昌鉉の『これからの北朝鮮を読み解く』

7 北朝鮮の国家機関はどう変ったか

トピックス|鄭昌鉉の『これからの北朝鮮を読み解く』| 2016年07月01日(金)

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 北朝鮮が6月29日に開催された最高人民会議第13期第4回会議で、憲法改正によって新たに国家機関を整備した。今年5月の第7回朝鮮労働党大会で労働党を改編したことに続き、国家機関を新たに改編したことになる。

 今回の改編で最もはっきりした特徴は、国防委員会を廃止し、国務委員会を新設したことだ。国務委員会は「国家主権の最高政策的指導機関」とし、「国防建設事業をはじめ国家の重要な政策を討議・決定」するようになる。

 国務委員会という名称は、第7回党大会で労働党中央委員会傘下に新設された政務局と一致させたものと思われる。労働党政務局が党として指導し、国務委員会が政策を執行する構図だ。

国務委員会の機能と役割

 新設された国務委員会は1972年の社会主義憲法改正とともに、「国家主権の最高指導機関」として作られた中央人民委員会を連想させる。

 中央人民委員会は国家の政策と執行のための対策を立案する役割を果たしながら、同委員会委員長である「共和国主席」を補佐する機能を行い、1997年の憲法改正で金日成主席が「永遠なる主席」に推戴されたことで廃止され、その役割は最高人民会議常任委員会へ移った。対外的な国家首班の役割も主席から最高人民会議常任委員長が行うようになった。

 その代わり、金正日は中央人民委員会の傘下機関だった国防委員会の役割を拡大し、国防委員長の職責をもって最高領導者の役割を遂行した。

 ところで、今回、北朝鮮は国務委員会を新設し、過去に存在した中央人民委員会が持っていた機能と権限を与えられたものと思われる。

 このため、最高人民会議常任委員会は1972年以前の最高人民会議が休会中だったとき、最高主権機関として機能していた最高人己会議常設会議の役割としてその位相が縮小されたのだろう。ただ、最高人民会議常任委員長が対外的な国家首班としての地位は維持される。

 最高人民会議常任委員会は、最高人民会議が休会中の最高主権機関として北朝鮮憲法第112条に規定されている。この規定は、今回は変わらなかった。1972年に中央人民委員会が設置されたことで廃しされた最高人民会議常設会議の時期にも、対外的な国家首班は最高人民会議常設会議議長が引き受けていた。

 すなわち、新設された国務委員会は機能的に、あるいは意思決定構造の側面からは中央人民委員会と似ており、最高領導者と対外的国家首班が分離された側面においては1972年社会主義憲法の改正以前の時期、および1997年の改正憲法以降の時期の機関編成と似ていると言える。

 国務委員会の人的構成でも、そんな側面から出ている。同委員会委員長にはもちろん金正恩国防委員会第1委員長が推戴された。新設された国務委員長は「朝鮮民主主義人民共和国最高領導者」として、「全般的な武力の最高司令官であり、国家の一体武力を指揮統率」し、単純に国務委員会の事業を指導するのではなく、「国家の全般事業を指導」し、国家の主要幹部を任命・解任できる権限が与えられた。

 国務委員会副委員長には、人民軍総政治局の黄炳瑞局長と労働党中央委員会副委員長の崔竜海氏、内閣総理の朴奉珠氏が選出された。国務委員には労働党中央委員会副委員長のうち、宣伝担当の金己男をはじめ軍需工業担当のリ・マンゴン、対南担当のキム・ヨンチョル、国際担当のリ・スヨン、そしてリ・ヨンホ外相、パク・ヨンシク人民武力部長、キム・ウォンホン国家安全保衛部長、チェ・プイル人民保安部長が選ばれた。党と内閣の主要人物、軍・行政の責任者、「政治保衛機関」責任者が網羅されたことになる。

国務委員長の権限強化

 金正日時代に「国家主権の最高軍事指導機関であり、全般的な国防管理機関」だった国防委員会の権限と比べて見ると、国防委員会は「国家の全般的な武力と国防建設事業を指導する」と規定されているが、国務委員会は「国防建設事業をはじめ国家の重要政策を討議・決定する」と縮小し、「国家の全般的武力建設事業」は党中央軍事委員会へ権限と任務が移管されたものと思われる。

 ただ、平時には国防委員会が廃止されたが、戦時には国務委員長が「国家防衛委員会」を組織できるようにされた。

 特に、以前の憲法では国防委員会第1委員長の権限の一つとして「国防部門の重要幹部を任命、または解任」できるように規定されていたが、今回新設された国務委員長については、「国家の重要幹部を任命、または解任」するに変更され、国防部門に限定されていた人事権の行使範囲を全領域へと拡大した。最高人民会議、最高人民会議常任委員会が持っていた権限が国務委員長に移管されたことになる。

 もちろん、過去にも主要幹部人事は労働党組織指導部の人選案を受けて労働党委員長が決定していたが、任命の主体が最高人民会議(最高人民会議常任委員会)から国務委員長に集中された。

 国務委員長の北朝鮮憲法上の任期は、最高人民会議の任期と同じ5年(憲法第101条)だ。したがって、今後5年ごとに最高人民委員会を通じ任期を延長していくのだろう。

 金正日時代では先軍政治の象徴的な機関だった国防委員会の廃止は、金日成時代への回帰、「党・国家体制」の正常化と評価できるだろう。北朝鮮は2009年、金正恩委員長が後継者として決定された直後に後継体制の確立を推進し、党と内閣の政策担当者が幅広く参加したなか、新たな政策の方向性を論議・用意したとされている。

