昌鉉の『これからの北朝鮮を読み解く』

6 朝鮮労働党第7回大会で示された北朝鮮の路線と政策の方向性

鄭昌鉉の『これからの北朝鮮を読み解く』| 2016年05月29日(日)

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 5月6日からの4日間、36年ぶりに開催された朝鮮労働党第7回大会が9日、終わった。大会では、金正恩党委員長の開会と事業総括、党大会事業総括決定 書の採択、閉会の辞、「全体人民軍将兵と青年たち、人民に送る朝鮮労働党第7回大会アピール」などを発表、1980年の前回大会以降の事業を総括し、今後 の推進路線と政策を提示した。

 党中央委員会の事業総括は、主体思想の評価原則である「勝利史観」にしたがって36年間を「わが党の長い歴史に置いてこれまでになく峻厳な闘争の時期」 としたが、「偉大な転換が達成された栄光の勝利の年代」と評価した。1980年代後半から始まった「世界的な反社会主義、反革命の逆風」に「前代未聞の厳 しい試練と難関」を迎えたが、主体思想と先軍政治によって「社会主義守護戦」で勝利したというものである。社会主義圏が崩壊し、帝国主義の孤立圧殺策動が 強化される中でも、「苦難の行軍」を克服し、社会主義体制を守ることができたという点を最大の成果として掲げたことになる。

 総括報告では「主体思想、先軍政治の偉大な勝利」「社会主義偉業の完成のために」「祖国の自主的統一のために」「世界の自主化のために」「党の強化発展のために」など5つの項目に分け報告した後、今後の課題を提示した。この内容は、事業総括決定書のなかにほぼ、そのまま含められた。

 大きな枠組みで見ると、2009年から10年までの金正恩後継者時代に対する内部の議論を経て用意された政策の方向性、金委員長が12年4月に党中央委 員会責任幹部たちとの談話と、4月15日の公開の場で行った初めての演説で示した基本的な方向性、その後に金委員長の名まで出された分野別の文書(労作や 談話)、新年の辞、現地指導で出された内容が圧縮して含まれていると言える。

 北朝鮮は後継者が決定された後、2009年から10年上半期までに党、政、軍の実務幹部を中心にかなりの議論と協議を行ったうえで新たな政策の方向性を 確定した。後継者が強調した二つのキーワードは、「世界的な流れ」と「実利の追求」だった。政策を準備するための基準点となったのは90年代初頭、金日成 時代に出されていた最後の政策路線だった。

 こうして用意された政策の方向性を準備・確定する段階で、新たな政策の方向性に合わせて金正日総書記は中朝・ロ朝関係を改善し、南北首脳会談と米朝接触 を推進(いわゆる「包括的対外戦略」)する一方で、内部的には新たな経済路線に合わせて「模範単位」を集中して現地指導し、新しい経済管理システムの試 験、経済特区の拡大など「新経済政策」(実利主義の全面)の土台作りに注力した。

 2012年に金正恩第1書記が公式的に権力を受け継いだ後、党、政、軍に「唯一的指導体系」を確立しながら、各分野別に金正恩時代の特色を示して政策を具体化し始めた。もちろん、このようなプロセスは「自主の道、先軍の道、社会主義の道」という3つの基本的な政策の方向性を継承しつつ、時代的環境の変化 と「世界的な流れ」に合わせて調整することだった。

 今回の党大会で示された政策の方向性は、このような一連の内部での議論と流れを反映して総合的に体系化され提示されているし、「社会主義の完全勝利」という長期的な目標の下、短くは5年、長くは10年の推進期間を目指して出されたものと評価できる。

 したがって、今後の北朝鮮の路線と政策を把握・対応するためには、各分野別に提示された内容を細かく分析する必要がある。

労働党の最高規範は金日成・金正日主義

 金委員長は「全社会の金日成・金正日主義化」「祖国統一」「世界の自主化」を、実現すべき三大課題として提示した。なかでも、「全社会の金日成・金正日主義化」が労働党の最高綱領であることを再確認した。

 2012年4月6日、金第1書記は朝鮮労働党の指導思想を金日成・金正日主義と規定し、党の最高綱領は「全社会の金日成・金正日主義化」と宣言した。こ れは、金総書記が後継者時代の1974年、主体思想を金日成主義と命名し「全社会の金日成主義化」を打ち出した時と同じ動きだった。北朝鮮では後継者(継 承者)が先代の最高指導者の思想を体系化し、これを全社会の規範にまで拡散させることを第一にすべき課題として設定している。

