昌鉉の『これからの北朝鮮を読み解く』

2 北朝鮮はなぜ外交攻勢ではなく核実験を選択したのか

鄭昌鉉の『これからの北朝鮮を読み解く』| 2016年05月22日(日)

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 北朝鮮が1月6日、4回目の核実験を実施した。実験直後、北朝鮮は「最初の水素爆弾試験が正常に行われた。新しく開発された試験用水素爆弾の技術使用が正確であることを完全に確証された」と発表した。

 2015年5月に核融合反応に成功したと発表して以来、5年8カ月経った。14年3月末に「核抑止力をさらに強化するために、新たな形態の核実験も排除しない」と宣言してから約2年経っている。

 今回の核実験について、専門家の大多数が核融合反応を基本とする水素爆弾ではなく、増幅核分裂弾(原子爆弾の核分裂を利用する基本的な技術に、重水素を用いて爆発力を増幅させたもの)である可能性が高いと評価している。

 水素爆弾であれ増幅核分裂弾であれ、今回の核実験で北朝鮮がプルトニウムを使った原子爆弾、そしてウラン利用の原子爆弾に続き、水素爆弾に至るという一般的な核開発の手順を踏んでおり、核弾頭の小型化・軽量化・多種化の技術において相当なレベルに上がったということは明らかだ。

 2016年の新年の辞を分析し、筆者は5月初旬に開催予定の朝鮮労働党第7回大会が開催されるまで、北朝鮮が国際的孤立からの脱却と経済建設のための対外環境づくりを目指して積極的な外交攻勢に出るだろうと予測した。しかし、北朝鮮は外交攻勢ではなくて、核武力を誇示する行動に出た。

 今回の核実験実施は、ある程度予告された行動だ。2014年に始まった「4月危機」から、15年に党創建70周年を迎え、さらに韓国と米国による「戦略的挑発説」まで、北朝鮮が核実験を行う可能性は継続して取りざたされてきた。実際に、北朝鮮は自分たちの戦略的選択に応じていつでも核実験を行えるように準備してきた。

 問題は、なぜ今なのか、ということだ。2014年4月、北朝鮮のリ・ドンイル国連代表部次席大使は、次のような興味深い発言を行った。

 「北朝鮮は米国の敵視政策に対し、すでにレッドラインを引いておいた。米国はこれを超えてはならない。超える場合、われわれがどのような対応措置を執ると米国は知っている」

 米国が新たな方式で北朝鮮の政権交代を狙っていると非難しながら、政権交代を行おうとするどんな試みについても、レッドラインを超えるものと見なすとい う内容だった。このような論理通りであれば、北朝鮮が想定したレッドラインを米国が超えたので核実験を行ったということになる。では、2015年に何が起きたのだろうか。

 北朝鮮の朝鮮中央通信が金正恩第1書記の水素爆弾発言を報道したのは、2015年12月10日。北朝鮮メディアの慣行を考慮すれば、12月9日にこの発言が実際に出されたことになる。金第1書記は平壌・平川革命史跡地を視察し、「今日のわれわれ祖国は、国の自主権と民族の尊厳をしっかり守る水素爆弾の巨大な爆音を鳴らすことができる強大な核保有国になりうる」と明らかにした。

 金第1書記の水素爆弾発言は、米財務省が12月8日(現地時間)、北朝鮮の戦略軍をはじめとする団体4カ所と個人6人を制裁対象に追加指定した直後に出てきた。米国の追加制裁は、北朝鮮の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を試験発射したことに対応したものだった。

 それから6日後、金第1書記は「最初の水素爆弾を行うことに対する命令」を下した。「水素爆弾発言」が思いつきで出たことではないことになる。

米国の追加制裁への対抗措置として核実験を実施

 形態的には、過去、北朝鮮の核実験は長距離ロケットを発射後、国連の対北朝鮮制裁に対応するため実施されたが、今回はSLBM発射後になされた米国の制裁に対抗するために核実験を実施したものとなる。

