昌鉉の『これからの北朝鮮を読み解く』

3 北朝鮮に対する「中国役割論」の破産、韓国と米国の次なる選択は?

鄭昌鉉の『これからの北朝鮮を読み解く』| 2016年05月22日(日)

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 北朝鮮にとって4回目の核実験の後、韓米日は国連で対北制裁案を協議する具体的な行動に出ている。朴槿恵政権は、今回の核実験が北朝鮮の核問題に対応する全体的な枠組みを変える「ゲームチェンジャー」となりうると判断しているようだ。

 朴槿恵大統領は北朝鮮が水素爆弾の実験を行った後に、国際協調による対北圧力を主張、特に「中国役割論」を強調している。朴大統領は2016年1月13日の国民向け談話でも、「中国はこれまで何回にもわたって北朝鮮の核は不要との意思を公言してきた。そのような強力な意思が実際に必要な措置につながっていなければ、今後5回目、6回目の核実験を防ぐことはできず、朝鮮半島における真の平和と安定を担保できない点を中国もよくわかっていると思う」と述べ た。

 「最も強力な対北制裁決議案」をつくるため、中国の役割が重要だという判断だ。中国が公開してきた「北朝鮮に核は不要」という主張を、実際の行動に移すように公の場で圧力をかけたことになる。

中国「朝鮮半島の核問題において主要当事者ではない」

 しかし、北朝鮮の核問題と北朝鮮の問題を分離するという、中国の基本的な対北政策が変わる可能性は高くはなさそうだ。今回の実験直後の中国は、比較的に強力な批判を出した後、すぐさま「冷静」と「ふさわしい対応」「対話による解決」を取り上げ、北朝鮮に対する従来の立場に戻ってしまった。むしろ中国は「朝鮮半島の核問題における主要当事者ではない」と述べ、米国の対北政策が変わるべきという点を強調した。

 実際に、今回の核実験は米国と韓国が協調してきた「中国役割論」が破綻したという側面を抱えている。筆者は2009年に北朝鮮が2回目の核実験を行った後、1次、2次とは違う第3次核危機が作られたと分析したことがある。

 まず、第1、2次の核危機は、米国が北朝鮮の核開発疑惑を取り上げて火がついたが、第3次核危機は北朝鮮が核自衛力強化を打ち出してリードしている点が過去とは違う。

 次に、朝鮮半島の非核化と平和を保証していたこれまでの協定と合意がすべて無力化され、事実上、北朝鮮の核開発を統制できる枠がなくなったことが、これまでとは違った点だ。当時の北朝鮮は、韓国政府が大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)に全面的に参加することを宣言すると、「これ以上、停戦協定による拘束を受 けない。停戦協定が拘束力を失えば、法的見地において朝鮮半島はすぐさま戦争状態に戻るものであり、わが革命武力はそれによる軍事的行動へ移るだろう」と 明らかにした。国連安保理の制裁、6者協議での合意、南北合意に対し、北朝鮮がすべて拒否、または無効化を宣言することで、自らの行動を規制できる規制の枠から抜け出した。

 対北制裁局面と米朝間の攻防は、結局、対話へとつながった。オバマ政権は2009年12月、スティーブン・ボズワース国務省対北朝鮮政策代表を平壌に派遣、 北朝鮮が6者協議に復帰し、9.19共同声明を履行して非核化を推進すれば、米朝関係の正常化、体制の安全保障などによって北朝鮮が国際社会で発展できる ように支援するという内容を含めた親書を送った。北朝鮮も、米国が恒久的な平和条約締結を確約すれば、核の廃棄を行う準備にあるとの立場を明らかにした。

合意はあったが1度も論議されなかった平和協定(条約)

 オバマ政権による初の米朝対話で、米国が北朝鮮が要求する朝鮮半島平和体制に関する議論を受け入れ、北朝鮮が米国が要求する6者協議の再開と9.19共同声明の履行を受け入れることで合意した。

 北朝鮮は2010年の新年共同社説で「こんにち、朝鮮半島と地域の平和と安定を保証することにおける根本的な問題は、朝米間の敵対関係を終わらせるこ と」であり、「対話と協議によって朝鮮半島のしっかりとした平和体制づくりを行い、非核化を実現しようとするわれわれの立場は一貫している」と明らかにし た。朝鮮半島および東北アジア地域の平和と安定を保証するための根本的な問題として、米朝の敵対関係の終息を強調したものだった。

 そして2010年1月11日、北朝鮮外務省は停戦協定を平和協定に替えるための会談を公式的に提案した。この日の声明では、北朝鮮は「平和協定締結のための会談は、9.19共同声明で指摘された通り、別途に進めることができ、その性格と意義からすれば、現在進行中の朝米会談のように、朝鮮半島の非核化のための6者協議が持つ枠内で進めることができる」と明らかにした。6者協議の枠内で平和協定を論議するという米国の立場を受け入れる代わりに、平和協定締結に向けてスピードを出そうと、米国に要求した。