 金委員長は事業総括の中で、「金日成・金正日主義」を「主体思想とそれによって明らかにされた革命と建設に関する理論と方法の全一的な体系」と定義し た。総括報告の小見出しが「主体思想、先軍政治」となっていた点に注目すべきだ。「金日成・金正日主義」が、金日成が創始して金正日が体系化した主体思想 を基に、金正日時代の先軍政治を新たに含めて「金日成・金正日主義」と規定したことになる。

 北朝鮮の哲学界で議論となった主体思想と先軍思想が持つ位相との関係について、2010年に改正された党規約で初めて、主体思想が党の指導思想であり、先軍政治は「党の基本政治方式」と規定したが、これを再確認した。

 金委員長は「全社会の金日成・金正日主義化」とは、「すべての構成員を真の金日成・金正日主義者として育て、すべての分野を金日成・金正日主義が要求するとおりに改造し、人民大衆の自主性を完全に実現していくこと」と規定した。理論的に見えると、「人民大衆の自主性を完全に実現する」ということは、共産主義社会の完成を意味する。そのため、「全社会の金日成・金正日主義化」を「主体革命」の最後まで堅持するという意味だ。

 そして、「全社会の金日成・金正日主義化」を実現するための基本的な闘争課題として、「社会主義強国建設偉業の完成」を掲げ、そのための課題として人民政権の強化と思想・技術・文化の三大革命を指摘した。金日成は「人民政権に三大革命を加えると、人民大衆の自主性が完全に実現された社会を建設することができる」と述べている。

 二つの課題は1980年の第6回大会でも強調されている。金委員長は「社会主義建設の全期間にわたって継続すべき革命の課題」と設定した。金委員長は、今回の党大会では二つの課題に戦略的路線として「自彊力第一主義」を追加した。

 特に「朝鮮労働党中央委員会事業総括」決定書は「社会主義強国建設は全社会を金日成・金正日主義化するための闘争の歴史的段階」であり、「社会主義の基 礎を固め、社会主義の完全なる勝利を収めていく過程」と説明した。現段階の国家目標として提示された「社会主義強国建設」が「全社会の金日成・金正日主義 化」という党の最高綱領を実現するための第一段階であり、この課題は「社会主義の基礎」を固める段階と「社会主義の完全勝利」を達成する段階の連続的な二つの段階に分かれるということだ。

 全体的な基調は、第6回大会で示された党の最終的な目標と金正日時代に掲げられた強盛大国論の枠組みから大きく逸脱していない。すなわち、政治思想強国 として「全社会の金日成・金正日主義化」による一心団結の強化、軍事強国としての政治軍事的威力の強化、経済大国としての科学技術大国と文明大国の建設な どを政策の方向性として打ち出した。

革命の段階設定=「主体革命偉業を遂行するための跳躍期」

 金正恩委員長は党大会の開会の辞で、現時期を「主体革命偉業を遂行するための跳躍期」と規定、今回の党大会は「金日成・金正日主義の強化発展と社会主義偉業の完成のための闘争で新たな里程標を設ける歴史的契機」になると発表した。

 2000年代初頭、北朝鮮は金日成時代を「主体革命の先行時代」であり、金正日時代を「革命発展の新たな高い段階」とし「先軍時代」と名付けた。金委員長は現在を「主体革命偉業遂行の跳躍期と規定したことになる。前述した「社会主義の基礎を固める段階」に該当すると思われる。

 北朝鮮は資本主義から共産主義社会へと移行する過程を、革命段階的に人民民主主義革命期(反帝反封建民主主義革命期)→社会主義の移行過渡期(社会主義建設期→社会主義完全勝利)→共産主義社会(低レベル→高レベル)に分けている。

 北朝鮮は1958年、社会主義制度が樹立した後、社会主義建設期を経て「社会主義の完全勝利段階」に入ったとし、70年の第5回党大会で「社会主義の完 全勝利」を正式にアピールし始めた。北朝鮮は90年代の「苦難の行軍」の時期を経て、「社会主義の完全勝利」という言葉の代わりに、党の最終的な目標を 「人民大衆の自主性が完全に実現された社会」へ修正し、「社会主義の完全勝利」をあまり使用しなかった。現実の困難を反映して、事実上、「革命の段階」を 取り下げたことになる。

 ところが、今回の党大会で金委員長は「社会主義の完全勝利」という単語を複数回使い、最終日に採択されたアピールにも「党の第7回大会でなされたすべての決定を貫徹して、朝鮮での社会主義の完全なる勝利を全世界に誇り高く宣言しよう」とし、「社会主義の完全勝利」を強調した。そう言えるほどまでに、内部 的には「先軍時代」に規定された「社会主義守護戦」の困難な時期を過ぎ、新たな経済的跳躍を行えるという自信を持っていえるほどになった、ということだ。

