ。企業の生産手段は私的所有ではなく、社会主義的所有だ。これによって、各企業・工場の活動は、国家の統一的な指導の下、徹底して進めることができる。

 現在の北朝鮮では、全般的に社会主義企業責任管理制が実施されており、その効果ははっきりと出ている。たとえば、平壌326電線工場をはじめとし て、多くの工場や企業所、協同農場で、社会主義企業責任管理制が完璧に実施されている。これで経済全般に目に見える成果が出ていることは間違いない。

実体経済は緩やかに成長している

 以上が金所長へのインタビューである。

 「経済制裁下の経済」と北朝鮮が自称するように、米国を中心とした対北朝鮮経済制裁はじわじわと拡大している。韓国統計庁は2015年の北朝鮮の経 済成長率をマイナス1.1%と発表した。今年1月の核実験以降、経済制裁は強化されており、制裁が本格的に実施された4月以降の経済状況に対し、世界の北 朝鮮ウオッチャーが関心を高めていた。

 だが、首都平壌を中心に、北朝鮮の内部では経済制裁による影響を感じるほどの状況にはなっていないようだ。2016年9月下旬に訪朝した記者の目に は、道路や施設などインフラ関連はさらに改善されているように見えた。この5年間、毎年訪朝しているが、今年はこれまで1週間の滞在で数回経験した停電 が、今年は1回も経験しなかった。

 商店やレストランなどの商業施設も活況で、この5年間そうであったように、モノも食料も足りないということはなかった。女性の服装もより華やかで多様なものとなり、男女ともに夕刻になるとビールなどを片手に談笑する光景もすでに日常茶飯事になったようだ。

 朝鮮労働党の金正恩(キム・ジョンウン)党委員長が政権を本格的に担った2012年以降、いくつかの経済措置が執られたが、その目玉の一つが社会主 義企業責任管理制だった。われわれからすれば「独立採算制」に近いものだが、北朝鮮側は「社会主義」という看板を外さない。金哲所長が指摘するように、 「国家の指導・管理の下」と、生産施設などの「社会主義的所有」が大前提となっているためだ。

 金所長は平壌326電線工場を引き合いに出し、社会主義企業責任管理制の成果を紹介したが、記者も訪朝中にいくつかの工場・企業を取材。社会主義企 業責任管理制による実施状況と成果について質問してみると、「生活費(月給)に加え、増産したぶんは従業員の労働に応じて、現金か現物かで支給」(元山靴 工場)、「月給は45万~60万ウォン(実勢レートで約5900~7800円)」(金カップ体育人総合食料工場)、という答えが返ってきた。

国家指導でどこまで成長させられるか

 月給45万~60万ウォンの絶対額は小さいものの、北朝鮮の物価・生活水準からすればかなり高いほうだ。ほかにも、月給25万~30万ウォン(約 3300~4000円)を支給したうえで、白米などの食品・日用品の現物支給を行う企業(元山葛麻食品工場)や、工場の敷地内に従業員向けの休養施設や託 児所を設置するなど福利厚生に力を入れている企業(金正淑平壌製糸工場)もあった。金カップ体育人総合食料工場の場合、「技術系の従業員には(上記の金額 より)厚めに出している」(同工場の朴南鎮副社長)と従業員の技量や貢献度に応じた給料体系を採っているところもあった。

 社会科学院経済研究所の李基成教授は社会主義企業責任管理制について、「国家が給与の制定基準を決めたうえで、企業や工場の責任幹部らが生産計画や方向性を自ら決めることができるようになった。最低補償額は8万ウォン(約1000円)」と説明する。

 取材した企業はいずれも、社会主義企業責任管理制を導入、その運営で成功した企業・工場であり、金正恩党委員長も現地指導を行うなど、いわば成功し た企業だ。当然、導入したものの、成功にいまだ至っていない企業もあるだろう。そうした企業を国家の指導の下でどう管理していくか。この制度を続けるかぎ り、北朝鮮当局にとって重い課題となるはずだ。



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