 当時確定された基本的な政策の方向性は、金日成時代の党と国政運営システムを基本としながら、状況の変化を反映するというものだった。このような基本的方向性が、5月の第7回党大会と今回の国家機関改編に反映されたものと思われる。

祖国平和統一委員会が国家機関へ昇格

 国防建設をはじめ統一や外交、経済分野を総括する機能と役割を与えられた国務委員会は、今後、労働党の政策と路線を国家機関レベルで協議・審議し、執行を監督する役割を行うものと予想される。

 国務委員会の新設とともに、党の外郭機関だった祖国平和統一委員会を国家機関に昇格させた点も注目される。これまで問題となっていた「統一部・統一戦線部ライン」、すなわち韓国は行政府の統一省、北朝鮮は労働党の統一戦線部の地位的な問題から生じる不意位置を解消し、祖国平和統一委員会を正式な国家機関として置き、南北対話と交流の前面に打ち出すという意図が垣間見える。統一相と祖国平和統一委員会委員長、または副委員長が対話のカウンタパートになるということだ。

 これについて統一省は「対南業務を管掌する祖国平和統一委員会を外郭機関から正式な国家機関に昇格させたことは、金正恩が党大会で提示した統一課業を貫徹するため、統一戦線構成を強化しようとするもの。今後、この機関で対南政策や対話に関連する組織を一元化するということだろう」と予測する。

 北朝鮮が今後、南北対話を円滑に進めようと、事前に態勢整備を行ったものと考えられる点だ。

 祖国平和統一委員会は内閣ではなく、国務委員会傘下となるだろう。過去、中央人民委員会傘下にも統一政策委員会が設置され、党の対南担当書記(現在の党中央委員会副委員長)が委員長となるケースがあった。

 ただ、実務の総括部署である書記局が廃止され、北朝鮮内部ではかえって機能が縮小された側面もある。北朝鮮は最近、これまで対南交流を担当していた朝鮮アジア太平洋平和委員会、民族和解協議会など党の外郭団体を縮小、あるいは解体しようとする動きが見られる。

 祖国平和統一委員会が国務委員会傘下となったことが事実であれば、過去、中央人民委員会が存在していた時期のように、必要によって国務委員会傘下に外交委員会、経済政策委員会などを設置し、政策協議を強化する可能性もある。

経済建設に集中しながら対外・対南関係の改善を模索

 今回の国家機関の改編によって、4年ほどの過渡期を終わらせ、党、軍に金正恩委員長の「唯一領導体制」をしっかりと確立した北朝鮮は、今後は経済活性化とこのための対外環境づくりにより積極的になりうる対内的条件を用意したものと思われる。

 これを基に、北朝鮮はまず人民経済の活性化に注力するだろう。今回の最高人民会議第13期第4回会議では、今年5月の第7回党大会で提示された国家経済発展5カ年戦略(2016〜20)を徹底して遂行することにした。最高人民会議では「朝鮮労働党が提示した国家経済発展5カ年戦略を徹底して遂行するために」という法令まで採択された。

 国家経済発展5カ年戦略の目標は、「人民経済全般を活性化し、経済部門間の均衡を保障し、国の経済を持続的に発展させることができる土台を用意すること」だ。

 北朝鮮が「経済部門別の均衡保障」を強調した理由は、2012年までにすべての経済部門で社会主義圏が崩壊し始めた1989年の経済レベルの突破を目標とし、08年から5年間努力してきたが、依然として目標を達成した部門と未達な部門との格差が大きいためだ。特に、経済再建のカギとなるエネルギー問題が足かせとなっている。

 北朝鮮はこれを解決するため、党の経済・核併進路線を中心として、エネルギー問題の解決と人民経済の先行部門、基礎工業部門の正常化、農業・軽工業生産の増産などを中心的課業とした。

 また、副総理兼農業相を交替し、軽工業相出身のイ・ジュオを新たに副総理に任命したことは、農業と畜産、水産の三大軸として食糧の問題を解決し、軽工業の発展を通じた日用品の問題を基本的に解決することで、人民生活の向上へと決定的に転換できるようにするための布石だと思われる。

 そして、政府レベルの対話と民間レベルの交流を中心として対南対話構成をさらに強化するだろう。祖国平和統一委員会の国家機関への昇格がその布石だ。

 北朝鮮はすでに今年6月9日、「共和国政府、政党、団体連席会議」を開き、「全体朝鮮民族に送るアピール」を採択し、全民族的な統一大会合の開催を提案した。このため、6月27日には「朝鮮半島の平和と自主統一のための北、南、海外諸政党、団体、個別人士の連席会議」を推進するため、北側準備委員会の結成まで行った。

 さらに、国際社会の対北制裁から脱皮することと対外投資を誘致するための外交を強化するものと予想される。リ・ヨンホ外相の国務委員任命はこれをよく示している。

 特に2014年下半期に「首脳外交」を模索したものの核実験を実施する方向に旋回した金正恩委員長が、再び「首脳外交」に乗り出そうとする動きを見せるか注目される。

 北朝鮮がこれまで「米国の対北敵対視政策が終わる時(平和協定の締結と安定的な平和体制の構築時期)になってこそ、朝鮮半島の非核化への議論が可能」とし、「朝鮮の非核化を論議する6者協議を行う考えは今はない」という立場を堅持しているが、さらなる核実験の凍結を媒介とする中国とロシアとの首脳会談を推進する可能性は依然として残されている。
(韓国『統一ニュース』2016年7月1日)


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