 これはすなわち、「主体革命偉業を遂行するための跳躍期」を経て、次の段階である「社会主義の完全勝利段階」に達しようということだ。最終的には、国家的目標として提示された社会主義強盛国家の完成は、革命段階論的に見れば「社会主義の完全勝利段階」に該当すると見なすことができる。

党規約に「経済建設と核武力建設の併進路線」を明示

 金正恩委員長は「主体革命偉業遂行の跳躍期」に堅持すべき戦略的路線として、「経済建設と核武力建設の併進路線」を提示した。2013年3月の労働党中央委員会総会で採択された「経済・核併進路線」を再確認したことになる。改定された党規約にも、これが入れられた。

 金委員長は「経済・核併進路線」が「急変する情勢に対処するための一時的対応策ではなく、われわれの革命の最高の利益から恒久的に堅持すべき戦略的路 線」と再度、強調した。併進路線が「核武力を中枢とする国の防衛力を鉄壁にするものであり、経済建設に拍車をかけて繁栄する社会主義強国を一日も早く構築 するための最も正当で革命的な路線」という主張である。

 これらの主張は、経済建設のためには安全保障がしっかりとしていなければならず、安全保障のためには通常兵器による競争ではなく、非対称戦力として核武 力を強化しなければならず、これにより核保有国の地位から米国と交渉している平和協定を締結して平和体制を用意することと解釈される。

 さらに踏み込んで考えてみると、平和協定が締結され、安定した平和体制が構築されるまで「最終的な非核化」に進むことは意味がない、ということだ。逆に解釈すると、平和体制が構築され、北朝鮮の立場から安全保障の懸念が解消されると、最終的に非核化へ乗り出せるという主張もある。「元に戻せない非核化」 と「恒久的な平和体制」を併行して推進しようという提案もありうるということだ。

経済発展5カ年戦略

 「経済・核併進路線」に基づいて、金正恩委員長は「経済強国建設」と人民生活の改善を重要な課題として提示した。社会主義強盛国家建設の三大指標である 「政治思想強国」「軍事大国」「経済大国」の「政治軍事強国の地位に堂々と立つことができたが、経済部門はまだ当然あるべき高さに至っていない」との認識 だ。

 金委員長は立ち後れた経済の現実を率直に打ち明けた。「経済全般を見ると、先進的なレベルになった部門があるが、同時にある部門は情けないほど劣ってお り、人民経済部門間のバランスが適切に確保されず、先行部門がリードできずに国の経済発展に支障を来している」と評価した。実際に北朝鮮を訪問してみる と、宣伝とは異なり、遅れた分野が多いことを目視できる。

 したがって、金委員長は「国家経済発展5カ年戦略」の基本的な目標を「人民経済全般を活性化し、経済部門間のバランスを確保して、経済を持続的に発展さ せられる基盤作り」と設定、5カ年戦略推進を徹底することを強調した。5カ年戦略は党大会の前には策定されていたものと思われる。

 特に金委員長は「社会主義経済強国を成功裏に建設するためには、人民経済発展のための段階的な戦略を間違えることなく実行すべき」と発言、5カ年戦略に加えてより長期的な段階別の戦略の策定も示唆している。

 しかし、第4、5回大会で出された6カ年、7カ年計画や、第6回大会で出された「社会主義経済建設10大目標」と比べると、5カ年戦略はそれほど具体的 ではない。具体的目標値よりも「戦略」という名前で政策の方向性を提示するにとどまった。国際的な経済制裁の中で、目標達成が不確実であると思われる。た だし、内閣で立案された5カ年戦略は、より具体的な内容が含まれている可能性もある。

 今回の党大会では、経済建設のための戦略的路線として「自力自彊の精神と科学技術を掌握し、人民経済の主体化、現代化、情報化、科学化を高いレベルで実現し、人民に豊かで文化的な生活条件を用意すること」とした。記載された基本的方向は、大きく分けて3つある。

 第一に、人民経済の自立性と主体性を強化すべきというものだ。厳しい経済状況の中でも「自立的民族経済の物質技術的土台をしっかり固め、経済強国建設の跳躍台を用意した」だけに、今後もこれをより強化すべきというものだ。

 第二に、国家の経済組織者的機能を強化し、「われわれ式の経済管理方法」を全面的に確立すべきというものだ。そのために、内閣責任制を再度強調した。金 正恩委員長は、経済事業の全体を内閣に集中させて、すべての経済部門と単位が内閣の統一的な作戦と指揮に応じて動く規律と秩序を厳密にすることを強調し た。このため、内閣総理を政治局常務委員と党中央委員会委員に任命、党と内閣の経済政策を担当しているクアク・ボムギ元経済書記、呂斗鉄内閣副総理兼国家計画委員長、オ・スリョン計画財政部長をすべて政治局委員に選出した。内閣責任制を実質的にリードする経済官僚を重用したことになる。

