昌鉉の『これからの北朝鮮を読み解く』

4 北朝鮮「2044年までに再生エネルギーで電力500万KWを生産」計画を立案

鄭昌鉉の『これからの北朝鮮を読み解く』| 2016年05月29日(日)

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 北朝鮮が30年間、多様な再生エネルギーを活用した電力生産を500万キロワットまで引き上げるという長期計画を立案・推進していることが確認された。 風力発電で電力需要の15%を保障するなど、2044年までに再生エネルギーによる発電能力を500万キロワットまで確保するという構想だ。

 500万キロワットという目標は、北朝鮮が3年間の工事で2015年に完工した清川江(チョンチョンガン)階段式発電所の総出力が43万キロワットであり、とても遠大な計画と思われる。

 この計画は、環境汚染がないエネルギー資源を開発せよという金正恩第1書記の支持で2014年11月に設立された「自然エネルギー研究所」で展示されている内部資料によって明らかにされた。

 2015年9月、自然エネルギー研究所を訪問したある海外人士は「平壌にある自然エネルギー研究所の展示館に、『自然エネルギー科学発展の夢と理想』と題 した再生エネルギー開発のための30年計画が図表にされて掲示されていた。自然エネルギー科学の発展のための人材養成計画図、風力・自然・太陽熱などを利 用するための技術的発展と試験導入地域などの資料などがともに公開されていた」と述べた。

 北朝鮮のこのような構想は、電力難を解消するためロシアや中国の電力を導入したり、大規模水力発電所を建設すること以外にも、再生エネルギーの開発に積極的になったということだ。石炭や原油など化石エネルギーの消費を減らし、再生エネルギー資源を開発・利用するための事業をより本格的に推進するというこ とだ。実際に、北朝鮮は金正恩時代になって再生エネルギー活用を広げるため、多様な措置と投資を併行させている。

2013年に再生エネルギー法を制定

 まず、北朝鮮は2013年8月に再生エネルギーの開発と利用を法的に担保するため「自然エネルギー法」を制定した。同法は「再生エネルギー事業を活性化し、経済を持続的に発展させ、国土環境を保護することに資するために」制定された。

 6章46条で構成された再生エネルギー法は、再生エネルギーの定義と法の目的、再生エネルギー資源の調査と開発、利用においての基本原則、再生エネル ギーの開発・利用計画及び奨励、再生エネルギー部門の物質技術的土台の強化、再生エネルギー部門の指導統制での法的要求などを規定している。同法は再生エ ネルギーを太陽光、風力、地熱、バイオ、海洋エネルギーなど環境に影響を与えず再生可能なエネルギーとして定義している。

 次に、再生エネルギー産業の発展に資する自主技術の開発において相当な成果が出ている。北朝鮮は2015年9月に平壌で開催された平壌秋期国際商品展覧 会で「グリーンエネルギー合作会社」が製造した太陽光パネルを出品し、5月に行われた第15回5.21建築祝典には太陽熱、風力、地熱を利用した「グリー ン住宅形成設計」が出品されてもいる。また太陽光エネルギーを動力とするバスと小型旅客船も公開している。

 2013年には国家科学院傘下に風力、地熱、太陽エネルギー、バイオエネルギー、メタン、水素エネルギー技術の開発のための専門研究機関として「自然エ ネルギー研究所」を設置した。14年に同研究所のリ・ミョンソン所長は「現在利用されている風力発電機のうち300ワット級が71.4%、それ以上は 28.6%であり、大部分を北朝鮮国内で生産されている」とし、北朝鮮が太陽エネルギー発電と風力発電に使用する製品を自ら生産した製品を利用していると 明らかにした。

 また、北朝鮮は光明LED・太陽電池工場を設立し、太陽エネルギー製品を自主生産しているとされている。北朝鮮は1998年「エネルギー管理法」を制定 した後に風力、太陽光、太陽熱、潮力、バイオマス、燃料電池を主力開発課題として研究してきたが、それまで相当な技術発展を成し遂げているものと思われ る。

研究・試験段階から全国への普及段階へ

 三つ目に、試験導入段階から再生エネルギーを全国に普及させる事業に取り組んでいる。北朝鮮は2007年の新年共同社説において「エネルギーを効果的に 利用し、節約するための科学技術的問題を解決すべきであり、太陽エネルギー、風力エネルギーをはじめとする新たなエネルギーを開発するための研究に力を入 れ、その利用展望をしっかりと設定すべきです」としており、再生エネルギー開発の必要性を強調している。

 既存の水力・火力発電所の設備老朽化と化石エネルギー不足などで慢性的な電力難となっている北朝鮮が、電力問題を解決するために再生エネルギーに目を向 けた。その後、風力、地熱、メタンガス、太陽光を活用し、電気と冷暖房を解決する試験単位が研究所や協同農場、軍部隊などに用意された。

 実際に、2008年5月に南浦市のリョンナム船修理工場を訪問した際、同工場には6基の風力発電機と100あまりの太陽光電池パネルが設置されていた。 ここで生産された電気は、「情報設備と便宜サービス網の運営に必要な電力需要を十分に保障する」と工場支配人が説明していたことがある。