 しかし、李明博政権は「北朝鮮崩壊論」に傾き、独自的な米朝対話に反対し、米国も「戦略的忍耐」を打ち出し始めた。結果的に、北朝鮮が要求する平和協定締結のための議論は一度も行われなかった。

 このような過程において力を得たのが、いわゆる「中国役割論」だ。これの核心は、北朝鮮と経済的に密接な中国が北朝鮮をさらに圧迫し、北朝鮮に核を放棄させるように誘導すべきだ、というものだ。

 朴槿恵政権も2013年、中韓首脳会談で中国に対し「北朝鮮の核は不要」という表現を明文化するように要求したが、中国は「朝鮮半島三原則」(平和・安定、朝鮮半島非核化、対話と交渉による問題解決」を堅持し、6者協議をできるだけ早く再開することで北朝鮮の核問題を管理しようという既存の立場をより強 く、積極的に表明した。

 オバマ政権も北朝鮮の核開発を防ぐ実効的な政策がない状況であり、「戦略的忍耐」を打ち出して人権問題を通じて遠回しに北朝鮮へ圧力をかけ、経済制裁の効果を高めるために中国の対北支援の中断を促した。これに対し中国は、米国が中国に北朝鮮の非核化を実現するように要求することは「不可能な任務」と対抗した。

 それにもかかわらず、朴槿恵政権は北朝鮮が4回目の核実験を行う場合、中国が積極的に介入することで北朝鮮への実質的な制裁が可能となり、結果的に 非核化が早まるという「錯覚」に陥った。2014年、尹炳世(ユン・ビョンセ)外相は北朝鮮が4回目の核実験を行う場合、「想像できない代価」を支払うことになると述べ、「北朝鮮が現在の道に固執すれば、その道の果てが何かは歴史が教えてくれるだろう」と警告した。

 国内外の専門家の中には、中国の対北認識と忍耐心が3回目の核実験を契機に臨界点に達したと分析した者もいた。習近平体制で中国の対北政策は、過去とは違うものだという主張が相次いだ。

 しかし、4回目の核実験で明らかになったのは、中国が現実的に動員できる北朝鮮への影響力はかなり制限的であり、「朝鮮半島三原則」が変化する可能性はほとんどないということだ。中国は核実験に対し強い非難声明を出したが、それほど当惑した様子ではなかった。公式ルートで核実験の実施日時を通告されることはなかったが、非公式ルートで知っていた、あるいはある程度予想していたものと思われる。

 韓国と米国の期待とは違って、中国はこれまでの立場と少しも変わっていない。王毅外相は今回の核実験直後、朝鮮半島の非核化と平和安定、対話による問題 解決など、いわゆる中国の「北朝鮮核三原則」の一つも欠いてはいけないとアピールした。現在の複雑な情勢に対応し、核問題に関する交渉へ復帰することを進めるべきとの立場も明らかにした。今回の核実験に対する国連安保理中心の追加制裁に、一定の距離を置いたものだ。

 中国は2013年の3回目の核実験直後にも、安保理の対北制裁を履行するという範囲で、中国内の北朝鮮系銀行の対北送金の禁止、奢侈品・機械類の通関強化などの措置を発表した。だが、この措置は事実上、数カ月後にはうやむやになった。

 現在、中国の立場は明確だ。国連安保理において新たな対北制裁には賛成するが、韓米日が主導する超強硬な制裁は受け入れがたい。安保理が新たに制裁を決 議するかどうかという問題に対し、各国の考えと見方は必ずしも一致していないことは理解するが、国際社会の努力と広報は必ず明確に一致させるべきだ。そのため、対立を煽るのではなく、非核化という目標へしっかりと進むべきであり、このために各国に対し6者協議復帰を推進すべきだという立場だ。

 中国は朝鮮半島の核問題を適切に処理するため、建設的な役割を継続して果たす意思を持っているが、核問題の解決に最も重要なカギは米国が握っているため、米国が北朝鮮の安全保障における問題を解消できる措置を出すべきだと考えている。

「中国役割論」の破綻は米国と韓国のせい

 結局、北朝鮮の核実験にもかかわらず、中朝関係を敵対関係にはしないという中国の政策は変わらないように見える。このような側面から、北朝鮮の4回目の核実験は韓国と米国が期待する「中国役割論」の破綻を意味する。