 そして、経済管理の改善のための核心となる「社会主義企業責任管理制」の確立を強調した。金正恩委員長は「工場や企業所、協同団体は社会主義企業責任管 理制のニーズに合わせて経営戦略をきちんと立て、企業活動を積極的、創発的に生産を正常化・拡大発展させる」ことを指示した。金委員長は2012年ごろか ら継続して経済管理方式の改善を指示しており、これにより新たな企業経営方式と協同農場の圃田担当制導入が試験的に実施された。

 金委員長は特に2014年5月30日、党、国家、軍隊機関の責任幹部らとの談話「現実発展の要求に合わせて朝鮮式の経済管理方法を確立することについ て」(5.30談話)で新たな経済管理方法として「社会主義企業責任管理制」を提示している。当時の金委員長は、社会主義企業責任管理制について「工場や 企業所、協同団体が生産手段の社会主義的所有に基づいて実際の経営権を握って企業活動を創発的に行い、党と国家に責任を負う任務を遂行し、労働者が生産と 管理の主人としての責任と役割を果たすようにする企業の管理方法」と定義した。

 今回の党大会で経済改革措置が発表されなかったことについて失望感を持つ専門家もいるが、社会主義企業責任管理制が全面的に確立・実施される場合、北朝 鮮の経済運営に大きな変化が起こることが予想される。「社会主義企業責任管理制」によって2002年7月に始まった「社会主義経済管理改善措置」よりも包 括的な「経済改革」が実施できる契機が用意されたことになる。

 第三には、科学技術大国に基づいた経済建設をすべきというものだ。金正恩委員長は「科学技術大国」という言葉を使い、「社会主義強国建設で今日、われわれが優先的に占領すべき重要な目標」と示した。科学技術が経済強国建設において機関車としての役割となる必要があり、これにより経済の近代化、情報化を達 成し、自彊力を増大させるという構想だ。北朝鮮は2012年までに経済発展に占める科学技術の発展寄与度を30%に引き上げるという構想を発表したことが ある。今回の5カ年戦略では、これよりも高い数値が提示されたものと思われる。

 一方、金委員長は「国家経済発展5カ年戦略」の実施期間に推進すべき方向を分野別に提示、電力問題の解決と食糧の自給自足を特に強調した。金委員長は電 力問題の解決が5カ年戦略を推進するための先決条件だとし、経済発展と人民生活の向上の中心と規定し、「党で提示された電力生産目標を必ず占領」すべきだ と注文付けた。

 このため、原子力発電所の建設を含めた大規模発電所と中小型発電所の建設、風力と潮力、バイオマスと太陽光エネルギーによる電力生産、発電所の生産工程 と施設の整備補強、発電設備の効率化、電力生産と原価低減、国家的統合電力管理体系の構築、送配電網のリニューアル・補修などを提示した。ただ、電力生産 目標を数値では公開しなかった。依然として電力不足が経済建設の大きな問題として指摘せざるを得ない現実を反映したものだ。

 また食糧問題については、食糧の自給自足の実現を強調し、「食糧生産を継続して増やし、農業を世界先進水準にまで引き上げること」を要求した。北朝鮮は 2013年の食糧生産量が566万トンであり、食糧生産量が継続して増えていることをあきらかにしたことがある。FAOのベライ・デルージャ・ガガ北朝鮮 事務所代表も14年10月、同年の穀物収穫量は600万トンに達すると述べ、北朝鮮が3〜4年後には食糧の自給自足を達成できるだろうと思われると明らか にしたことがある。

 大多数の農業専門家が懐疑的な反応を見せているが、北朝鮮が毎年500万トン以上の食糧生産を安定して確保しているのは確実だ。北朝鮮は内部的な生産目標を650万トンとしているが、5カ年戦略期間中、この目標を達成して食糧の自給自足にまで至るかどうかが注目される。

 特に金委員長は人民生活の改善を「首領様の遺訓中の遺訓」と述べるなど、労働党が解決すべき「もっとも非常に重大な課業」としているだけに、最も基本となる食糧自給に「火力を総集中」するものと予想される。

 対外経済関係では、「対外貿易で信用を守り、一辺倒をなくし、加工品輸出と技術貿易、サービス貿易の比重を高める方向で貿易構造を改善する」ことと、 「経済開発区に有利な投資環境と条件を保障し、運営を活性化し、観光を活発に組織する」ことを注文したのに留まった。2013年に経済特区を拡大する措置 が発表された後、国際社会の対北経済制裁が続く中、追加的な「経済開放」措置よりは、基本的な方向性だけを簡単に提示したものと思われる。