 北朝鮮によるこのような対応は、別に目新しいものではない。2012年4月、金第1書記は公開の場で行った初めての演説の中で、「強盛国家建設 と人民生活の向上を総的目標としているわが党と共和国政府において、平和はなによりも貴重だ」と述べ、平和の重要性に言及したが、「われわれには民族の尊厳と国の自主権がより貴重だ」と述べ、自主権をより強調した。

 北朝鮮は衛星搭載ロケットの発射やSLBM発射も自主権として合理化している。今回の核実験にも、北朝鮮は「米帝と帝国主義者による核戦争の危険から、 国の自主権と民族の生存権を徹底して守り、朝鮮半島の平和と地域の安全をより確かにするための自衛的措置」であることを強調している。

 つまり、北朝鮮は自主権と自衛権のうちと主張するミサイル開発に対して、米国が制裁を、しかもミサイル部隊を指揮総括する戦略軍を制裁対象にした後に、すぐさま核実験を決定したことになる。

 特に、北朝鮮が2016年の新年の辞で、米国が停戦協定を平和協定に替え、平和的環境を用意しようという北朝鮮側の提案を受け入れていないことに対して批判するものの、さらなる要求を出していないことが注目される。

 北朝鮮は2015年1月9日、米国が合同軍事演習を一時停止すると、米国が懸念する核実験を一時的に停止する対応措置を執る用意があると述べ、そのための協議を提案している。

 2015年1月18日にシンガポールで、北朝鮮のリ・ヨンホ副外相と会った米国のジョセフ・デトラニ国家情報局(DNI)非拡散センター元所長も、「リ副外相が韓米合同軍事訓練の中断の代価として、核実験とともに核弾頭の小型化への努力を中断すると提案してきた」と明らかにしている。しかし、米国はこの提案を拒否し、ソン・キム国務省北朝鮮政策特別代表の平壌訪問も実現しなかった。

 すると北朝鮮は、米韓合同軍事演習終了直後の5月9日、「SLBM水中試験発射」を行って米国に圧力をかけた。北朝鮮は2013年3月に「経済と核建設 の併進路線」を採択し、「精密化・小型化された核兵器とその運搬手段をさらに製造し、核兵器技術を絶えず発展させ、より威力のある核兵器を積極的に開発すべき」と強調した。SLBM発射は、核兵器の運搬手段における多様化段階に入ったことを示すものである。

 2015年に南北間で8.25合意が成立した後、北朝鮮はリ・スヨン外相の国連総会演説と外務省報道官声明を通じて、平和協定の締結を再び提案している。

 北朝鮮は「平和協定が締結され、すべての問題の発生源である米国の敵視政策が収束したことを確認できれば、米国との懸念事項を含むすべての問題において妥結する ことができる」とし、先平和協定、後非核化への議論を提案した。米国は「停戦体制に代替する平和体制に移行とすれば、その前に非核化の主要問題において重要な進展があるべきだ」とこれまでの立場で対応した。

 2015年の韓米首脳会談でも、両国は北朝鮮の戦略的挑発を抑制するために国際社会で協調を強化することのみをアピールし、圧迫で生じる北朝鮮の変化に焦点を合わせ た。そして同年11月11日、両国は「実質的な(対北朝鮮)制裁措置が継続して行われるべき」と合意、2日後に米国は北朝鮮のキム・ソクチョル駐ミャン マー大使など北朝鮮人4人と北朝鮮企業1社を制裁対象に追加した。

 北朝鮮はこれに反発して11月、12月とSLBMを発射したが、米国の政策変化を引き出すことはできなかった。

 こうしてみると、今回の核実験は、2015年に米国に向けた対話攻勢と圧迫政策によって、現時点では成果を出すことは難しいと判断、より強硬な対米圧迫政策を実施することを決定したと言える。とはいえ、すぐさま米国が交渉に乗り出すことはないが、北朝鮮自らの核能力がより小型化・軽量化・多種化されているこ とをアピールすることで、米国の「戦略的忍耐」や人権問題など北朝鮮に圧力をかける政策が現実的な実効性がないことをみせつけようとしたのである。