 当時、力を入れていたのは「研究」と「試験導入」だった。金正恩体制が始まり、政策の力点が変わり始めた。金第1書記は2014年の新年の辞で「水力資源をメインにし、風力、地熱、太陽熱をはじめ自然エネルギーを利用して電力をより多く生産するようにすべきです」と述べ、自然にやさしいエネルギー生産を強調し、今年16年の新年の辞でも電力不足の解決策で発展施設の整備・補強、電力生産の最大化、水力発電所の建設、エネルギー節約以外にも、自然エネルギーの活用を提示した。研究と試験事業から抜け出し、全面的な「導入と活用」へと変化したのだ。

 特に金第1書記は、今年最初の公式活動として1月1日、「科学技術の殿堂」竣工式に出席。この場で金第1書記は「朝鮮労働党第7回大会を迎える新年最初の 門を科学で開いた」と述べた。注目すべきは、完成した科学技術の殿堂の照明と冷暖房に、太陽熱と地熱を利用したという点だ。大規模公共施設にも再生エネルギーが本格的に導入され始めたということだ。

 一般家庭でも小型太陽光パネルを購入して、電力需給を自主的に解決しているという。2015年4月にロイターは北朝鮮向け旅行商品を斡旋する高麗旅行社 関係者の言葉として「平壌の各家庭の窓に太陽光パネルが設置されており、そうした家庭が昨年よりも3倍増えた」と述べている。北朝鮮の市場や百貨店で20 ワットの太陽光パネルが35万ウオン(市場レートで約44ドル)程度で売られているともいう。

 2015年9月の第11回平壌秋期国際商品展覧会を訪問したある海外人士は、「北朝鮮住民が展覧会に出品された太陽子パネルに多大な関心を示しておりとても驚いた」と述べた。

 実際に、北朝鮮を最近訪れた人士によれば、太陽光電池パネルと蓄電池を設置して電気を得ている工場と企業、学校、幼稚園、住宅はすでに見慣れた光景だと言う。平壌市、開城市をはじめ主要都市では太陽電池パネルをつけた街灯の設置が広がっている。

 開城市の場合、機関や企業所、学校、数万世帯の家庭などに太陽電池パネルと蓄電池を導入し、自主的に生産された電気を利用しており、リニューアルされた恩徳院と開城中等学院、開城育児院では太陽エネルギーを利用して温水を供給しているという。

「自彊力第一主義」と「世界的流れ」を結合して構想

 四番目には、再生エネルギー事業の活性化と電力需要を保障するため、海外資本の誘致に積極的に取り組んでいるということだ。その代表例として、北朝鮮は経済特区である「元山・金剛山国際観光地帯」の電力需要をまかなうため、風力発電所をBOT方式で推進している。BOTは港湾や道路、発電所などの施設を建設した事業主が一定期間内に該当施設を運営して投資額と利潤を得た後、その施設を発注主に渡す方式だ。

 北朝鮮が公開した「2015年元山・金剛山国際観光地帯投資対象案内書」によれば、風力発電所の総投資規模は3250万〜3900万ドル、履行期間は建設2年、運営10年だ。同発電所は、元山・金剛山国際観光地帯、特に通川地区と金剛山地区の電力需要を満たすためのものだ。

 特に北朝鮮が、資本主義社会で一般化されているBOT方式で外資誘致に打って出た点が注目される。外資誘致のために投資方式を多様化していることになる。それだけ、北朝鮮は経済活性化や人民生活の改善だけでなく、経済特区に対する投資誘致による電力難解消が何よりも切実な課題となっている状況だ。

 10年前ごろ、平壌で会った北朝鮮関係者は「経済的難関を解決するためには、まずは電力問題を解決すべきなのだが、他部門はなんとかなるのだが、電力問題はとても厳しい」と、自ら苦衷を吐露したことがある。

 2016年の新年の辞で北朝鮮は「人民生活の問題を千万の国事のなかでも第一の国事」と述べた。金第1書記はここで、「経済強国建設に総力を集中し、国の経済発展と人民生活向上において新たな転換を起こすべきだ。経済強国建設における転換の突破口を開こうとすれば、電力、石炭、金属工業と鉄道運輸部門が総進撃 の先頭において力強く行われるべき」と強調した。

 電力や石炭、金属、鉄道など「四大先行部門」を強調したことは、北朝鮮が経済活性化のために毎年強調してきた分野であり、目新しいことではない。ただ、その中でも電力問題が解決されなければ、他部門の目標も達成するには厳しいということだ。

 北朝鮮が伝統的な火力や水力による電力生産体系とともに、再生エネルギーを活用した電力確保をひとつの軸として設定し、長期的に投資を増やす理由だ。

 その点で、すでに実行段階に入った北朝鮮の「2044年再生エネルギー発電能力500万キロワット確保構想」は、北朝鮮が2016年の新年の辞で明らかにした「自彊力第一主義」ともつながっており、再生エネルギーの比率を高めようとする世界的流れにも通じる。

(『統一ニュース』2016年2月1日)


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