核武力の強化

 金委員長はこれまで労働党が成し遂げた特出した成果として「先軍革命路線、自衛の軍事路線を貫徹し、わが祖国を不敗の軍事強国へ強化発展させたこと」を 挙げた。そう述べ、「国防工業部門では精密化、軽量化、無人化、知能化されたわれわれ式の先端武装装備を思い通りに作り出している。核兵器の研究部門では 3回の地下核実験と最初の水素爆弾試験に成功し、世界的な核強国の戦列に堂々と並ぶことになった」と持参した。「責任ある核保有国」「主体の核強国」に なったということだ。

 北朝鮮は「経済・核併進路線」を改正した党規約に含めたことで、今後も継続して核能力を強化するものと思われる。金委員長は「帝国主義の核脅威と専横が 続く限り、経済建設と核武力建設を併行させることに対する戦略的路線を恒久的に掲げ、自衛的な核武力を質・量的にさらに強化していく」と宣言した。

 これにより、北朝鮮は今後多様な小型核弾頭の開発と実戦配備、核弾頭を装着できる多様なミサイル開発に注力するものと思われる。専門家はおおよそ、4回 の核実験で核弾頭の小型化技術をほぼ完成させたものと思われる北朝鮮が、今では小型化された核弾頭を実験、あるいはその弾頭を搭載した弾道ミサイルを公開 することのみが残されていると思っている。

 韓国軍と情報当局は、北朝鮮が5回目の核実験を行うなら、地上核弾頭爆発実験を行う可能性をも念頭に置いている。地下坑道で核物質を置いて核弾頭の起爆 装置の爆発実験を4回行っているため、次回は地下の奥深い坑道ではない、地上の水平坑道での核弾頭爆発実験を行うこともありうるということだ。

 ただ、金委員長は「侵略的な敵対勢力が核でわれわれの自主権を侵害しない限り、先に核兵器を使用することはなく、国際社会の前で責任を負うNPTの義務 を誠実に履行し、世界の非核化を実現するために努力する」と述べ、「核の先制不使用」と「核の非拡散」については忠実に守るという意思を表明した。

 これに対し、中国・清華大学国際関係学院の朝鮮半島専門家である曹瑋氏は、北朝鮮が韓米を狙った核問題に関する立場を「緩和させるシグナル」と見てお り、また清華・カーネギーグローバル政策センターの趙通研究員は「多少の曖昧さはあるが、全体的に責任ある核保有国のイメージ作りをしようという北朝鮮の 意図が反映されている」と分析する。

 北朝鮮はひとまず「核実験の凍結」と韓米合同軍事演習の中断を連携させ、「核先制不使用」と「核の非拡散」の履行をテコに平和協定締結を要求し、米国と の対話、あるいは多国間協議を模索するものと思われる。朴槿恵政権は強硬な姿勢を見せているが、中国の立場を考慮すべきであり、大統領選挙を前に情勢管理 が必要なオバマ政権は北朝鮮の「本気度」を見極めながら、会談に応じるかどうかを考えているものと思われる。

勢道(権勢)と官僚主義、不正腐敗行為の剔抉

 2013年1月29日に開かれた労働党第4回細胞書記大会で金委員長は直接「勢道群、官僚主義者こそわが党が断固として処分すべき主な闘争対象」と述 べ、就任後初めて「勢道」に言及した。それ以降、北朝鮮の党機関紙とメディアでは、勢道と官僚主義、不正腐敗行為の剔抉を強調する記事が相次いで掲載され 始めた。特に、張成沢粛清を前後して多くの幹部らが「官僚主義と不正腐敗行為」について検閲を受け、粛清された。

 今回の党大会でも、金委員長は再びこれを強調した。金委員長は「わが党が勢道と官僚主義、不正腐敗行為との戦争を宣言して闘争してきたが、それをまだ克 服できずにいる。勢道と官僚主義が許容され許されれば、不正腐敗が横行し専横と独断が生じるようになり、それが積もれば反党の芽が育つようになる」とし、 不正腐敗の根絶に向けた感度を高めたことに注目される。

 2012年6月2日に朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」が「今は外部から押し寄せる敵が怖いのではなく、社会主義揺籃の中で成長した幹部の官僚化、貴族化 が問題」と指摘したことがある。先軍時代が進むにつれ積もり積もった「官僚主義と不正腐敗」が相当深刻であることの反証だ。「一心団結」と「人民大衆第一 主義」をスローガンとして打ち出した金委員長としては、この問題を必ず解決すべき宿題として抱えていることになる。