 もちろん、2016年1月3日に、金第1書記が最終的に命令書に署名し、6日に核実験を実施したのは、同年5月初旬に開催される党大会を念頭に置いたものである。

 北朝鮮は2015年10月に党創建70周年を記念する軍事パレードに、中国共産党政治局の劉雲山常務委員が出席したことで、中朝関係の回復と中朝首脳会談を模索したと思われる。しかし、事前行事として企画されたモランボン楽団の訪中公演が取りやめになるという突発事態が発生し、対中外交が思うように進めることができなくなった。12月11〜12日にようやく実現された南北次官級会談も、なんら成果なく決裂した。北朝鮮としては、朴槿恵政権が米国の圧力によって金剛山観光の再開も受け入れることができないことを確認することになった。

 専門家の大多数が、北朝鮮が党大会前に中朝首脳会談と南北対話を推進すると予測したが、「主観的希望」が含まれた見通しに過ぎなかった。

韓米合同軍事演習期間までは無策のまま

 2月に韓米合同軍事演習が始まり、それが4月初旬まで続く。例年通り、南北間には緊張局面が支配的になるほかない。また、韓国では4月に総選挙が行われる。このような状況では、北朝鮮は積極的な外交攻勢や南北対話においてこれといった成果を出せないと判断したのだろう。

 また、2016年末に大統領選挙を控えるオバマ政権と対話の道筋を開くことができるのは、今年上半期までだ。オバマ政権が交渉に応じない場合、自分たちの核能力を最大限に引き上げ、次期政権との交渉に備えようという布陣もすでに敷かれている。

 今回の核実験が戦略的選択に沿って行われたことは、一方では実際の選択以外にも、北朝鮮は局面を展開できるカードも用意していたのだ。これまで、北朝鮮の選択には常に「瀬戸際戦術」という評価がなされてきたが、北朝鮮は1990年代に核問題が発生した後、これまで一度も崖っぷちに立ったことがない。常に 強硬・穏健策を駆使し、局面を転換させてきた。

 もちろん、韓米合同軍事演習期間まで、これといった策はない。米国と韓国は日本も含めて国連安保理など対北追加制裁と実行力のある圧力を行うために、中国に対し「建設的役割」を引き出そうとするだろう。

 中国とロシアも、国連安保理レベルでの対北追加制裁には同意する立場だ。しかし、実際には北朝鮮に対し軍事的な報復以外に方法はなく、中国が協力しない経済制裁については、今以上、やれることはない状況だ。

 中国とロシアは国連安保理決議レベルでの対北制裁には賛同するが、北朝鮮問題と核問題は分離対応するという原則に変わりはない。両国は北朝鮮の核実験について外交当局を通じた国際協力に踏み出すが、北朝鮮との経済協力は維持されるだろう。

 2月末に韓米合同軍事演習が始まり、これに核ミサイルを搭載した米国の戦略兵器と空母が参加する場合、北朝鮮の対応次第で朝鮮半島は一触即発の緊張局面を迎えることになりうる。北朝鮮は2015年8月の最高司令官命令で、準戦時状態を宣言し、図上演習まで終えている。

 逆説的に、韓米合同軍事演習期間に生じた緊張局面は、「核実験政局」の終結と新たな転換を模索する局面につながる可能性が大きい。4月の韓国総選挙が近づくると、北朝鮮の核対応は後回しにされ、国内政治の与野党対立が激しくなるだけだろう。北朝鮮は5月初旬の党大会前に、局面を展開する必要がある。 そのころには、北朝鮮は再び核実験と核弾頭の小型化開発の中止を餌に、米国の対北敵視政策破棄と平和協定への議論を要求することもありうる。

 緊張局面にどううまく対応するかについては、消極的で短期的な対応策に過ぎない。根本的な解決策は、北朝鮮崩壊論から脱却した長期的和平プロセスを一貫して推進するほかに策はない。

(『統一ニュース』2016年1月11日)


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