 2009年5月、北朝鮮が2回目の核実験(第3次核危機の始まり)を行ったが、これはオバマ政権と李明博政権の「戦略的忍耐」「北朝鮮管理論」という戦略的利害関係を共有する中国は、北朝鮮の核開発を容認しないだろうという「主観的希望」が残っていたためだ。

 6者協議の議長国として、中国が朝鮮半島問題に対する発言権が強まったことは明らかだ。1990年代初頭、いわゆる第1次核危機が発生した当時、会談の主体は北朝鮮と米国であり、中国はお呼びではなかった。

 しかし、2002年に第2次核危機が発生した時に中国は多国間協議を提案し、03年8月から08年まで北朝鮮の核問題を解決するための6者協議を主導 し、「調整者」の役割を担った。北朝鮮も一定程度、中国の仲裁的な役割を認め、数回にわたって中朝首脳会談を通じて自らの立場を貫徹させるために努力した。特に習近平政権になって、中朝関係を再調整する一方で、北朝鮮と米国を説得して6者協議を再開しようとした。

 しかし、そこまでだった。米国は「中国役割論」を強調したが、中国が朝鮮半島の非核化に寄与する交渉カードを中国に与えないまま、対北圧力だけを注文した。李明博・朴槿恵政権も、北朝鮮の核問題解決だけを強調するだけで、北朝鮮が要求する平和協定締結には関心を持たなかった。

 北朝鮮が2015年1月、米韓合同軍事演習を一時的に中止すれば核実験も一時中止するという提案を、米韓当局は拒否した。同年10月、平和協定に同意 すれば米国と対話する用意があるという北朝鮮の提案も、米国はすぐさま拒否した。米国と韓国は中国に対北圧迫だけを要求し、北朝鮮と交渉できる空間を開くことはなかった。

 この点で、「中国役割論」の破綻は、逆説的に米国と韓国がそのきっかけを提供し、北朝鮮による4回目の核実験はそれを確認させるものにすぎなかったのだ。

対話局面への転換、4月が分水嶺

 米国はトニー・ブリンケン国務省副長官の訪中に続き、ジョン・ケリー・国務長官が直接訪中してより強い対北制裁への参加に圧力をかけるものと予想され る。とはいえ、独自の対北制裁そのものを米国による中朝離間策としてみる中国が、韓米日の3カ国協調の中で地政学的緩衝地帯である北朝鮮を放棄すること はないだろう。北朝鮮も核実験を前に、このような状況を十分に考慮したはずだ。

 当分、オバマ政権は国連と米国を中心とする多国間、あるいは両者間の制裁を強化することで、北朝鮮が「イラン式モデル」に従うように圧力をかけるだろう。問題は、国連決議案が出た後のことだ。

 オバマ政権は北朝鮮による4回目の核実験移行、保守・革新の双方から「北朝鮮失敗論」に直面し、混乱した状況に置かれた。2016年下半期に行われる大統領選挙を前に、北朝鮮問題が争点化されることは避けたいだろう。

 特に2月末から始まる「キーリゾルブ演習」と「イーグル演習」では米国の戦略兵器が展開され、武力による圧力をかける場合、朝鮮半島はどの時よりも高い緊張を強いられる。4月の韓国総選挙を前にした朴槿恵政権だけでなく、米国、中国の悩みも深まるほかない。

 逆説的に、過去のケースからわかるように、朝鮮半島における緊張の高まりは、対話局面への転換をはらんでいる。4月を起点に緊張局面から対話局面に転換されうる要因だ。

 北朝鮮もまた、5月初旬に36年ぶりの労働党大会を開催する。北朝鮮の核実験以降、韓米合同軍事演習と自らの核実験をともに中断し、米朝平和協定を結ぼうとするこれまでの提案を行った。

 外務省報道官は「朝鮮半島と東北アジアの平和と安定のため、われわれが提案した米国の合同軍事演習の中止とわれわれの核実験中止という提案と、平和協定 締結という提案を含むすべての提案は今でも有効だ」と明らかにしている。国際社会の対北制裁については、強硬対応するという脅しをかけながらも、徐々に平和攻勢に出て行くという北朝鮮の意図がうかがえる。

 いまや任期もそれほど残されていないオバマ政権と朴槿恵大統領は、どのような選択をするだろうか。すでに破綻した「北朝鮮管理論」「北朝鮮崩壊論」「中 国役割論」をひたすらひきずっていくことはできないだろう。なによりも、朝鮮半島の非核化のためには、まず北朝鮮による核開発の凍結から始めるべきだと いう、冷酷な現実を受け入れなければならない。もちろん、このためには北朝鮮の要求の一部を受け入れざるを得ないだろう。保守政権のこれまでの8 年間、北朝鮮の核開発を事実上、放置した結果だ。

(『統一ニュース』2016年1月18日)


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