 もちろん、「官僚主義、形式主義、不正腐敗」は金日成時代から継続して強調されてきた慢性病的な問題であり、銃殺のような劇薬処方をつかって短期間で元から絶つことができるか疑問だ。

 金正恩委員長は党大会で「全党を代表する最高職責」として新設された朝鮮労働委員長に推戴された。党と軍に対する唯一的領導体系の確立は、「全党に党中央(金正恩)の唯一的領導の下に一つになって動く革命的規律と秩序」が確立されたことを意味する。

 金正恩時代になって浮上したキム・スギル平壌市党責任書記とキム・ヌンオ平安北道責任書記、パク・テソン平安南道責任書記などが政治局候補委員に選出さ れたことも注目される。金委員長が金正日時代の党幹部らを元老として待遇しながらも、今後は自らとともに党をリードする新進世代らを大挙して政治局委員と 党中央委員会委員に進出させたことになる。「老・壮・青配合」の幹部政策を維持しながら、自ずと世代交代を推進した。

多くの分野であらゆるレベルでの南北対話と交渉を提案

 関心を集めた統一方案について、金委員長は具体的に新しい方案を提示しなかった。党大会決定書では「金正恩同志の祖国統一路線」という単語が出てきたが、それが何かは体系的に説明されていない。ただ、あらゆる言及を通じ、その輪郭を推論できる。

 まず、統一の最終形態については「連邦制方式」を提示した。南と北どちらかへの一方的な吸収統一、「制度統一」ではなく、「全民族的合意」に基づいた連 邦制方式の統一だ。金委員長は「北と南は相手方に存在する互いの思想と制度を認め受け入れることに基づいた全民族の志向と要求に合わせ、連邦国家を創立す る道」を主張する。

 金委員長が「祖国統一3大憲章」(「祖国統一3大原則」「高麗民主連邦共和国創立方案」「全民族大団結10大綱領」)に言及したが、南側が受け入れるこ とが難しい高麗民主連邦共和国創立方案をそのまま貫徹しようという趣旨ではないようだ。すべての問題を対話と交渉によって解決していくべきだと強調したた めだ。祖国統一3大憲章に「貫通している基本精神」を堅持するという意味だと思われる。その基本精神を金委員長は「民族自主と民族大団結、平和保障と連邦 制の実現」と規定した。

 金委員長が「祖国統一3大原則」(自主、平和、民族大団結)と6.15共同宣言、10.4宣言は北南関係発展と祖国統一問題を解決することにおいて一貫 して掲げていくべき民族共同の大綱」と強調しただけに、北朝鮮は「低い段階の連邦制と南北連合生の共通点」(北朝鮮はこれを公式的に連邦連合制と呼び始め た)を発展させ、「民族統一機構」(南側は南北連邦機構)を樹立する方向へ進もうという金正日時代の統一アプローチをそのまま継承したものだ

 このための当面課題として、金委員長は「民族の和解と団合を妨害し同族間の不信と敵対心をそそのかす外部勢力の分裂離間策動とそれに便乗する一体行為を 許してはいけない」と主張し、北と南が多くの分野で「あらゆるレベルでの対話と交渉」を積極的に発展させ、互いの誤解と不信を解消し、祖国統一と民族共同 の反映のための出口を切り開こうという提案だ。

 そして、優先的に「北南軍事当局会談」が必要だと主張した。特に金委員長は南北軍事会談によって軍事境界線と黄海熱点地域(黄海のNLLの意味)から軍 事的緊張と衝突の脅威を減らすための実質的な措置を執り、軍事的信頼への雰囲気作りにしたがってその範囲を拡大していこうと述べ、会談の議題まで明らかに した。

 このような提案は、李明博、朴槿恵政権で南北当局者接触と会談、民間交流を進めたが、相手方を刺激する「誹謗中傷」がなされ、軍事的緊張が高まれば即座 に中断される事態が繰り返された。そのため、まず南北軍事会談を行い、軍事的信頼措置をようしようという意味だ。もちろん、北朝鮮の核実験が緊張を高めた 側面は触れられなかった。核開発は南側に向けたものではなく、米国の核脅威に対する自衛的措置という北朝鮮の立場が反映されている。

 また金委員長は「相手方に向き合う態度からまず持つべきだ」と述べ、南側の「制度統一論」「北朝鮮変化論」「体制崩壊論」などに非難の声を高めた。党大 会決定書では「南朝鮮当局が千万不当な制度統一に固執し、ついには戦争の道を選ぶのであれば、正義の統一大戦として反統一勢力を無慈悲に打破するものであ り、民族の宿願である祖国統一の歴史的偉業を成し遂げようとする意思」まで表明した。

 北朝鮮が党大会を通じて対話と会談を提案しているが、韓米合同軍事演習の中断、和解と団合に抵触する法律的、制度的装置の廃棄など、韓国政府が受け入れがたい前提条件を羅列しており、実際に対話の再開や会談へとつながる稼働はとても厳しくなった。

 しかし、北朝鮮が提示した前提条件は、過去の事例から見ると、実際に会談が開かれる情勢となれば大きなネックにならない可能性が高い。対南圧迫用として 自らの「原則的立場」を標榜したものと見ることができる。当面の対南政策における方向性は、「互いに相手を尊重し、統一の同伴者として共に手をつないで関 係改善と祖国統一運動の新たな場を切り開こう」という言葉に要約できる。

 米国を狙って「南朝鮮で侵略軍隊と戦争装備を撤収させるべきだ」「朝鮮半島問題から手を引くべきだ」ということも、対米圧迫用として再び持ち出したものと思われる。基本的には「対朝鮮敵対視政策を撤回し、停戦協定を平和協定に替えよう」というのが、米国向けの提案だ。

「きらびやかな設計図」に現実性はあるのか

 金委員長は今年の新年の辞では、朝鮮労働党第7回大会で「きらびやかな設計図を見ることになるだろう」と予告した。北朝鮮のメディアは今年、「強盛強国建設に総力を集中し、国の経済発展と人民生活向上で新たな転換を起こすべき」と強調した。

 国内外の専門家らは今回の党大会で新たな国家ビジョンと経済政策が出てくると予想した。予想通り、北朝鮮は今回の党大会で「主体革命偉業遂行の跳躍期」 として革命の段階を設定し、国家目標として「社会主義強盛国家の完成」を提示し、「国家経済発展5カ年戦略」を発表した。社会主義企業責任管理制という概 念として、「北朝鮮式経済改革」の青写真を提示した。

 ところで、実際に党大会期間中に出た北朝鮮の路線と政策については、「中身がない」との評価が主流になっている。核問題に対する転向的な発言、市場経済 の受け入れなど主観的に期待した内容が含まれていないためだ。また長期戦略として党規約にまで含めた「経済・核併進路線」について、国際社会の対北経済制 裁が続く中で、経済成長と人民経済生活の向上が可能なのかという懐疑論も大勢だ。

 しかし、基本的に朝鮮労働党大会は外部に向けたものではなく、内部的に長期継続目標と短い5年、ながくて10年の短期目標を提示する場所だ。党大会を開 くためには組織指導部と宣伝扇動部を中心に各部署の実務人が「常務組」(タスクフォース)を構成して、6カ月程度の時間を準備にかける。この過程で高度な 討論と協議が行われる。結局、党大会で発表される事業総括報告書と決定書は、北朝鮮を率いる朝鮮労働党の「集団的協議」によって出てくるという点に注目す べきだ。現段階で、北朝鮮指導部の認識がうかがえるということだ。

 当然、合意されたレベルで報告書が作成され、基本的に原則的な立場が内容となる。そして、抽象的な目標と多様な「政治的修辞」が動員される。北朝鮮の表現通りに「きらびやかな設計図」だ。これまでの党大会でもそうだったように、党大会はそんな政治的イベントだ。

 その点で、今回の党大会で経済的改革・開放に関する特別な措置や「併進路線」が留保されるだろうと予想することは、北朝鮮について無知であることを辞任することに過ぎない。党大会でそんな政策が出てくる道理がないのである。

 北朝鮮は1980年の第6回大会以降、社会主義圏の崩壊や「苦難の行軍」、核実験による経済制裁などで最悪の期間を過ごし、第6回党大会で提示された目 標と政策をほとんど達成できなかった。今回の党大会では第6回大会で提示された内容が再び登場したことは、これを反映したものだ。

 いずれにしろ、原則的な「政治的修辞」より「新たな跳躍期」という表現を使い、30数年ぶりに「国家経済発展5カ年戦略」を打ち出すことができるように なった北朝鮮の現状に、より注目すべきなのかもしれない。「政治的修辞」にだけ注目するだけでは、北朝鮮の政策の方向性について誤った判断と対応をしてし まう。

 そのため、党大会以降が重要だ。党大会で提示された「抽象的な目標」が現実にどのように具体化されるかを見ていく必要がある。特に対外関係、対南関係は 対話と交渉の相手がいる。したがって、対話と交渉のためには相手方の考えと政策を考慮するほかない。今まで北朝鮮の政策がそうしてきた。

 統一方案だけみてもそうだ。1980年に高麗民主連邦共和国創立方案が提示され、当時提示された5大前提条件、履行過程などは、それまで多くの変化を経 てきた。連邦制という基本前提だけ維持され、「緩い携帯の連邦制」「低い段階の連邦制」「連邦連合制」などの概念が登場し、対話の相手として公式に認めて いなかった南側当局だけでなく、「思想と理念から離れ、統一の志向するすべての人間」を対話の対象と認める方向に変化した。南側との対話が進めば、現実的 に変化あるいは「柔軟な政策」で対応することになる。

 在韓米軍問題をとってみても、公式的にはこれまでも撤収を主張してきたが、金正日総書記、金委員長のこれまでの発言の中には、敵対関係が清算され在韓米軍の地位と役割が変われば対応も替わりうるという点を示唆したこともある。

 対話と交渉の進展、時代的環境の変化にしたがって実際の政策はいくらでも柔軟性を持ち、相手方の立場を受け入れることもある。北朝鮮幹部は外部の人間と 合う会った際、国際政治や国際関係で「永遠のものはない」という言葉をよく使う。敵対的な政策と敵対的な「言葉の爆弾」を注ぎ、事態を悪化させても、対話 と交渉の条件が整えば互いに支援も氏、互いに有利な合意を引き出すために駆け引きも行うのが一般的だ。

 党大会決定書で示された「政治的修辞」にこだわれば、その「政治的修辞」に込められた新たな方向性を見逃すこともある。さらなる読解と討論が必要な項目だ。

党大会以降、局面は変わるか

 党大会で出てきた北朝鮮の対南、対外政策について、朴槿恵政権はすぐさま特別な提案はないと述べ、核問題についてこれまでの立場から変化したものが出て くるまで、国際協調による対北圧迫を継続すると発表した。米国も北朝鮮が「非核化」が進展する立場を示せば対話が可能という立場だ。

 ただ、米国の一部では北朝鮮の「核凍結」と「非拡散表明」に注目し、対話に乗り出すことを促し始めた。代表的なのは、米国の有力紙「ニューヨークタイム ズ」が強力な対北制裁も重要だが、北朝鮮の核による脅威を根本的に防ぐためには、オバマ政権が北朝鮮との交渉を再開すべきだと何回も表明している。北朝鮮 の核プログラムを「最小限に抑制させるレベル」で対話と交渉を始めるべきというものだ。

 5月12日、韓米連合軍のヴィンセント・ブルック司令官も板門店を訪れた際、異例にも北朝鮮と対話と協力が続く必要があり、対話と協力が再開されることを期待すると明らかにした。

 特に米国家情報局(DNI)のジェームス・クラファー局長が5月4日に訪韓し、米朝平和協定交渉と関連した韓国側の立場をあらゆるルートで打診したこと はきわめて異例なことだ。北朝鮮が今回の党大会が終わった後、なんらかの攻勢に出てくる場合に備えて韓米間に協議が行われ、クラファー局長が「米国が北朝 鮮と平和交渉似関連した議論を行う場合、韓国がどの程度まで譲歩できるのかという趣旨の質問」を行ったということだ。

 今秋の大統領選を前に、米国は朝鮮半島情勢を管理しなければならず、中国の相次ぐ「非核化を前提に米韓朝平和協定締結」の要求に対応する必要性がある。制裁だけで北朝鮮の変化を引き出せないという点で、米国の悩みが深まるほかないだろう。

 北朝鮮は今回の党大会を契機に、名実ともに「金正恩時代」を宣言した。したがって、金委員長の唯一的領導体系の確立が最優先課題と成り、北朝鮮の政策が対外関係改善と経済建設に優先順位を置く局面転換に出てくる可能性が高まった。

 短期的に見ると、8月末に実施される韓米合同訓練である「乙支フリーダムガーディアン」演習が始まるまで北朝鮮は核実験を留保し、クラファー局長が予想するように「対話攻勢」に出てくるものと思われる。南北軍事会談の提案も、そのような次元に置いて出されたのだろう。

 党大会以降、北朝鮮が局面転換のためにどの程度柔軟性を見せ、米国と韓国にこれについてどのような対応をするかが、今年の朝鮮半島情勢を規定するだろ う。8月まで対話のエンジンが置かれない場合、北朝鮮は米大統領選を前に多様な「挑発」を試みて、米国を困惑させる可能性が高い。韓米当局がいったんは 「核実験凍結」を前提に対話のテーブルに着き、党大会で出てきた多様な「政治的修辞」の中に込められた北朝鮮の「真実」を確認するのが今後行うべき最初の 仕事だろう。
(韓国『統一ニュース』2016年5月13日)


鄭昌鉉の『これからの北朝鮮を読み解く』